裁判手続・紛争解決手続

民事訴訟の裁判にはどんな登場人物がいる?

民事訴訟には原告や被告の代理人を務める弁護士を始め、裁判官や裁判所書記官、裁判所速記官など、たくさんの登場人物が携わります。訴訟の種類によっては調停委員など、一般市民の中から特定分野における専門家が選任されることもあります。

1. 裁判の種類によって登場人物が変わる

民事訴訟には、いくつかの種類があります。個人間のトラブルに関して損害賠償を請求するなど、当事者同士では解決できない場合に法的に解決しようという点は、どの訴訟でも共通しています。しかし、できるだけ迅速に、できれば1回の期日だけで判決が欲しいという人や、請求する損害賠償額が大きくないから簡易的な裁判を希望するという人には、通常訴訟以外で希望に近い裁判を受けることが可能です。また、個人間のトラブルを裁判で解決する前の過程として、調停による解決方法という選択肢もあります。どんなトラブルなのか、どんな解決を望むのかによって、民事訴訟にはいろいろな種類があります。

民事訴訟では、訴訟を起こす原告と、訴えられる被告が主役です。しかし、登場人物はそれだけではありません。法律に精通した第三者が、たくさん登場人物として一つの案件に携わります。それでは、民事裁判の中でも訴訟の種類ごとに、どのような登場人物がいて、どんな役割をしているのでしょうか。

一般的な民事訴訟には、主な登場人物は原告と被告の他に、裁判官や裁判所書記官、裁判所速記官などがいます。その他に、原告と被告がそれぞれに弁護士をつけるのが一般的で、弁護士は代理人と呼ばれています。原告が依頼した弁護士は原告代理人、訴えられた被告がつけた弁護士は被告代理人と呼ばれます。裁判に携わるこれらの登場人物すべてが法廷にそろい、それぞれの登場人物が異なる役割を持って、役割に沿って裁判をスムーズに進行させます。

2. 裁判官

まず裁判官の役割ですが、原告側と被告側の主張を聞き、提出された証拠を調べ、民法を適用させながら、どちらの主張が正しいのかを判断します。客観的な立場で案件に対応することが裁判官に求められる大前提のスキルで、どちらかに肩入れをすることなく、良心に従って、案件ごとに解決方法に対する判断をしなければいけません。この点については、憲法第76条第3項に明記されています。

裁判官は、民事訴訟ではすべての種類の裁判に登場する登場人物です。一般的な民事訴訟は法廷で行われますが、少額訴訟などは法廷ではなく、会議室のような場所で、ラウンドテーブル法廷と呼ばれる方式で行うこともあります。これは、テーブルを当事者や関係者が囲むような形で座り、そこで口頭弁論を行うという裁判のスタイルです。そこでも議事進行を務め、当事者からの主張や証拠を法律と照らし合わせて解決法を判断するのは、裁判官の役割となります。

裁判官は、一つの法廷に1人だけというケースもあれば、一つの法廷に複数の裁判官がつくケースもあります。複数の裁判官が一つの案件に対応する場合には、複数の裁判官の中から裁判長が1人選出され、裁判長が議事進行や手続きを務める役割を担います。全ての裁判官が全く同じ役割というわけではありません。どのような案件に複数の裁判官がつくのかですが、損害賠償額が大きな案件だけでなく、解決に時間がかかりそうな複雑な案件などがあり、ケースバイケースで決められます。ただし、民事訴訟では複数の裁判官が任命される案件は、それほど多くありません。ちなみに、民事訴訟における調停では、裁判官は2人以上の調停委員とチームを作り、その調停委員会が手続きを進めるのが一般的です。

裁判官になるためには、弁護士になるための登竜門である司法試験に合格する必要があります。司法試験に合格した後に受ける司法修習を終えた段階で、任命されるのが一般的です。ただし、簡易裁判所における裁判官の場合には、司法修習を終えていない人でも、一定の経験があることから一定の手続きで裁判官に任命されることはあります。

裁判官という仕事は、一定の身分保障が与えられています。憲法に基づく手続きによって罷免される可能性はあるものの、裁判官本人の意向に反して転官や免官、転所や定職、また給料の減額処分などはありません。

3. 弁護士

一般的な民事訴訟において、裁判官と並んで大きな役割を果たしているのが、原告と被告がそれぞれ依頼する弁護士です。少額裁判などでは、原告および被告が弁護士をつけずに本人が対応する「本人訴訟」もありますが、法律や民法に精通していることが必要不可欠な条件となるため、決して安易に選択できるものではありません。それに、法律問題がわからないと、主張を間違ってしまって、裁判の結果に大きく不利な結果になることにもなりかねません。

そのため、多くの場合には、原告側と被告側とで弁護士をそれぞれ依頼することになります。どちらの弁護士も法廷に登場し、原告および被告の代理人として、お互いの主張をします。

弁護士の役割は、法廷の中で当事者の代理人となるだけではありません。案件を依頼されてから実際に判決が下されるまで、法廷の内外で、当事者の代理人あるいは補助者として、案件に大きく携わります。裁判所における手続きにおいても、民事訴訟の場合には当事者が手続きをすることが認められていますが、刑事事件の場合には弁護士でなければ手続きできないといったルールもあります。

民事訴訟では、裁判官による判決を待たずに、和解という形でトラブルに決着をつけることが少なくありません。被告側が原告側の主張を全面的に受け入れるというケースもありますが、お互いに歩みよりながら妥協して解決策を模索することは少なくありません。そうした和解において、弁護士は相手側の弁護士と交渉を行うことになります。

弁護士は、依頼者が法廷で勝利を勝ち取るために、証拠や証人を探すなど法廷の外でも奔走します。事務的な手続きを含め、一つの案件に対して弁護士はあらゆる方向から幅広いアプローチをするため、多忙を極めることが多いです。そうした弁護士の多忙を緩和するために、多くの弁護士はパラリーガルと呼ばれるアシスタントを使い、幅広い活動を行います。

弁護士になるためには、合格率が低い、超難問と呼ばれる司法試験に合格した上で、司法修習を終えることが条件となります。その上で、日本弁護士連合会に登録し、全国に複数ある弁護士会に所属することで、日本国内で弁護士として活動できるようになります。

弁護士も裁判官も、どちらも司法試験に合格した人がなれるという点では、共通しています。しかし、法廷において与えられる役割は大きく異なります。裁判官は原告側にも被告側にも肩入れせず、客観的な立場で当事者の主張を法律と照らし合わせながら判決を出すという役割です。しかし、弁護士は客観的な立場で判決を出すために活動するわけではありません。弁護士の役割は、依頼人にとってベストな方法で、法的にトラブルを解決するサポートをすることです。同じ案件でも、原告側と被告側とでは意見や主張は異なりますし、どんな結果が利益になるかも異なります。案件を依頼された弁護士は、そうした依頼人の利益を最優先するべく、法律と照らし合わせながら解決策を模索し、提案することが役割です。

4. 裁判所書記官などの役割

民事訴訟において、主に発言をするのは裁判官と原告側・被告側の弁護士です。しかし、法廷には発言をしなくても、どのような流れで裁判が進められているのかという点を記録する登場人物もいます。

その一つが、裁判所書記官です。裁判所書記官は、裁判の手続きに関して記録を作成するのが主な役割で、その他にも法令や判例の調査においては補助的な役割もしています。法廷内では、代理人や裁判官のやり取りを法律的に構成し、必要な事項を元に調書を作成します。さらに、法廷で出される判決に法的な執行力を与えるための執行分を付与するなどの役割も持っています。裁判所書記官が作成する法定の記録や調書は全て公文書として取り扱われ、法的に高い効力を持っています。

裁判所書記官の役割は、それだけではありません。法廷内で出された過去の判決は、数えきれないほど膨大です。法廷の判決を出す際には、過去の判例などを参考にすることが多く、裁判所書記官は裁判官をサポートするアシスタント的な立場から、裁判運営にも関わります。

原告や被告などの当事者に対して、訴状の不備を指摘し、必要な書類の準備を促すことも、裁判所書記官の役割です。頻繁に行われるわけではない口頭弁論期日をできるだけ充実したものにするべく、書類不備は速やかに事前に訂正するように促すなど、適正で迅速な裁判を実現するために活動しています。

裁判所書記官は、裁判所職員の中から採用されます。そのため、裁判所書記官になるためには、まずは裁判所職員して採用されることを目指さなければいけません。裁判所職員の中から裁判所書記官として抜擢されたら、裁判所職員総合研修所において研修を受け、高度な法的知識を身につけることで、裁判所書記官として活動できます。

裁判所速記官もまた、法廷の中で発言はしないものの、法廷内で大きな役割を担っている登場人物です。裁判所速記官の役割は、法廷において当事者や証人の発言を速記するという事務的な作業です。全ての法廷に裁判所書記官がつくわけではありませんが、証言を全て逐語的に記録しなければいけない場合には、裁判所書記官と共に法廷に立ち会い、速記帳を作成します。

速記というと、手書きで速記をするというイメージを持つ人は多いでしょう。しかし、裁判所速記官の速記は手書きではなくて、タイプライターを使用します。その際には、法廷内で速記帳を完成させるわけではなく、法廷内では証人の発言などを速記符号として記録しておき、法廷が終わってから、速記符号を反訳しながら速記録を作るという作業を行います。

裁判所速記官になるためには、適性検査などの審査を受けた上で、2年間の研修を受けることが必要です。しかし、1998年以降は新規採用や養成がすべて停止となっているため、現在は裁判所速記官になりたいと思っても、なる方法がありません。しかし、弁護士会からは裁判所速記官が持つ役割の重要さを訴える声が多く、もしかしたら今後は養成や新規採用が復活するかもしれません。

5. 民事訴訟の種類によってはこんな登場人物も

民事訴訟の種類によっては、裁判官や弁護士以外の登場人物もいます。例えば、民事訴訟の中でも迅速な判決を求める人に適用される少額訴訟では、裁判官や当事者がテーブルを囲んで裁判を進めるというラウンドテーブル型スタイルを適用することが少なくありません。これは、できるだけ当事者をリラックスさせて、口頭弁論をスムーズかつ有意義に進めるための配慮と工夫です。その少額訴訟では、一般的な民事訴訟には登場しない「司法委員」が登場します。

司法委員は、裁判官でもなければ弁護士でもありません。司法試験に合格していて、法律に精通しているという人物でもありません。司法委員は、毎年地方裁判所が選任する一般市民です。各地方裁判所では、一般市民の中でも豊富な専門知識や経験を持っている人を何人か、司法委員としてあらかじめ選任して、リストを作成しています。そのリストの中から、案件ごとに適切だと考えられる人をピックアップして、司法委員として任命します。司法委員は公平に機会が与えられるわけではなく、どんな専門性で司法委員に選任されたのかによって、裁判に呼ばれる頻度や回数などは異なります。

司法委員は、一般市民の中からニーズに応じて選任されます。裁判所に勤務する職員ではありませんし、普段から司法委員を専業としているわけでもありません。多くの場合には別に本業があり、裁判所からの依頼に応じて裁判に立ち会うことになります。立場としては裁判所における非常勤職員となり、裁判に立ち会うと、それに応じて日当や交通費の支給を受けることになります。

司法委員は、必ずしも学生時代に法学部に在籍していたとか、法律に精通しているといった条件はありません。また、具体的にどんな資格があれば司法委員として活躍できるのかという点も異なります。司法委員は、各裁判において特定の専門分野における高い知識を持っている人物として、裁判官の裁判手続きをアシスタントする役割を持っています。そのため、特定の分野で高い専門知識を持っていることが、司法委員として活動するための最短コースと言えます。例えば、医学的な専門知識や不動産に関する知識などは、司法委員として重宝される専門分野です。司法委員は全国に約6,000人程度が選任されていて、ニーズに応じて裁判のアシスタントをしています。

民事訴訟の中でも少額訴訟においては、裁判官を始め、司法委員や裁判所書記官、そして原告と被告が主な登場人物となります。少額訴訟は1回の口頭弁論期日だけで判決が出るという点が特徴で、案件によっては弁護士ではなく、本人訴訟になることも少なくありません。しかし、当事者が少額訴訟のつもりでいても、予想以上に複雑な案件だと、1回だけの口頭弁論期日では判決が出ない可能性はあります。そのため、必ずしも1回だけの期日で終了するわけではないという点を、理解しておかなければいけません。

6. 民事調停での調停委員など

民事訴訟では、法廷に案件を持ち込む前にトラブルを当事者同士の話し合いで解決するために、民事調停という方法が取られることがあります。民事調停では、法廷ではなく、ラウンドテーブル型の話し合いが行われます。そして、裁判ではないので裁判官は出席しないという特徴があります。民事調整における主な登場人物は、裁判官の役割をする調停主任に加えて、調停委員や裁判所書記官、そして申立人と相手方の当事者となります。

このうち、調停主任はそのような資格があるわけではなく、調停官や裁判官が調停主任というポジションで立ち会います。調停官は裁判官と同等の権限を持ち、基本的には5年以上の経験を持つ弁護士の中から任命されます。裁判官と大きく異なる点は、裁判官は裁判を幅広く取り扱う裁判所の正職員であるのに対して、調停官は調停手続きのみを取り扱う非常勤職員という点です。

調停委員は、その調停官や裁判官とともに結成される調停委員会のメンバーとして、トラブル解決をサポートする役割があります。調停は、当事者のどちらの言い分や主張が正しいかを決める場所ではありません。調停に携わる調停委員は、当事者の主張や意見を聞きながら、持っている高い専門的な知識を元に、調停に貢献します。基本的には、調停委員は朝廷内で発言をすることはありません。しかし、場合によっては、専門家としての立場で意見を述べることは認められています。

調停委員は、弁護士の資格を持っている必要はありません。特定の分野において高い専門知識を持っている人が、適任のポジションで、一般市民の良識を調停に反映させる目的で選任されます。年齢的には40歳以上70歳未満の人が対象となりますが、一般市民の中から幅広い専門分野において高い知識を持っている人が選出されることになります。具体的には、弁護士が選出されることもあれば、医者や会計士、建築士や不動産鑑定士などの資格を持つ人が選任されることが多いです。ただし、必ずしも特定分野の専門家でなければいけないというわけではなく、地域社会に大きく貢献してきた人とか、地域に密着してきた人など、調停の内容やニーズに合わせて適任者が選ばれることもあります。

調停委員は、案件によって選任される人数は異なります。1人だけということは珍しくありませんし、男性とか女性を当事者が指定することはできません。しかし、民事訴訟の中でも夫婦関係のトラブルを解決するための調停の場合には、公平を期するために男女1人ずつ調停委員が選任されます。

調停委員も、普段から裁判所に勤務する裁判所職員ではありません。案件のニーズに応じて招集される非常勤職員という立場となります。いつどんなニーズで呼ばれるかが異なりますが、調停に携わった時には日当や必要な交通費などが支給されることが、民事調停法第10条に明記されています。

7. 労働審判での労働審判員

民事訴訟の中でも、労働審判手続きにおいては、労働審判員という人物が登場します。労働審判では、主に労働関係に関するトラブルを解決するための調停を行います。労働審判手続きとは、調停で解決しないトラブルに対して適切な労働審判を行う手続きのことです。具体的には、当事者同士の主張や証拠を元にして、まずは調停を行います。3回以内の口頭弁論期日で審理を行いますが、ここで調停がまとまらない場合には、具体的にどんな解決法があるのかという点を労働審判に基づいて行うというのが、労働審判手続きです。

労働審判手続きでは、裁判官が労働審判官として審判手続きを進めます。労働審判員は、その労働審判官を中心に構成されている労働審判委員会のメンバーとして、公正で中立の立場から手続きに参加して働きます。

具体的に何をするかというと、労働審判員は労働審判手続きの期日に立ち会います。そこで、当事者の主張や言い分を聞き、内容を整理したり提出された証拠を調べながら、調停内での解決を支援します。しかし、裁判ではないため、労働審判員が解決策を提示するというわけではありません。当事者からアドバイスや意見を求められれば、専門家の立場から意見を述べることはありますが、基本的には労働審判員は労働審判官をサポートする立場にあるため、直接的な介入をする事は稀です。

労働審判員は、一つの調停に対して複数が選任されます。調停の最後に労働審判委員会による決議が行われることがあり、その際には過半数の意見で決議が可決されるかどうかが決まるためです。これは労働審判法第12条1項に示されています。

調停においては、案件が関係する分野において、高い専門知識を持つ専門家が委員として選任されることが多いものです。労働審判においては、取り扱う案件が労働問題に特化しているため、労働審判員は労働関係に対して高い専門知識を持つ専門家が選任されます。労働問題と言ってもトラブルの内容は幅広く、個別の案件ごとにその分野に対して高い知識を持つ人が、裁判所から指定されるという仕組みとなります。

8. 民事で活躍するパラリーガル

民事訴訟では、法廷に立ち会うことはないけれども、弁護士の裏方として活躍するパラリーガルも忘れてはいけません。パラリーガルは裁判所に勤務する常勤スタッフではなく、それぞれの弁護士が雇用している、弁護士のための専門スタッフです。事務的な作業をこなす役割から、弁護士の手となり足となり、案件のニーズに応じて証人や証拠のために走り回るなど、幅広い職務をこなします。分かりやすく言うなら、病院で患者の対応をする際に医師のサポートをする専門的な看護師のような役割と言えます。

パラリーガルはもともとアメリカで誕生した仕事で、近年では日本でも弁護士をサポートするアシスタント的な仕事として広く認知されています。パラリーガルは、弁護士が取り扱う案件について、弁護士の指示によって必要なサポート業務を行います。弁護士の国家試験を目指す人がパラリーガルとして弁護士事務所で働くケースもあり、必ずしも弁護士を目指している人でないこともあります。職務的に法律に対して高い知識を持っていることは必要不可欠なスキルとなるものの、実務で学ぶこともできるので法律関係の資格がなくても従事できます。