遺言書で相続割合を指定できる「指定相続」とは?弁護士が解説します。

指定相続とは、遺言書で財産の相続割合を指定できる相続のことです。指定相続をするなら、確実に意向を反映できる公正証書遺言などの作成をおすすめします。弁護士に相談すると、相続割合の決め方や遺言書の作成方法、争いにならない遺言作成の方法を相談できるので安心です。

1. 指定相続分と法定相続分の違いとは

「指定相続分」と「法定相続分」の違いをご存知でしょうか。一番の違いは、相続財産を分配する割合を誰が決めたかということです。

1-1. 相続分とは

そもそもご家族の一人が亡くなると、その方の財産を残されたご家族が相続します。残されたご家族が複数いる場合は財産を分けることになりますが、一人一人が相続する割合を「相続分」と呼びます。

1-2. 指定相続分

「指定相続分」とは、財産の相続割合を亡くなった方が生前に指定しておいたものです。亡くなった方の意向が尊重されるので、法定相続分よりも効力を発揮します。

1-3. 法定相続分

「法定相続分」とは、民法によって定められたものです。亡くなった方が指定相続をしなかった場合、財産の分け方は法定相続分に基づいて決められます。

2. 指定相続をする方法とは

法定相続分とは異なる財産の分け方をしたい場合、指定相続をするのが望ましいですが、その方法はどのようなものなのでしょうか。

2-1. 遺言書を作成する

指定相続を行うためには、遺言書を作成する必要があります。遺言書に、誰にどんな割合で財産を相続させるかを記載しましょう。ここで、気を付けなければならないことが3点あります。

2-2. 誰が読んでも一つの解釈しかできない相続割合の表現を心がける

残されたご家族が遺言書を読む時には、当然のことながら、書いた本人は亡くなっているので説明することはできません。また、残されたご家族は誰しも、できるだけ多く財産を多く相続したいという欲が出てしまうことが考えられます。そのため、遺言書の表現はさまざまな解釈ができてしまうようでは不適切です。誰が読んでも一つの解釈しかできない相続割合の表現を心がけましょう。

2-3. 遺留分の侵害を行わない

「遺留分」とは法定相続分の一部のことで、法定相続人であれば必ず相続できる割合のことを言います。そのため、法定相続人であるにも関わらず、そのご家族にまったく財産を相続させないということであれば、生前にその理由を伝えておきましょう。

もし、法定相続人の遺留分が侵害されていることを知らないまま遺言書を見ることになったら、トラブルになりかねません。また、そのご家族は遺留分減殺請求権を行使して、遺留分を相続しようとするでしょうから、むしろ、紛争を起こしてしまいます。

ただし、遺留分は必ず相続できるものではありません。遺留分を侵害された人が請求して、初めて相続できるようになりますから、その人が先に納得していたら紛争は起きません。遺留分を侵害している遺言書でも、その内容は無効にはなりません。

2-4. 第三者に委託することも可能

遺言書では誰にどれだけの相続財産を相続させるか割合を指定すること以外に、指定する権利を第三者に委託することができます。相続財産の中身がすぐに現金化することが難しい不動産や、価値の変動が激しい株や証券の場合、生前にどうやって分けるかの割合を決めがたいこともあります。

そんな時には、遺言書に「私Aマンションの分配は、相続人である妻Bに一任する」と書くことによって、残された妻に相続財産を分割・指定する権利を引き継ぐことができるのです。その際に、一任するもののどういうルールで分けてほしいかを書くこともできます。

3. 公正証書遺言を作成するのがおすすめ

遺言書は、その作成方法によって3種類に分かれます。指定相続をする際におすすめなのは、「公正証書遺言」というものです。

3-1. 遺言書の種類

遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言、そして秘密証書遺言の3種類があります。それぞれの違いは何でしょうか。また、なぜ指定相続には公正証書遺言がふさわしいのでしょうか。

3-2. 自筆証書遺言

自筆証書遺言とは一番多く作成されているもので、亡くなった方が生前に自分で書いたものです。使用する紙にはとくに条件がないので、ご自宅にある紙にボールペンで内容を記し、印鑑を押せば作成することができます。

ただし、全文と日付、名前を自書した上で押印されてあるものでないと、その遺言書は無効となってしまいます。つまり、どれか一つでも条件が満たされていないと、遺言書を作成したことにはならないのです。

自筆証書遺言は費用をかけずに手軽に作成できる一方で、紛失してしまうとか、大切にしまい込み過ぎて発見されないという可能性があります。もっとも、令和2年から開始された「遺言書保管制度」を利用すると、手数料はかかりますが、法務局で預かってもらうことが可能ですから、この方法も十分検討の余地があります。

3-3. 公正証書遺言

公正証書遺言は公証人に関与してもらいながら作成するもので、確実に遺言書を作成できる方法として認められています。公正証書遺言は、原本を公証役場で保管します。そのため、紛失や隠ぺいのリスクがないだけでなく、相続発生後の検認手続きも必要ありません。

こちらから公証役場へ出向く以外に、公証人に自宅や病院などに来てもらうことも可能です。信頼できる証人2人に立ち会ってもらった上で、公証人に書き方を教えてもらいながら遺言書を作成します。

費用や手間はかかりますが、「自分の意向を確実に財産分与に反映させたい」「遺言書に従うように言い残しておき、相続人間で揉めないようにしたい」という方は公正証書遺言を作成することをおすすめします。

また、後で「あの時の遺言は無効である」というようなことを言われにくい方法です。というのも、公証人が遺言をするひとの判断能力や意思をその場で確認するからです。

3-4. 秘密証書遺言

秘密証書遺言は誰にも内容を知られずに作成することができますが、実際はあまり利用されていません。公証役場に認証のみを受け、遺言書があるということだけを明らかにします。

秘密証書遺言では第三者に内容のチェックを受けていないので、自筆証書遺言と同様に無効になる可能性があります。

4. 実際の指定相続における手続きとは

実際に指定相続が発生した場合、残されたご家族がしなければいけない手続きとはどのようなものなのでしょうか。

4-1. 遺言書の検認手続き

公正証書遺言の場合は、検認手続きは不要ですが、自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合は検認手続きが必要となります。遺言書を発見しても開封せず、そのまますぐに家庭裁判所で検認手続きを行いましょう。

4-2. 遺産分割協議

指定相続分が記された遺言書によって、相続割合は決定します。しかし、相続財産の何を相続するかはまだ決まっていません。遺産分割協議を行い、詳細を決めていきましょう。

4-3. 登記手続き

不動産の登記手続きは、遺産分割協議前にする方法と後にする方法があります。

遺産分割協議前にする方法では、指定相続分に基づいて、まずは複数の相続人が共有することを表す共同相続登記を行います。その後、相続人個人への所有権移転登記を行うこととなります。

一方で、遺産分割協議後にする方法では、共同相続登記はしないまま、相続登記を行います。

4-4. 相続債務は指定相続分に基づいて発生

相続財産は、現金や不動産、株・証券のようなプラスの資産だけではありません。債務などマイナスの資産も含まれます。

マイナスの資産は指定相続分に基づいて負担することとなり、債務も相続しなければならないことを覚えておきましょう。

5. 弁護士に相談すると安心

自分自身の相続について考える機会は、人生においてそう何度もありません。方法が間違っていると、意向を反映させることができなくなってしまったり、残されたご家族が揉める原因になる可能性があります。そうならないように、弁護士に相談すると安心です。

弁護士は、費用が掛かりますが、相続財産をどのように分割するかということから始まり、公正証書遺言の証人にもなります。また、将来の紛争が起きないように相続人になる方への説明方法をアドバイスすることもできます。

紛争を起こさない残された家族がスムーズに相続財産を分割できるようにされたい方、相続に不安がある方は、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

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