民法の改正によって、嫡出子と非嫡出子の相続によってもらえる財産の額は同じになりました。嫡出子か非嫡出子かどうかを判断する根拠も法律には定められています。非嫡出子でも、きちんと権利行使をしましょう。
法律の制度に則って結婚した夫婦に子どもができた場合、その子どもは「嫡出子」と呼ばれます。
一方、世の中には婚姻関係を結ばずに実質上の夫婦関係を営んでいる男女もたくさんおり、そういう男女の間にも多数の子どもが生まれています。その子どものことを「非嫡出子」と呼ぶのですが、嫡出子と非嫡出子では法律で扱われ方が異なることに注意しましょう。
日本では嫡出子の方が圧倒的多数ですが、価値観や社会状況の変化もあって、非嫡出子の数も増えている状況です。大きくなってから自分が非嫡出子だということに気付くというケースもあるでしょう。そういう時に親の遺産をきちんともらうためにも、知っておくべきことを押さえておきましょう。
1. 相続に格差があった嫡出子と非嫡出子
嫡出子と非嫡出子では相続において扱われ方が大きく異なっていました。民法は平成25年(2013年)に改正されたのですが、それまでは嫡出子か非嫡出子かによって相続で受け取れる財産が異なっていたのです。具体的には、非嫡出子が相続できる財産は嫡出子の2分の1でした。
ところが、平成25年の民法の改正によって、嫡出子でも非嫡出子でも相続できる財産の額はどちらも同じになりました。憲法14条には法の下の平等がきちんと定められていますが、非嫡出子だからといってもらえる財産が嫡出子より少ないというのは、憲法のこの条項に反するとの判断がなされた結果です。
したがって、民法が改正される前までは、たとえば相続できる財産の合計が1200万円だった場合、非嫡出子が相続できる金額は200万円だったのです。一方、嫡出子の子どもは400万円でした。それが、民法の改正によって、どちらも300万円になったのです。
配偶者が受け取れるのは財産の2分の1の600万円であるということは、民法改正前も改正後も変わりません。子どもが相続できる財産はその残りの2分の1です。その2分の1の分け方の割合が、嫡出子と非嫡出子で割合が異なっていたわけですが、今ではどちらも同じ額になりました。
ただし、改定後の民法が適用されるケースには限りがあります。それは、相続を開始した年月日が平成25年(2013年)9月5日以降の場合です。
2. 嫡出子とは
嫡出子には3種類の分類があります。
一つは「推定される嫡出子」と言って、生まれた子どもが嫡出子ということが確実に推定される場合です。具体的には、婚姻関係中に妻が妊娠した場合、その子どもはその夫婦の嫡出子と推定されます。
また、婚姻関係が成立して200日目以降に子どもが生まれた場合、その子どもは推定される嫡出子になります。さらに、離婚が成立して以降も、その離婚成立から300日以内に子どもが生まれた場合は、その子どもは離婚するまでに成立していた婚姻関係の夫婦の嫡出子となります。
次に、「推定されない嫡出子」という分類もあります。婚姻関係があった夫婦の間に生まれた子どもであっても、上に述べた推定される嫡出子の期間以外の範囲で生まれた場合は、法律的には嫡出子と推定できません。ただ、これは推定されないというだけであって、出生届を出して嫡出子として申請すれば、その子どもは嫡出子になります。
もう一つの分類に「推定の及ばない嫡出子」というものがあります。このケースでは、たとえば妻が出産した時にすでに夫婦関係が破綻しており、事実上離婚状態であるようなケースです。また、妻が出産した時点で、夫がどこにいるのかわからない行方不明の状態でも、嫡出子であるかどうかが推定できません。
ただ、このように推定が及ばないケースであっても、出生届で嫡出子として提出することによって、その子どもは嫡出子です。
3. 非嫡出子とは?相続で差別されていたことは人権侵害であったこと
こういった嫡出子以外の子は、非嫡出子です。婚姻関係がない父母の子が非嫡出子ですので、事実婚でもそうなります。
そして、父がだれなのかを法律によって認めてもらうには、父親が認知する必要があります。
また、再婚で夫婦どちらかに連れ子がいるケースでは、新しい親とその子どもの関係は、法律上は他人です。つまり、嫡出子ではないのです。法律上も実の親子として認めてもらうためには、養子縁組という制度を利用する必要があります。
憲法14条と婚外子差別
日本では、婚外子が差別されることが長くありました。住民票の世帯主との続柄表記や、戸籍の父母との続柄表記について、違憲または違法判断が先にされていました。そして、法改正がされましたが、相続についての差別は合憲とされている時代が続いたのです。
婚姻関係になかったフィリピン国籍の母と日本国籍を有する父の間に生まれて、父に認知された子どもの国籍取得について、準正子は国籍が取得できるのに、非準正子は国籍が取得できないとした当時の国籍法 3 条 1 項の規定を、合理的な理由のない差別であって、法の下の平等を定める憲法 14 条 1 項に違反すると最高裁が判断するに至りました。
その後、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の 2 文の 1 とする民法 900 条 4 号ただし書きについては、最高裁でもこれを合憲とする判決がなされていました。
しかし、とうとう2013年に、この点の違憲判決がでたのです。この最高裁判決は「〔民法 900 条 4 号ただし書き〕の存在自体がその出生時から嫡出でない子に対する差別意識を生じさせかねない」として、民法制定時から現在に至るまでの間の社会の動向、家族形態の多様性や国民の意識の変化、諸外国の立法の趨勢や日本が批准した条約の内容などを総合的に考察して「家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことが明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考え方が確立してきている」としました。
子にとっては全くどうしようもない事柄で、異母兄弟姉妹と区別されるということが、憲法14条に反するのは当然であり、2013年まで法律婚の尊重と言う制度が憲法14条に勝るという判断がされていたことの方が驚きです。日本民法では、この差別は明治民法制定以来のものであり、婚姻の尊重」という立場から婚外子の相続権を完全に否定する立場も当時はあったそうです。そして、この2013年最高裁判決まで、婚外子の法律上の差別は「法律婚の尊重」と言う理由から正当化されてきてしまったのですが、その歴史がやっと2013年に幕を下ろしたのです。よって、婚外子の方も正々堂々と相続分や遺留分の主張をするべきです。
4. 認知とは?
先ほど、非嫡出子が嫡出子になるためには父親の認知が必要と述べましたが、その「認知」とは具体的にどういうことでしょうか。法律的には、婚姻関係のない男女間に子どもが生まれた場合、その男性によって子どもを自分の子だと認める行為のことです。
したがって、女性には子どもの認知ということはありません。なぜなら、自分が出産した子どもであることは火を見るより明らかだからです。したがって、亡くなった母親の財産を相続する場合、非嫡出子であっても、相続放棄や欠格事由など特別な場合を除けば、相続人に自動的になります。
ところが、父親と子どもの間には出産という明らかな事実がないため、非嫡出子である場合は法律上親子関係でなくそれを親子関係であると認めてもらうには、男性によって認知が行われなければならないのです。
その認知とは、単に男性が自分の子だと認めるだけでなく、法律上の手続きが必要になります。具体的には、子どもの戸籍上の本籍地のある役場に認知届を提出し、それが正式に受理された場合です。これによって、その子どもは法律上もその父親の子どもとして認められます。
上記の手続きを「任意認知」といいますが、一方、子どもを出産する前に認知するケースもあります。その場合、子どもがまだ胎児の状態ですので、任意認知ではなく「胎児認知」となります。任意認知に母親の同意は必要ありませんが、胎児認知には必要です。
認知によって親子関係が法律的にも認められるようになれば、子どもは父親の財産が相続できるようになるとともに、扶養請求を行うこともできます。ところが、父親の認知がなければ、母親はその男性が子どもの父親であることを確信していても、扶養請求を行うことができません。
認知を拒否する男性には、裁判によって強制的に認知させることも可能です。認知によって親子関係が正式に認められると、父親に対して扶養請求ができるようになりますし、相続人であることが明らかになります。
民法が改正されたことによって嫡出子と非嫡出子の相続による格差はある程度解消されましたが、まだ父親の認知がされているかによって、複雑な問題が出てきます。認知をされていない子は、認知を求めてから相続の権利を行使する必要があるのです。
父親の死亡の日から3年以内の期間であれば、非嫡出子本人(または非嫡出子の直系卑属や法定代理人)が、裁判所に「死後認知」の訴えを提起して、強制的に認知させることが可能なのです。これを死後認知と呼びます。死後認知が認められれば、出生時にさかのぼって父親と非嫡出子の親子関係が成立します。
相続では、非嫡出子であっても他の子と同じ権利があるので、権利をきちんと行使しましょう。権利行使の実現には、認知が必要ですし、他の相続人との交渉が必要なので、早めに弁護士に相談しましょう。