相続した家に住み続けるためには、他の相続人に対して相続分との差額を現金などで支払う代償相続を提案する、配偶者居住権を行使するなど、いくつかの方法があります。相続が発生する前の生前なら、弁護士に依頼して、遺言書作成や生前贈与もおすすめです。
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1. 相続した家に住み続けることは可能?
相続した家に、相続後もそのまま住み続けることを希望する人は少なくありません。例えば、高齢の親と同居していた人は、親が亡くなって家を相続しても、そのまま住み続けたいと考えるでしょう。
相続した家に住み続けることは、不可能ではありませんが、簡単なことでもありません。弁護士に相談しながら、きちんと対応することで実現できることがあります。
1-1. どんな場合に問題となる?
相続財産には、資産価値が高い不動産の他、預貯金や有価証券など、多種多様なものがあります。その中でもまとまった資産価値を持つ不動産は、預貯金のように簡単に分けられないため、相続の際に相続人に平等に分割することが難しい資産です。相続人が自分1人なら、問題ないでしょう。しかし、複数の相続人がいると、不動産を売却して利益を現金で相続したいと考える人も出てきます、その場合、そのまま住み続けることに反対されたり、相続分の不平等な点を指摘されたりなど、遺産分割調停が不可避となることが起こりやすくなります。
1-2. 相続税の面で問題になることも!
相続においては、相続人数に応じて基礎控除が適用されます。基礎控除内なら相続税は納付義務なしですが、基礎控除の範囲に収まらない場合には相続税が発生し、相続人には納付義務が生じます。発生した相続税を現金で納付できる経済的な余裕が相続人にあれば、家にそのまま住み続けることは不可能ではないでしょう。
しかし、経済的な余裕がなく、相続税の納付が難しくなると、住みたいという気持ちはあっても、納税のために売却して相続税を作り出すという選択肢しかなくなってしまうかもしれません。
2. 相続した家に住み続けるための対策方法
相続した家、もしくは将来相続することになる家に住み続けたい人は、どんな対策をしたらよいのかを、考えてみます。
2-1. 故人の生前から話し合うことが理想的
相続する家に住み続けたい場合には、故人が亡くなった後に他の相続人に相談するよりも、生前から家族全員で話し合いをしながら遺産分割の方法を決めた方が、より満足度の高い遺産相続につながります。誰が何を相続するのかを故人の生前にだいたい決めても良いですし、できるだけ平等に相続したいなら、生前贈与も含めた解決策を、家族全員で透明性をもって模索すると良いでしょう。
2-2. 配偶者には居住権がある
高齢の父親が亡くなり、まだ元気で家で生活している母を、遺産分割のために老人ホームなどに入居させて、自宅を売却しようというケースもあります。最終的な結論は、相続人が話し合いをして決めればよいのでしょう。しかし、故人の配偶者には居住権が認められています。年齢にかかわらず、配偶者がそこに住み続けたいと希望する場合には、その権利は法律によって保証されています。
ただし、配偶者居住権は、配偶者が現在住んでいる不動産のみに限定されます。故人が複数の不動産を所有していたとしても、配偶者の一存で全物件を維持できる訳ではありません。居住権を主張できるのは、あくまでも配偶者が生活している家のみです。
そして、配偶者居住権では、その家に無償で住み続けられる権利を補償しています。他の相続人が、配偶者から高額な家賃を徴収することは認められていません。
2-3. 持ち戻し免除の意思表示も活用できる
持ち戻し免除の意思表示とは、故人と20年以上婚姻関係にあった配偶者が利用できる制度で、民法903条第4項で、定められています。この免除制度を利用しないと、夫婦で共に生活していた夫名義の不動産を妻に名義変更した場合、それが生前贈与として見なされ、遺産相続の際に妻にとってマイナスの影響を与えていました。
しかし、この持ち戻し免除の意思表示をすれば、不動産の生前贈与は相続資産の対象外となります。その結果、配偶者の取り分を多く維持できるというメリットが期待できます。
ポイント:
持ち戻し免除の意思表示をすれば、不動産の生前贈与は相続資産の対象外
2-4. 生前贈与も視野に入れよう
生前贈与に関しては、不動産を贈与によって所有した人には、贈与税や固定資産税などがかかります、その結果、税務面で自分自身にとっての負担が大きくなってしまうでしょう。しかし、相続する家にそのまま住み続けたいという強い気持ちがある場合には、相続の時期まで待つのではなく、もっと早い時期に生前贈与という方法で問題をクリアにすることも可能です。家族の協力を得ていれば、生前贈与に対しても協力してもらえることでしょう。
しかし、生前贈与は最終的に遺留分の請求をうける結果となることがありますので、気をつけましょう。遺留分については、以下の記事をご参照ください。
3. 平等な遺産相続のための解決法とは?
故人の配偶者がそれまで住んでいた家にそのまま住み続けたいと希望する際に、他の相続人から反対されて大きなトラブルになるケースはそれほど多くはありません。しかし、相続人に配偶者が含まれておらず、子供だけが相続人となるケースでは、それまでそこに住んでいた長男が住み続けたいと希望しても、他の兄弟から反対されることは多いものです。
3-1. 代償分割を検討しよう
代償分割とは、遺産相続においてできるだけ平等に分割しながらも、不動産にそのまま住み続けたい人におすすめの解決方法です。具体的には、資産価値が高い不動産を売却せずに1人が相続し、遺産分割を平等にするために、他の相続人に対して金銭の支払いをするという方法です。相続する家に住み続けたい相続人に、代償分割できる経済力があることが大前提となります。
代償分割できるほどの経済力がないという人は、自分が受取人となる親の生命保険に加入するという方法を検討してみましょう。親の他界によって自分が生命保険金というまとまった現金を受け取ることができ、それを代償分割金として使うことができます。加入する生命保険額は、代償分割金に必要な金額を設定すると良いでしょう。
もっとも、そういった対策をしていないまま、相続が発生してしまったら、不動産を担保に融資を受けて大賞金を払うという方法がありえます。
3-2. 故人の相続資産がいろいろあれば、現物分割も可能
現物分割とは、故人が不動産以外にも預貯金や有価証券など、分割しやすい資産を多く残した場合におすすめの方法です。例えば、長男が不動産を相続し、次男は株式を相続し、3男は預貯金を相続するといった、平等性を保ちながら資産を売却することなく、誰が何を相続するかを決めるという解決方法です。
3-3. おすすめしない共有分割
共有分割とは、不動産の名義を相続人全員にし、得られる利益を共同所有しようという解決方法です。不動産を転貸しておきながら共有するのなら有効な方法ですが、世代が変わることによって相続人の数が増えてしまうリスクがあるため、あまり理想的な方法とは言えません。相続した直後に共有分割という方法を選んだ場合でも、相続人の世代が変わる前に特定の1人の名義にしておく方が、資産を守るという点で賢明です。よって、長期的視野で遺産分割の話し合いをしておくのがよいでしょう。
4. 相続で揉めたら弁護士へ相談しよう
故人の生前に不動産についてしっかり話し合いをしていなかったり、親や他の兄弟から生前贈与には反対されたために相続前に準備できなかったり、というケースも多くあります。その場合には、どんな解決策や選択肢があるのかという情報収集や、自分が置かれている状況の中でどんな解決法がベストかを知るためにも、まずは専門弁護士に相談することをおすすめします。
遺産相続では、相続人が増えれば増えるほどトラブルが起こりやすくなりますし、トラブルの内容も複雑化してしまいます。素人が考えるよりも、法律のプロに相談することで、素早く賢明な判断ができるのではないでしょうか。