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1. 遺産であるかどうかわからない財産があるとき
遺産は「お父さんの預貯金と土地建物と上場株と別荘だ」などと、何が遺産かはっきりしていれば、「遺産がなにか?」という問題はおきません。
しかし、「経営している会社の株の名義は亡くなった人の名義になっているけれども、実際は、他の相続人の財産だ!」ということになると、どれがわけるべき相続財産なのかわかりませんよね。
このように相続財産が何なのかについて、争いがある場合があるのです。
この場合「遺産の確定」をしなければいけません。
2. まだなにか遺産があるかも・・・・と思っても遺産分割はできる!
もっとも、多くの場合にはこれで全てかはわからないと思っていながら、遺産分割調停なり協議をするのです。というのは、亡くなった方の財産のほとんどについて解決ができればあとで、高価な絵画がみつかったりしても、それは別に協議すればよいですし、あとで見つかったものについて、遺産分割ができなくなるわけではないからです。よって、ほかにもあるかもしれない・・・と思っているからといって、今ある財産を分けないというのは不合理な選択です。
もっとも、遺産産分割協識・審判が成立した後になって、重要な財産が見つかると、最悪、遺産分割がそもそも無効だという争いが起きることもありえます。
これから遺産分割をする場合、調停であれ協議であれ、これが遺産だというひととそうではないという人がいると、「分けるケーキが何個あるのかわからない」ということになって、先に進めません。
どうしても遺産かどうか争いがある重要な財産がある場合には、その財産を除いた遺産分割を一部分割としてするのか、地方裁判所でその財産が遺産であることの確認訴訟をまずするのか、ということになります。
(何かまだあるかもしれないという不安があるという程度の場合は、あるとわかっているもので遺産分割をするのが上記のとおり正解でしょう。)
3. 遺産分割の審判で、その財産が遺産なのかどうか、判断してもらえる?
家庭裁判所の遺産分割の調停や審判で、たとえば、亡くなったお父様の預金に入っていた500万円は実は、次女のもので、次女が投資信託を一緒に運用しようとまとめておいただけだというような主張が出たとします。
そうするとこの500万円が次女のものなのか、遺産なのか、争いが出ますよね。たとえば、次女が500万円を送金した記録が証拠として出てきて、投資信託を一緒に買っていたことがわかるようなメールなどもあれば、これは次女のだということで合意ができて解決するかもしれませんね。
でも、そういう証拠もないし次女の言っていることも怪しくて、他の相続人が納得しないとき、遺産の範囲に争いがあるということになります。
遺産分割審判手続で、この財産が遺産に含まれるのかという判断をしてもらえるかですが、遺産の範囲を確定してもらうことも、高裁判例では可能とされています。
ですが、確定してもらっても「既判力」(後で別の訴訟でこの問題を蒸し返すことができないという効力のことです)というものがないため、後で、蒸し返しができてしますので、民事訴訟で遺産の確定をすることが望ましいというのが、家庭裁判所の一般的考えです。
そういう背景があるので、裁判所の遺産分割調停を申し立てても、遺産の範囲の確定について争いがあって当事者の合意が得られないと、調停を申立てた後でも、家庭裁判所から、「いったん申立てを取り下げて、遺産の範囲を訴訟で確定させた後に改めて申立てをするように」との勧告を受けます。
悩ましい問題で、実際によくあるのは「使途不明金」です。だれかが年老いた親の預金を勝手に引き出してしまったというような時です。が、実は、これは遺産分割調停や協議では対象の財産とされません。別途、不当利得返還請求訴訟とか、不法行為に基づく損害賠償請求をすることになります。
まとめ:
使い込み、使途不明金、預金の勝手な払い戻しの場合
使いこんだ人への不当利得返還請求訴訟とか、不法行為に基づく損害賠償請求をすることで解決!
遺産分割協議ではこれは対象にならない。
後で、絵とか宝石とか「やはりこれは遺産だった」ということに財産が出てくることはありえますが、遺産分割調停なり遺産分割協議では、後で見つかる財産があるかもしれない場合、それについてどうするのか先に決めておくことができます。
後で見つかった相続財産については以下の三通りの方法があります。
新たに発見された相続財産の遺産分割での取り扱いパターン
- 遺産分割の協議を再度する
- 全て誰かが取得するときめておく
- 相続人の法定相続分の割合で取得・承継するとしておく
4. 他に遺産がまだありそうなとき、どんな訴訟で、遺産を確定するのでしょうか?
その財産が被相続人の相続財産(遺産)に婦属することの確認を求めて遺産確認訴訟を提起するのが通常です。
最高裁判例(昭和61年3月13日)で、遺産確認訴訟はできることが確認されていますし、この判決で遺産であることが確定し、既判力がある判断なので蒸し返される危険がないのです。
この訴訟は共同相続人全員が当事者として関与するべき訴訟とされています。
専門的には、「固有必要的共同訴訟」といわれています。遠くにいる相続人、海外にいる相続人も相手にしなければならないので、相続人が多いと大変です。
相続人以外にも、包括受遺者や相続分の譲受人がいる場合には、こういう人も訴訟の当事者にしなければなりません。
5. 兄名義の不動産が、実は父の遺産であるというときどうするか?
これは、遺産の帰属に争いがある場合になります。家庭裁判所では、名義が死んだ方以外の不動産を遺産として扱うことはしませんので、上記の訴訟を地方裁判所にまず提起をし、確定判決をもらってからでないと、遺産分割調停が申し立てられないということになります。
遺産分割調停は、遺産であることについて紛争がない遺産を分ける手続きなのです。
もっとも、遺産がだいたいわかっていて遺産かもしれないものがあるとき、遺産分割ができないということはありませんので、遺産だとわかっているものをまず先に分けることも有効な方法です。
そうしないと、いつまでも共有状態が続いて大変ですからね。
6. 兄は、亡くなった父から3000万円を借りていてまだ返済していないというとき、この貸金も遺産になるでしょうか?
死んだお父さんからしたら、3000万円の貸付債権をもっていたのですから、この3000万円の債権も遺産になり、遺産分割できそうですが、実はそうではないのです。
遺産でも、数量的に分割できる財産は、遺産分割をしなくても自然に相続人が分けて持っているというのが、民法の考えなのです。
つまり、兄への貸付債権は、相続人ですでに分けて持っていることになります。それも相続したとき、死亡したときに法定相続分に従って分けてもっているのです。相続人が妹二人とこの兄、3人なら、妹二人は1000万円ずつお兄さんに貸金返金を請求できます。
もっとも、この問題も一緒に解決したいと、三人が思えばこの貸付債権を遺産に組み込んで解決することもできます。このような複雑な問題があるときには、弁護士に早く相談しましょう。