相続・遺産分割

遺言と生前贈与のどっちがいい?弁護士の助けを得てスムーズな相続をしよう

相続には多額の税金がかかることがあり、残された家族にとって非常に大きな負担となりますし、大事な財産を目減りさせてしまう理由となります。そのため、相続税対策をすることはとても大事なことです。実際の対策をする上で、遺言による相続と生前贈与の違いについて理解しておくと効果的な方法を採りやすくなります。両者の間にはどんな特徴の違いがあるのか、それぞれのメリットやデメリットと共に考えてみましょう。

1. 遺言による相続とは?

財産を遺して配偶者や子どもに相続させる場合、いくつかの方法があります。最もポピュラーな方法としては、遺言を作りそれに基づいて財産を分与させるというものがあります。具体的にどのように行うのか、どんな特徴があるのかを確認していきます。

1-1.そもそも遺言とは?

一般的に遺言というのは、故人の遺志つまり家族に遺したい気持ちや指示全般を指します。しかし、法律上は財産分与についての最後に示す指示を表す言葉です。単に意思表示をしただけでは十分ではなく、民法上のルールに適った方法で実施することで初めて法律上の効力を持ちます。

遺言がなく生前贈与もなされていない場合は、相続人たちが集まって自分たちで話し合って分与方法を決めます。これを遺産分割協議と呼びます。しかし、時に相続人は自分の希望ばかりを主張して、うまく意見がまとまらず家族同士での紛争に至ってしまうことがあります。

1-2.遺言の種類

遺言は基本的に文書にして残しておく必要があります。その方式としては3つの選択肢があります。自筆証書遺言と呼ばれるものが1つ目で、自分ですべて自筆して遺言を作成します。いつでも自分の好きなタイミングでできることや、他の人の手を借りずに作成できるというのが利点です。また、他の人に知られることなく作ることも可能です。しかし、書類の仕様や表現、内容を法的に効力のある形で作らないと意味のないものになるリスクがあります。さらに、作成したこと自体を気付いてもらえず、遺言が実行されない可能性すら出てきます。

2つ目のものは、公正証書遺言という形式で非常に多く活用されているタイプです。これは、公証役場というところで、公証人と言う方の助けを得て遺言を作成する方法となります。この形で遺言書を作ると法的に強い効力を持ちますので、裁判所に検認してもらう必要がありません。一番信頼性が高く安全な方法と言えるでしょう。ただし、公証人への手数料を支払うことや、正しい様式にする必要があるといった注意点もあります。 

3つ目の種類は秘密証書遺言と呼ばれるタイプです。遺言自体は自分で作り、それを公証人の前で封印して保管するという形です。内容については公証人は確認せず、ただ遺言が作られたのを見届けるだけです。そのため、公正証書遺言よりも気軽にできるのですが、内容自体に問題があった場合はトラブルの原因となりかねません。中途半端な方法となってしまうので、どうせ公証人を活用するのであれば公正証書遺言にした方が良いと考える人が多いです。

1-3.遺言による相続のメリット

どの種類の遺言であれ、故人の遺志がはっきりするというのが遺言のメリットです。相続人は自分なりの希望があるとしても、故人の遺志を尊重したいという気持ちが強くありますので、不公平な内容でなければそれに従いたいと思うものです。

また、法的効力も発生しますので、遺言の内容に問題がなければ基本的にはそれに従うことになります。もちろん、細かな点や相続人同士の主張がマッチするのであれば、遺言の内容から変更することも可能です。しかし、少なくても誰に何をどのくらい分割するのかという、メインとなる分割内容については実行されることがほとんどです。このようにして、無用に相続人たちが主張をぶつけることなく、スムーズに相続を完了させるのに役立ちます。家族同士のいざこざを避けるためにも、明確な遺言をしておくことはとても重要なのです。

1-4.遺言による相続のデメリット

遺言による相続をすると、一定額以上の資産価値がある場合は相続税がかかってきます。相続税は総じて税率が高く、しかも現金での一括払いが原則となっています。現金を相続したのであれば、その分を支払うだけで済みますが、美術品や不動産といったものだと売り払う必要が出てきたり、現金を用意できなかったりとトラブルの原因となることもあります。なによりも、大事な資産を税金によって大きく失ってしまうのはデメリットと言えます。

また、遺言の内容によっては相続人が納得できないことも考えられます。遺言自体は故人が好きなように決められますが、特定の子どもだけ非常に多額の財産が与えられ、他の相続人は少ないといったことがあると不公平感から「争族」つまり家族内での紛争が起きてしまう可能性があります。

さらに、相続では財産を渡す相手に制限がかかってしまう傾向があります。法定相続人と呼ばれる配偶者や子どもがメインとなり、それ以外の人の権利は非常に弱くなるのです。そのため、孫に財産を分けてあげたいと思っても、思った金額をあげられないという事態が生じる恐れもあります。

2. 生前贈与とは?

財産を渡す方法として、遺言による相続の他に生前贈与というやり方があります。この方法だと相続にはないいくつかのメリットを活かせるようになります。そのため、事前に生前贈与について知り、活用できないかを考えることはとても重要です。

2-1.生前贈与について

生前贈与とは名称からも分かるように、生きている間に対象となる人に財産をプレゼントする方法のことです。生前贈与ができる内容に特に制限はなく、現金や不動産、有価証券、貴金属などでも構いません。また、相続のように対象となる人に制限はなく、誰にでも贈与することができます。ただし、単に金銭や物を手渡すだけでは法律上の生前贈与とはならないので注意が必要です。法律的には、贈与契約を結んで対象となる資産を引き渡すことによって生前贈与が成り立ちます。そのため、相手の同意を必要とし、実際に贈与契約書を作った上で実行することになります。

もちろん、生前贈与をしても、全くの無税というわけにはいきません。贈与税という税金がありますので、その課税対象となります。ただし、やり方によっては非課税にできますので節税効果の高い方法と言えるでしょう。

2-2.非課税となる生前贈与のやり方

生前贈与には非課税枠が設けられています。これは年間で110万円と定められていますので、この金額以下であれば課税されないわけです。生前贈与は生きている間であれば何年でも続けられますので、毎年非課税枠を超えない金額を贈与し続ければ実質的に無税となります。これを暦年贈与と呼びます。

もう一つの方法は、特例制度を活用するというものです。特定の条件であれば一定金額まで非課税となる制度があります。その代表例として、孫の教育資金としての贈与です。最大で1,500万円の贈与額が非課税となります。他にも、土地や住宅を購入するための資金として贈与する場合にも非課税扱いとなります。結婚・出産育児のための資金として贈与する場合も非課税枠が設けられています。このような制度を上手に使うことで、納税額をかなり圧縮できるわけです。ただし、教育資金として贈与した場合は、他の目的としては使用できない、口座の届け出をして出費した分の領収書を提出するなどの手続きをしないといけないことは覚えておきましょう。

2-3.生前贈与のメリット

生前贈与をするメリットとしては、まず確実に財産を自分の手で渡せるということです。遺言書を作成してもいろいろな事情で確実にそれが実行されないこともあります。生前贈与なら自分で相手と財産の内容、金額を決めて実行できるので確実です。

法定相続人でない人にも財産分与ができるのも魅力です。その代表例が孫への贈与です。相続では、孫は法定相続人となっていないため故人が望んでも相続できない、もしくは望む額を渡せないものです。孫への贈与は教育資金の提供など、法律上定められている優遇措置も活用できますので、節税効果のある財産分与ができるというのも魅力と言えます。

そして、多くの人が生前贈与をする理由として、節税ができるという点が大きいです。生きている間に財産を分けることで、相続財産を減らすことにつながるからです。相続税は基礎控除枠がありますので、それを多少オーバーするくらいの財産を持っているのであれば、生前贈与をすることによって相続税を基礎控除枠内に収めることも可能です。相続税がかかる状況でも、相続として扱われる資産分を減らしておけばトータルで支払う税金は減らせます。遺言を使った相続で使える節税対策というのはそう多くはありませんが、生前贈与であれば前述の通りいくつもの選択肢がありますので、より節税をしやすいのです。

生前贈与の方が簡単にできることが多いというのもポイントです。遺言相続の場合は、相続人の希望が合致しないと揉めてしまいますし、そもそも全員が集まって協議をしないとけません。しかし、生前贈与であれば本人と相手の2人だけで事は済みます。争族を防止するためにも大きな役割を果たしてくれるというわけです。  

2-4.生前贈与のデメリット

生前贈与でも贈与税はかかりますので、節税のためにするのであれば暦年贈与をする必要があります。しかし、毎年決まったように110万円の贈与をしていると、税務署から単なる税金逃れだと指摘されて贈与税の徴収を受ける羽目になります。そうなると、高い贈与税を支払うことになり意味がありません。そこで、金額を毎年変えたり、何回かはあえて贈与税を支払ったりすることになります。こうした手間がかかるのは生前贈与のデメリットと言えます。

また、生前贈与をした分は特別受益となることがあります。これは、他の相続人よりも多くもらっているので不公平だと見なされ、生前贈与でもらった分を相続の際に減額されてしまうという制度です。せっかく生前贈与をしたのに、結局相続時に減らされてしまうようだと、さらなるトラブルの原因になりかねません。

3. 相続対策では生前贈与と遺言のどちらが良いのか?

こうして見てみると、相続をスムーズに行うためには遺言と生前贈与のどちらが良いのでしょうか?両方にメリットとデメリットがありますので、判断するのが難しそうに思えます。その考え方を確認しておきましょう。

3-1.財産の種類や状況によって分ける

結論から言うと、遺言と生前贈与のどちらが良いということではなく、状況に応じて使い分けることが肝心です。たとえば、財産の種類の違いによる使い分けです。生前贈与で節税効果を見込める制度では、基本的に不動産を譲渡することで適用されることはありません。そのため、税金対策のための生前贈与をする場合は現金でした方が良いのです。不動産はそのまま相続で譲ることにして、相続税の支払いで必要となる現金を生前贈与で渡すといった考え方をすることもできるでしょう。

3-2.節税効果を考える

相続税は高税率となることもありますが、基礎控除枠もありますので、実際に資産価値を計算してみないと実際にはどのくらいになるか分かりません。また、控除額は増やすことができます。たとえば、配偶者控除や死亡退職金控除、未成年者控除といったものがあります。こうした控除制度を利用して相続税の税率を下げたり、非課税にしたりすることができるのであれば、生前贈与をする税制上のメリットはなくなります。一方で、非課税枠を大きく超えるようであれば、生前贈与によって相続財産を減らしたおいた方が有利でしょう。

3-3.トラブルの少ない方法

どちらの方が遺族にとってトラブルの少ない方法なのかを考える必要もあります。特定の人だけに生前贈与をすると、逆に相続の際に不公平だという不満が湧いて問題の種となってしまうこともあります。もしくは、遺言の内容を全員が納得してくれるかどうか怪しいと思えることもあるでしょう。

自分の家族のことですから、ある程度どのような分与の仕方をしたらどんなトラブルが出てくるか予想できるはずです。単に財産を遺すということだけでなく、その後の家族関係のことも考えて、より平和裏にまとめられる方法を選ぶようにしましょう。

4. 弁護士と相談しながら決めた方が良い理由

遺言をするにしても生前贈与をするにしても、なかなかスムーズに物事が進まないこともあります。問題を未然に防ぐためにも、この道のプロである弁護士のサポートを受けることは大事です。

4-1.法的な問題を起こさない

相続に関係した手続きは複雑で、ちょっとした不備で無効となってしまうものもあります。遺言書の作成方法や内容によって、せっかく作成しても実行されないということになったら悲しいものです。また、生前贈与をしたのに特別受益と見なされて、逆に親族内紛争をもたらす原因となってしまうリスクもあります。相続のノウハウが豊富な弁護士を頼れば、法的な問題を起こさず確実に財産分与をする方法をアドバイスしてくれるはずです。

4-2.高い節税効果を狙う

同じように財産を遺すにしても、法律をよく知り上手に適用すると高い節税効果が望めます。相続に詳しい弁護士であれば、それぞれの状況に合わせたベストの節税対策を考えてくれます。もちろん、税金逃れをするといった不法な方法ではなく適切なやり方で、財産をしっかりと遺すために大きな役割を果たしてくれるでしょう。生前贈与をするにしても、税務署から指摘されることなく、最も効果の出る方法で財産をプレゼントできるようになります。

4-3.第三者に介入してもらう

遺言が役に立つ時には、多くの場合子どもたちもそれぞれ独立してバラバラに生活を送っているものです。考え方や経済状況なども違いますので、それが元となってトラブルが生じやすくなります。そこに当事者ではない第三者として弁護士が入ると、冷静な立場で考えられるようになります。また、不正な方法を使ったり嘘を言ったりすることへの抑止力ともなりますので、問題を発展させないためにも役立ちます。遺言についても弁護士が関わって作ったということを知れば、それを実行しようという気持ちが強くなるものです。

5. 十分前もって検討し納得できる相続をする

遺言による相続をするにしても、生前贈与をするにしても思い立ったらすぐに実行できるものではありません。相続では節税とトラブル防止がとても大事なポイントとなってきますので、十分前もって計画と準備をしてスムーズに財産分与を完了できるようにしたいものです。そのためにも、弁護士の助けを得つつ無駄のない対策をしていきましょう。