裁判とは、法をつかってトラブルを解決する方法のことです。行政機関から独立した裁判所で、法律のプロである裁判官や弁護士がトラブル解決をサポートします。裁判には刑事裁判と民事裁判とがあり、さまざまな点が異なります。
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1. 裁判とはトラブルを法的に解決する手段
社会生活を営んでいると、誰でも多かれ少なかれ、他人とトラブルになってしまうことはあるものです。多くの場合は当事者同士が話し合いなどで解決できるため、それ以上に周囲を巻き込んで大きなトラブルに発展してしまうことは、少ないでしょう。しかし、トラブルの中には当事者同士の話し合いだけではどうしても解決できないものもあります。
当事者同士で解決できないからあきらめるとか、力にモノを言わせる、なんて解決方法はダメですよね。当事者同士で解決できないトラブルは、お互いに自分の主張や言い分が正しいと信じていることが多く、心情的に妥協したくないと考えていることも珍しくありません。当事者では解決が困難です。
そんな解決できないトラブルについて、法を使って、最終的な解決をするのが、裁判という仕組みです。裁判とは裁判所という独立した機関で行われる法的な手続きで、法律と照らし合わせたトラブル解決が可能な施設です。
2. 5種の裁判
日本において、裁判は裁判所で行われます。裁判所にはいろいろなレベルや種類があり、大きく5つに分類できます。
簡易裁判所や家庭裁判所は比較的スムーズに解決できるトラブルを取り扱うのが特徴で、これらの裁判所で解決できなかった問題や、判決が出たけれど納得できない問題などは、上位裁判所となる地方裁判所へと持ち込まれます。地方裁判所よりもさらに上級の高等裁判所や最高裁判所などもありますが、最初の裁判からいきなり最高レベルの最高裁判所で審理されることはありません。まずは、下位裁判所が対応し、判定に納得できない場合には原告や被告が上位裁判所へ訴えて、審理のやり直しを行うという仕組みになっています。日本国民には、裁判を受ける権利があり、一つの案件について、原則として、3回の裁判を受けることが可能です。三審制といいます。
裁判所で行われる裁判には、さまざまな事件が持ち込まれます。大きく分けると、警察が関与する刑事裁判と、警察が関与しない個人間や会社とのトラブルを取り扱う民事裁判とがあります。
3. 刑事裁判 VS 民事裁判
刑事裁判は、刑法に触れる犯罪を犯した人に対し、具体的にどんな刑罰を科すべきかを審理するための裁判です。事件が起こると、警察が調査を行って、疑いをかけた被疑者を逮捕します。逮捕するまでにはさまざまな証拠を集めて、被疑者が実際に犯罪を起こした可能性がとても高いと判断するプロセスがありますが、場合によっては冤罪の可能性もあります。そのため、刑事裁判においては、被疑者は裁判で実際の刑罰が確定するまでは「無罪の推定」原則に基づいて取り扱われます。
事件が発生すると、自動的に刑事裁判が始まるわけではありません。裁判は警察からは独立した機関で、やはり起訴する側と、訴えられる側があります。刑事裁判においては、検察が起訴する側となり、被疑者は、裁判で起訴されると「被告人」という立場になります。
一方、民事裁判では、警察が介入しない個人間のトラブルを解決することを目指します。警察が介入しない、刑法に触れる犯罪行為ではない行為が対象になります。民事訴訟では、警察官が関与することはありません。
刑事裁判と民事裁判の大きな違いは、たくさんあります。
1つ目の違いは、被告の取り扱いです。
刑事裁判では、逃亡したり、更なる犯罪を犯したりするリスクを最小限に抑える目的で、被疑者や起訴された被告を勾留することが珍しくありません。その場合には、被疑者や被告は自由を奪われることになりますし、自由に外部へ連絡できる手段がなくなります。そこで、被疑者や被告の人権を守るために、弁護士が弁護人として選任されます。刑事事件における弁護士は、被疑者や被告と面会をして必要な手続きを行うだけでなく、刑事裁判においては被告のため、被告の主張を法的に法廷で訴える役割を担います。また、被告人と会って、必要な証拠や証人の確保に努めるといった仕事も弁護士の役割となります。
民事裁判では、被告が拘留や勾留されることはありません。AさんがBさんに借りた10万円を返済していないからといって、被告のBさんが警察に逮捕されたり自由を奪われたりすることはありません。民事裁判においては、被告が犯罪行為をしたわけではありません。しかし、トラブルが起こっているということは事実です。そして、AさんとBさんの主張や言い分が異なるため、通常の場合にはどちらも弁護士を代理人としてつけ、弁護士が法的な論点やどういう事実があったのかについて、言い分を主張し合います。
証拠を集め、証人を確保するという点では、民事裁判では刑事事件同様に、弁護士が奔走するケースは多いです。しかし、原告も被告も、それぞれ外部の人に連絡する手段は維持できているので、当事者が証拠や証人を確保することもできます。ただし、その場合でも、裁判に関する法的な主張を行うのは通常は、弁護士の役割となるため、当事者は弁護士を通して裁判所へ必要な書面の提出などを行います。
刑事裁判と民事裁判との2つ目の大きな違いは、和解の有無です。
刑事裁判の場合には、被告の有罪・無罪を審理するとともに、有罪の場合にはどんな刑罰が適切かを刑法に照らし合わせて決めることを目的としています。そのため、被告人が検察官と判決を待たずにお互いの交渉で終結する和解という選択肢は、基本的にはありません。平成30年から導入された司法取引の制度は、ある意味、被告にとっては交渉可能な手段と言えるかもしれませんが、司法取引するかどうかの選択権は被疑者にはないという点が、刑事裁判の大きな特徴です。しかし、民事裁判の場合には、原告と被告とが判決を待たずに、和解することは非常に多いのです。
原告と被告が民事訴訟で、和解する理由には、いろいろなものがあります。
民事裁判は個人間のトラブルを解決するための裁判で、かかる弁護士費用はすべて当事者が負担しなければいけません。期間が長引くとかかる費用も大きくなり、経済的に裁判を継続することが難しくなってしまう可能性もあります。その場合、相手側と交渉して和解することによって、完全勝訴とはいかなくても、それなりに納得できる結果を手に入れられるというメリットがあります。一方、被告が原告の訴えをかなり広範に認める場合にも、和解という方法を取ることもあります。実際に起訴された民事裁判の案件では、判決まで戦うケースよりも和解するケースの方が多いです。
刑事裁判と民事裁判の3つ目の違いに、裁判員制度があります。つまり、判決を出すプロセスやそれにかかわる人が大きく異なります。刑事事件のみに、裁判員制度が適用されることがあります。裁判員制度というのは、弁護士や裁判所職員のように普段から法律に携わる人ではなく、異なる本業に従事している人や専業主婦などの一般市民を法廷に集め、裁判官とともに審理に参加させるという制度です。
法律に基づいて刑罰を決める際に、一般市民の意見を取り入れることによって、より世論の意向に応じた判決を出せるといったメリットがある制度で、大きな犯罪に関する刑事裁判では裁判員制度が採用されることがあります。この裁判員制度が適用されるのは、刑事裁判の中でも地方裁判所のみに限定されています。また、刑事事件の中でも、法定刑で死刑や無期懲役などが適用されるような重大なもの、また法廷合議事件においては故意の犯罪行為による死亡事件が対象となります。
民事裁判には、裁判員制度はありません。民事裁判では、原告と被告の代理人を務める弁護士と裁判官、その他事務作業を行う裁判所職員のみが同席して、事件の審理を行います。案件に係る特定の分野において高い専門知識を持つ一般市民が審理に参加するケースはあるものの、裁判員という立場ではなく、あくまでも専門家の立場での参加となるのが特徴です。
刑事裁判と民事裁判の4つ目の違いには、求められる立証の度合いがあります。民事事件においては、基本的に原告側が必ずクリアしなければいけない立証の度合いは、非常に高いレベルが求められているわけではありません。証拠を提出する必要はありますし、原告の証拠や証人が、被告の証拠や証人よりも証明力の点で上回っていなければいけない、というルールはあります。しかし、刑事裁判と比較すると、それほど高いレベルが求められているわけではありません。
一方の刑事裁判では、最終的な判決が下りるまでは、被告が無罪と推定されなければいけません。そのため、原告となる警察を代表する検察官は、無罪だと推定されている人を有罪に確定するための確固たる証拠や証人が必要不可欠です。裁判官や裁判員を納得させられるような証拠や証人を提出できなければ、被告は有罪とは言えないということで、無罪という判決が出ることになります。
刑事裁判と民事裁判とでは、基本的には大きな線引きがあります。しかし、事件によっては、刑事裁判にも民事裁判にも、両方に該当するケースもあります。例えば、名誉棄損や横領、詐欺、交通事故や医療過誤などの案件では、刑事裁判になることもあれば不法行為として民事裁判になることもありますし、被害者はどちらの方法を選択することも可能です。
同じ案件でも、刑事裁判と民事裁判とでは適用する法律が異なりますし、裁判の審理プロセスなども大きく変わります。そのため、判決という点でも、大きな違いがあります。刑事裁判においては、刑法に基づいて被告にどのような刑罰が適切かが審理され、判決が出されます。しかし、民事裁判では、基本的には損害賠償金の金額が審理されて、判決が出ることになります。適用される法律が異なるということは、その法律を専門分野とする弁護士も変わるということでもあります。そのため、一つのトラブルで原告が民事裁判と刑事裁判のどちらも訴える際には、民事裁判と刑事裁判とでは異なる弁護士が対応するケースが一般的です。
テレビや映画などでよく見るシーンの一つに、裁判で出された「無罪」という判決が書かれた紙を持って、裁判所の外でメディアや報道陣に向けてアピールする光景があります。これは民事裁判では起こらない光景で、刑事裁判特有のシーンと言えます。実際にそうしたパフォーマンスをする弁護士や弁護士アシスタントのパラリーガルはいますが、必ずしも弁護士の義務というわけではありません。ちなみに、あの達筆で書かれている「無罪」の紙は、弁護士がどこかに発注するアイテムというケースはあるものの、レンタル品として利用することも可能なのだそうです。
4. 裁判に欠かすことができない人物、それは弁護士
刑事裁判でも民事裁判でも、裁判と名のつくところに欠かすことができない職務があります。それは、弁護士です。刑事裁判においては、検察官が捜査をして起訴・不起訴の処分を行って、裁判をはじめますが、被告人の弁護は弁護士が行います。民事裁判においては、検察官は登場せず、原告と被告とでそれぞれ、弁護士を立てるのが一般的です。また、裁判においては、客観的に法を使って、いずれの主張が正しいのか判断をして最終解決を判決として出すのが裁判官です。
検察官や弁護士、そして裁判官の仕事は、全て国家試験の一つである司法試験に合格した人しか手に入れることができない職種です。弁護士は、法律に精通する法の専門家として、裁判においては法廷の内外で依頼者の利益を守るために、幅広い方向から活動を行います。
弁護士の仕事内容は、個人や法人からの法律相談に乗ることを始め、依頼人の代理でトラブルを抱えている相手方と交渉したり、法廷で争ったり、多種多様です。刑事裁判と民事裁判とでは弁護士に与えられる役割や業務の内容が異なりますが、どんな仕事内容があるのでしょうか。
刑事事件に関しては、弁護士は、犯罪を犯したと疑われている被疑者の弁護を務めたり、起訴された被告人の代理人として、検察官を相手に依頼人の弁護活動を行うことになります。検察官も弁護士資格が必要な仕事ですが、案件ごとに検察官になるときもあり、被告人のために働くこともあるということはなく、検察官はずっと検察官という立場で仕事をします。そして、刑事事件に携わる弁護士は、案件は違っても、被疑者や被告人側の仕事をし続けることになります。
刑事裁判に携わる弁護士の数は、民事裁判に携わる弁護士と比べると、数はとても少ないという特徴があります。その理由はいくつかありますが、刑事裁判の方が、事件が少ないことがあります。また、被告人の弁護士としては、事件を調査し証拠を集めたりすることがとても難しく、事件の関係者に対して強制的に調査をする権限も与えられていないため、活動しづらいという点が挙げられます。また、刑事裁判で弁護士が必要となる被疑者や被告の多くは、普段から刑事裁判を得意とする弁護士がいないため、国選弁護人に頼るケースが少なくありません。そうしたことから、弁護士として活動している人の多くは、刑事裁判ではなく民事裁判を専門とする傾向があるのです。
民事事件に関しては、弁護士が対応する業務の幅も数も広くなります。民事事件は、警察が介入しない個人間のトラブル・紛争や事故などが多く、そのトラブルには多種多様なものがあるからです。また、家事事件という離婚や相続でもめることもあります。交通事故による損害賠償でもめることもあるでしょう。
医療ミスが疑われるような案件もあれば、会社と従業員が労使でトラブルになってしまうこともあります。
民事裁判においては当事者同士で解決が難しい場合、損害賠償金の必要性やその金額の妥当性を審理したり、不動産の明け渡しを求めたりしますが、その際、証拠を積極的に集めたり、証人の確保に奔走します。また、証拠の妥当性を検討し、証人尋問の練習なども必要です。
弁護士として働くためには、国家試験の中でも難関と言われている司法試験に合格しなければいけません。誰でも受験したい人が受験資格を得られるというものではなく、受験資格を得るためにも超えなければいけないハードルがたくさんあります。まず、大学で法学部を学んだ上で、法科大学院で2年間学んだ人は司法試験を受験する資格を得ることができます。法学部以外の専攻で大学を卒業した人は、3年制の法科大学院で学ぶか、もしくは自己学習をした上で予備試験を受けて合格すれば、司法試験を受験する資格を得ることができます。
司法試験は毎年5月に開催される試験で、論文式の試験が3日間、そして短答式の試験が1日、合計で4日間かかります。ロースクールと呼ばれる法科大学院を修了した人でも合格率はわずか29%と低いですし、司法試験全体の合格率は34%と毎年かなり低めとなっているのが特徴です。難易度が高い国家試験のため、不合格でも浪人しながら、毎年1回開催される司法試験の合格を目指すという人は少なくありません。
弁護士として活動するためには、司法試験に合格するだけでは十分ではありません。司法試験に合格すると司法修習を1年間受け、その上で司法修習考試に合格しなければいけません。これは2回試験とも呼ばれている試験で、合格率は90%とかなり高めです。しかし、残り10%は司法試験には合格したけれど2回試験には不合格してしまう人もいるということになります。その場合にはさらに1年間司法修習を受けて、再度この考試に再チャレンジすることになります。
これらを突破して、日本弁護士連合会へ登録することで、弁護士としての活動が認められます。日本弁護士連合会へ登録すると、登録番号が裏に記載された弁護士バッジが交付されます。このバッジは一人に一つしか交付されないという特徴があります。
弁護士の多くは法律事務所に所属して弁護士として活動しますが、中には企業に所属して、法務担当の専門家として活動する人もいます。企業内弁護士は大手企業が多く、万が一その企業が訴訟に巻き込まれた際には、企業を代表して訴訟に対応することとなります。
司法試験に合格して法曹資格を取得すると、裁判官や検察官になることもできます。裁判官や検察官は、適性や成績などで選任されることが多く、まれに、弁護士としての経験を積んでから検察官や裁判官へ転向する人もいます。また、日本の弁護士資格だけでなく、海外の弁護士資格も合わせて保有している人や言語が堪能な場合には、国際的な弁護士として国際的な事案に携わることも可能です。
ちなみに、裁判官と言えば、黒いケープのような服を身にまとっていることが多いものです。派手な色はNGだろうということは誰でも容易に想像できますが、グレーや紺色ではなく、どうして黒に限定されているのかはご存知ですか?
黒という色は、何事にも染まることなく構成に判断するという印象を与えることができる色です。原告側にも被告側にも影響を受けることなく、冷静沈着に客観的な立場から審理をするという点で、黒の服が裁判官の色として採用されているわけです。
ちなみに、法廷においては裁判官だけでなく、裁判所書記官などもよく似た黒い衣装を身にまとっています。しかし、よく見ると、裁判官と書記官とでは衣装の素材が大きく異なります。裁判官にはシルクが使われているのに対して、裁判所書記官はコットン素材なのです。これは、格の違いをアピールしていると考えられています。
弁護士は法律の専門家です。しかし、法律にはいろいろなものがあり、全ての弁護士がすべての法律に関して高い専門知識や経験、実績を持っているわけではありません。刑法に関しては法学部やロースクールなどで基本的な部分を習得するため、ある程度の知識を持っている弁護士が大半です。しかし、民事のエリアにおいては、会社と従業員間で起こるような労働関係のトラブルなのか、離婚や親権など家庭内のトラブルなのか、またネット系トラブルや消費者金融系のトラブルなのか、企業間の紛争なのか、会社法の事件なのかなどなどの事案の特性によって、求められる専門知識や適用される法律が異なります。全ての分野において高度な専門知識と経験を持つ弁護士はいません。通常、弁護士ごとにある程度の得意分野や専門分野があり、その分野を中心として案件に対応するのが一般的です。
ただし、限定された特定分野しか案件対応をしないと特化している弁護士はそれほど多くありません。例えば、相続に関する民事裁判なら、不動産の相続を中心としたトラブルを得意としながらも、債務整理など金融系のトラブルにも対応可能という弁護士はたくさんいます。弁護士の場合には、医師のように専門性を特定して、その分野だけでハイレベルなスキルや実績を追求するわけではありません。そのため、日本では弁護士は、積極的に複数分野に取り組むことが多いです。
また、弁護士の得意分野や強みは経験や実績によって変わっていきますし、宣伝するメディア媒体によってアピールする得意分野や専門が異なることもあります。
弁護士として働く場合、弁護士事務所を自分で経営しているのか、それともローファームに所属しているのか、また企業内弁護士として活動しているのかなど、所属先によって収入は大きく変わります。また、どこに所属しているか、案件を抱えているのかどうかによって、忙しさも大きく異なります。案件に対応している期間には口頭弁論に向けての準備が忙しく、24時間体制で働く弁護士も珍しくありません。