「連れ去りをされた(家を追い出された)!」そんなとき、自分の子どもを取り戻すのには、どうしたらよいか?
監護者指定・子の引き渡し・審判前の保全事件をどう進めたらよいのか?
こういったことについて、専門的弁護士が解説します。
Contents
- 1. 連れ去りをされたとき・家を追い出されるという事件が増えている
- 2. 子を取り戻す方法:子の監護者指定・引渡しの審判と審判前の保全処分
- 3. なぜ、子の引渡し・監護者の指定の審判のみではなく、審判前の保全処分も申し立てるのか?
- 4. なぜ、監護者の指定の調停を申し立てるのでは、だめなのですか?
- 5. なぜ、親権をきめない?親権者の指定のを申立てをしないで、子の引渡しを請求するのか?
- 6. 「監護者の指定・子の引渡しの申立て」と審判前の保全処分が必要なのは、どういう場合ですか?
- 7. 子の引き渡しと親権紛争との関係は?
- 8. 子供を取り戻すのであれば、人身保護請求という手続の方が早くて、よいのではないですか?
- 9. 人身保護請求であれば、非常に早く手続きが進むのですか?
- 10. 勝手に連れ去られたのですから、裁判所の手続などせずに自分で連れ戻してきてはいけませんか?
- 11. 子の引渡しの審判・審判前の保全処分の申立をすると、相手が怒ってしまって感情的になってよくないのではないでしょうか?
- 12. 保全事件で迅速に命令をもらっても、それは仮の命令ではないのですか?
- 13. 審判前の保全処分が認められる要件は?
- 14. 子を取り戻すための具体的手順(監護者指定・子の引渡しの家事審判・保全処分の流れ)について
- 15. 私は、ずっと妻(夫)と裁判をしていたくないのです。子供のことですから誠実に話し合いたいのに、全く直接話すことができないのですか?
- 16. 審判が出たあとの手続
- 17. 保全処分が認容されたのに、相手方が子供を引き渡さない場合には
- 18. 子の引渡しの強制執行とは?
- 19. いつまで執行は可能ですか?
- 20. 子の引渡しについては、急いで申し立てをしないといけないのはなぜですか?ゆっくり話し合いをした方が解決できませんか?
- 21. 子の引渡し請求の事件を弁護士に依頼するメリット
1. 連れ去りをされたとき・家を追い出されるという事件が増えている
わが国では先進国でも珍しく、離婚すると親権者になれるのは一人です。戸籍に書かれるのは親権者としての父か母のみ。
というわけで、海外のように離婚してからも共同親権を基本とする法制度よりも、子の奪い合いが深刻化します。
夫婦の仲が悪くなった時、多くの親は子をどうするべきか、悩むでしょう。子供が小さいとなおさらです。離婚しても、毎月何度も会えるのなら、お母さんに託そうとか、今の家に慣れているし学校を変えるのはかわいそうだから父に任せて、自分は近くに住んで会いに来ることにしようとか・・・うまく話し合って、「共同養育プラン」を作れればよいでしょうが、それがなかなかできません。当事者は離婚するくらい仲が悪いわけですし、相手の不倫・暴力・借金などが問題になって離婚話になっているわけなので、簡単に話し合いなんて、できませんよね。
イギリス、米国などのように、子どもの監護の計画を裁判所に見せたり作成したりしないといけないというのであれば、「お互い協力して決めないと・・・訴訟で争ったら弁護士費用もべらぼうにかかるし子どももかわいそうだ!」ということで、「話し合いをしよう!」となりやすいですし、メディエーションというような民間の話し合いの場所があって弁護士などの関与のもとでどうやってこれから養育するかを話すのを助けてくれる機関があれば、そういうこともやりやすいかと思うのですが、残念ながら日本にはそういうシステムはありません。
そこで、カオス的状況の下で、たとえば夫が脅したり騙したりして、妻を家から追い出すとか、親権争いで有利になるからと母や父が子を連れ去ってしまうという事案が年々増えています。特に多いのは、後者の「連れ去り」です。連れ去りは、母がするときもあれば、父がするときもあります。また、連れ去り後の居所(どこにいるか)を隠してしまって、全く子に会えない状況を作出する場合もあります。
多くの場合、子は父母の紛争で疲れ果てているのに、住む場所が変わって片親に会えなくなり、不安な気持ちを募らせストレスで病気になることもよくあります。
2. 子を取り戻す方法:子の監護者指定・引渡しの審判と審判前の保全処分
同意なく勝手に子を連れ去られ、子を置いてきてしまったけれど子を取り戻したいとき、その親がするべき手続きは、現在の家庭裁判所実務ではほぼ確立した方法があります。
自分が子の監護者であることを指定してくださいという申し立てと、それを前提に自分に子を引き渡せという命令を出してくださいという二つの審判の申立です。
これに早い審理をしてもらうために保全処分の申立てもします。
つまり、申し立てをするのは以下の事件になります。
これを、私は「申立三点セット」と以下は呼ぶことにしますね。
- 監護者の指定の審判
- 子の引渡しの審判
- 上記二つを本案とする審判前の保全処分
3. なぜ、子の引渡し・監護者の指定の審判のみではなく、審判前の保全処分も申し立てるのか?
審判前の保全処分とは、保全処分は、緊急性が要請される事案において、権利を保全するために裁判所によって行われる暫定的な処分のことをいいます。
子の監護者指定・引渡しの審判を申し立てる際は、通常、それらの保全処分を合わせて申し立てます。
保全処分の申立てを行うメリットとしては、次の点があげられます。
保全処分のメリット:迅速な決定
子の監護者指定・引渡しの審判手続は、離婚訴訟ほど時間はかかりませんが、裁判所が関与する手続ですので、一定程度の期間がかかってしまいます。
しかも、審判の場合、裁判所が調停手続きにしてしまうことができるので、そうすると合意形成ができるまで話し合いをすることになってしまって、審判申立てから結果が出るまで1年以上かかることも、しばしばです。その間、子とはほとんど会えないこともあります。
保全処分は、緊急性がある場合にだけできる手続ですので、保全の必要性については主張立証が必要ですが、期日(裁判所で手続が実施される日)を通常事件より早く指定してくれたり、調査をスピィーディーに実施してくれます。
そのため、保全処分には迅速な解決が期待できるというメリットがあります。
4. なぜ、監護者の指定の調停を申し立てるのでは、だめなのですか?
調停ではだめということはありませんが、早く子供を取り返したいという方には不向きです。子が大きくて意見もしっかり言えるし、話し合いの間にはきちんと面会交流(親子交流)もできているので、白黒をすぐにつけなくても「ゆっくりでよい」という方なら、調停でもよいでしょう。
調停はスローに進みます。霞が関の東京家裁では事件が多く月に1回も期日が入らないことが多く、そうすると申し立てから期日が3回はいるのには半年以上かかっていることもよくあります。
しかも、調停は話し合いの場なので、調査官の調査がなされるかは事件次第です。調査官の調査があっても話し合いが平行線であるようなとき、裁判官の方で調査を命令しないこともありますし、何より今は調査官が大忙しなのです。
子どもの奪い合い、子の引渡しの事件は倍増しているけれど、調査官は増えていません。
そして、調停ではなにも合意ができないことも多く、そうなると「不成立」となり、ここからやっとに「審判」の手続きになります。やっと審判のスタートに立つときには1年過ぎているということが多いのです。1年もたてば子が新しい場所になじむので裁判所が引渡しが子の利益に反するという判断をする可能性が高まるのです。
よって、急いで取り戻したい、子が小さいという場合には、審判に保全処分をつけて申し立てをすることがベストといえます。
5. なぜ、親権をきめない?親権者の指定のを申立てをしないで、子の引渡しを請求するのか?
子どもの奪い合いは親権争いだから、なぜ、親権者にしてくれという申し立てをしないのか?と思われるかもしれませんが、親権者は離婚の際にしか決められません。
よって、離婚訴訟を提起したときに自分を親権者にしてくれという申し立てもすることになります。協議離婚をしようとしても、親権者が決まらないとできませんので、訴訟提起が必要なのです。
しかし、離婚訴訟では訴訟をいきなりやらないで、先に調停をして話し合ってみましょう・・という調停前置主義が法律で決められているのです(条文は下記なのでご参考にされてくださいね)。ですので、いきなり訴訟もできないわけです。また、離婚のときには財産分与・慰謝料・養育費といろいろなことを決めないといけませんから審理も1年近くかかります。親権紛争がある場合には、もっとかかることもあります。
<調停前置の条文>
家事事件手続法 257条1項
244条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申し立てをしなければならない。
調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申し立てをしなければならない」と定められており(家事事件手続法257条1項)、離婚訴訟もその対象となっています。 この内容は「調停前置主義」と呼ばれています
つまり、最終的な親権紛争の結末をまっていると、子どもは自分のところに戻ってくるのが遅くなるし、そのうちに子どもが新たな生活に慣れてしまって、「監護の継続性」という観点から子の引渡しは認められにくくなり、子は戻ってこない、親権も失うということになってしまうからです。
この仕組みを知らない弁護士に依頼すると、「お母さんだから親権者にはなれるから調停ではなせばよい」などと、調停申立てをしてしまっているというケースも、見られるので注意しましょう。
6. 「監護者の指定・子の引渡しの申立て」と審判前の保全処分が必要なのは、どういう場合ですか?
夫婦の仲が悪くなり、将来の親権争いを見据えて、子の奪い合いが発生している夫婦の場合には、子の「監護者の指定」が事件類型として必要になります。
自分の手元に子どもがいて、離婚の話し合いが調停でできている人は、とりたててこの事件を申し立てる必要はありません。
また、子の親権・監護権を将来的にもほしくない、面会ができればそれでよいという人も、
監護者指定の審判を申し立てる必要はないでしょう。
典型的には、「母または父の承諾なく、一方的に子を連れ去られてしまってどこにいるかもわからない。」「弁護士から通知が来て、婚姻費用とかお金の請求だけされる。」「親権を相手に渡す形での離婚も求められている。」「虚偽のDVについて非難されていて、自分が犯罪者であるかのように相手弁護士に責められている」「連れ去りをされて子どもに全く会えない」というような「連れ去り事案」においては、このような申立三点セットが必要であるようにおもいます。
このような「連れ去り」別居(特に妻が子を連れ去って、弁護士からの通知がくるという事案で、虚偽のDVの主張もするつもりのようだ、というもの。)は増えており、父親はある日いきなり子どもと会えずどこにいるかもわからず「途方に暮れる」「こんなことがまかり通るとは日本はどうなっているのか」などと思って精神的にボロボロになるということがよくあり、ご相談に来られたときには会社も辞めようかと思っているとか、うつ状態になってしまっていることもよくあります。
連れ去りをされた場合に、妻の弁護士からDV(夫の方では暴力をふるった覚えはないとか、お互いの喧嘩ですこし大きな声を出した程度でもDVと書いてあってびっくりすることも多いようです。)の被害者であったと書かれ、将来、高額慰謝料を請求できるかのようなお記載まで・・・・・ということもあるようです。
子の居場所はわかっているような時でも、絶対に会いに来るなとか、子どもに勝手にあったら刑事事件とするというような、通知をもらった方からしたら「脅し」に近いような弁護士からの通知が出されることも、あるようです。
一方で、女性が被害者になることが多いのが、自宅を締め出されてしまって子どもに会えないという事案です。不倫を疑われたとか、DVが怖くて家にいられなかった、精神的に追い詰められて何も考えられなくてとにかく実家に戻ってみたなど、何かそれなりのきっかけがあって家を出てしまった・・・・、別に親権をあきらめるつもりはなかった、子どもに会いたい、子どもを取り返したいという場合です。もちろん、男性でも同じように家を追い出されることはあります。男性が、婿養子のように妻の実家に住んでいたりすると、力関係が弱くて追い出されることがあります。
監護者指定の審判は、離婚が成立するまでの間(正式な親権者が決まるまでの間)、一時的な監護者として自分を指定してくださいというものです。そして、それに加えて子を自分に引き渡すように相手に命令をしてくださいというのが、子の引渡しの審判の申立てになります(このような実務が確立しているように見えるものの、共同親権にある夫婦の片方が本来、どうして監護権を失えるのかという法的基礎がなく、このような手続きについては法的疑問もありますが・・・)。「監護者になってよいですよ」という命令をもらって、相手が子どもを任意で戻してくれないと子どもは戻ってこないので、子を引き渡しなさいせという命令も出してもらい、もしも返してくれないときには子の引渡しの強制執行をできるようにしておくために、こちらの申し立ても必要になるのです。
このような理由で、子の監護者指定・子の引渡しの審判も申し立て、急いで事件を進めてもらうため、「保全処分」も申し立てるのがベストなので、三点セットが必要になります。
(もっとも、このような子どもの奪い合いは、多くの場合、親二人が子どもへの愛情を持っていて、真剣に奪い合っているのですから、何とか折り合いをつけて和解的解決をして子どもさんがお父さん、お母さんを失わないようにするのがベストなのですが、なかなか当事者のみでは、そういう着地点に到達できないというのが現実です。そういう当事者をサポートして子どもの利益を守るという制度は、わが国には全く欠けていると言わざるを得ません。残念ですが・・・)
7. 子の引き渡しと親権紛争との関係は?
監護者指定・子の引渡しの事件は、親権紛争の前哨戦になっているのが現実です。 本来であれば、子の監護者指定・引渡しの審判は、離婚において親権の決着がつくまでの「一時的なもの」のように見えるかもしれません。
しかし、子の監護者指定・引渡しの審判が認められて子が引き渡さされれば、仮に、その後の離婚訴訟で親権がさらに争われても、勝てる見込みが高くなります。なぜならば、親権者の判断基準において、監護の継続性というものが重要視されているからです。つまり、離婚調停や離婚訴訟の前にこれらの事件を行って、とりあえずはお子さんがどこに住むかを決めるので、その後、その決定に従った場所に子が住むことになり、同居する親は子の引渡しを認められた親になります。
あるいは、子の引渡しが認められなかったらば、連れ去りをした親や片親を家から追い出した親、または家に取り残された親が「同居する親」になります。
一方で、親権が争われている場合、離婚裁判は、通常、長期間を要する傾向にあります。まず、婚姻費用でも合意ができないことが通常ですので、その事件が審判として家裁や高裁で争われてしまいますので、その事件もあります。
そうやって、裁判所でいろいろなことを争っている期間、その親の監護はどんどん長期化します。子どもはその環境になじみます。離婚の裁判の判決の際に、お父さんもお母さんも親権者となる意欲もあるし、環境も整えているけれど、そうであれば今の監護のままでよい、子どもの環境が変わるのはかわいそうだ、リスクもある・・・という判断になりがちです。
したがって、最終的な離婚訴訟(離婚裁判)の判決においても、その親が親権者と指定される可能性が高くなるのです。
このような状況から、子の監護者指定は、親権の前哨戦になってしまいがちです。
8. 子供を取り戻すのであれば、人身保護請求という手続の方が早くて、よいのではないですか?
確かに「人身保護請求」という手続があります。これは、ヘイビアス・コーパス(人身保護令状)という英米法の制度に由来するもので、イギリスの清教徒革命の際に制定されたものです。拘束された人の拘束を解いて自由を回復する制度で、拘束者に対する罰則がないという特徴があります。過去には親の間の子の奪い合いにおいてもこの制度が使われていました。
しかし、判例の積み重ねで夫婦の間では、人身保護請求がほとんど機能しない手続きになっています。現在では、親が他の親に連れ去られた子を取り戻すのに用いるには、かなりハードルが高いのです。
人身保護請求が認められるための要件は以下のようなものです。
- 子が拘束されていること(拘束性)
- 拘束が違法であること(違法性)
- 拘束の違法性が顕著であること
- 救済の目的を達成するために,他に適切な方法がないこと(補充性)
(人身保護規則4条)
親の間の子の奪い合いでは問題になるのは、拘束の違法性が顕著であることです。
違法性が顕著であるというには、第三者の親権も監護権もないものが子の拘束を開始した場合に認められます。片親が子を匿ったり、奪取した場合、共同親権を有しているのでその監護は、「親権に基づく監護」とされてしまいます。
自分の子供を自分がお世話しているだけです!となるのです。確かに、他の親の監護権・親権の行使ができなくなっているので、今の拘束状態は違法だと連れ去られた人からは言いたいところですが、顕著な違法性がないというのが判例の考えです。
平成5年10月19日の最高裁判例は、共同親権者が子を拘束している場合に「顕著な違法性がある」というには、「拘束者が幼児を監護することが,請求者による監護に比して子の福祉に反することが明白であることを要する」としました。この最高裁の判断によれば、通常の片親(母が多いです)の監護はそのような明白に子の福祉に反するということが、ほどんとありません。ですので、請求は認められないということになりがちです。
もっとも、すでに、子の引渡しを命じる審判や保全処分が出されているのに、それに応じていないとか、すでに、親権者として自分が決まっていて離婚届けを出したのに、相手が子を拘束しているというようなときで、相手の監護ではとても健康的ではないし学校もきちんと行っていないというようなあまりに監護状態が悪いときには親権濫用として、人身保護請求が認められることがあります。
ただし、本人で行った家事調停において、の親権者につき合意に達していない段階で、子をある程度の期間相手方に引き渡すという約束をしたという事案では、調停での約束に反して子を戻さなかった父に対して、厳しい判断がされています。
<最高裁判所平成6年7月8日決定>
調停で合意したにもかかわらずそれに反して子どもを拘束し続けたお父さんの事件です。子どもの住民票を拘束者の住所に移転したなどしていて、拘束に顕著な違法性があるものとされました。
(二度と子供に会えないと思って拘束したという主張を父親はしています。)
この原判決は、「急きょ被拘束者らの住民票を請求者に無断で拘束者の住所に移転し、拘束者の住所地において、被拘束者らの入学等の手続を進めている。このような拘束者の性急な行為は、一般的に、幼児にとって居住環境を安定させること、感じ易い年齢の女児にとって母親の存在が大切であることについて配慮しないものであることに加えて、いたづらに紛争が複雑化することを顧みず、単に被拘束者らを自らの手もとにとどめて家事事件手続を自己の望む方向へ進行させようとするものとみられても仕方がない」と厳しい指摘をしています。
裁判所での約束、当事者の明確な約束に反した場合(面会交流中に子を戻さないような場合)、最高裁の判断では人身保護請求が認められるということになりそうです。
<最高裁 平成30年3月15日 第1小法廷判決>
これはハーグ条約の事件です。すでにハーグ条約の返還命令が出ていた場合の事案で「条約の実施に関する法律に基づき、拘束者に対して当該子を常居所地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず、拘束者がこれに従わないまま当該子を監護することにより拘束している場合には、その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り、拘束者による当該子に対する拘束に顕著な違法性がある」とされて人身保護請求の要件が充足することが認められました(差し戻し判決ですが、人身保護請求を認めるべきであることが明言されています)。
9. 人身保護請求であれば、非常に早く手続きが進むのですか?
人身保護請求の手続は、非常に早く進みます。
○ 人身保護請求の特徴
人身保護請求では、請求者は弁護士を代理人として請求しなければならない(弁護士強制主義)とされ(人身保護法3条)ています。子に代理人がいない場合には、裁判所により選任された国選代理人(人身保護法14条2項,人身保護規則31条2項)が代理人になります。よって、この費用を申立人が予納しなければなりません。
非常に迅速な手続きで審問期日は請求のあった日から原則として1週間以内にあります。判決の言渡しは審問終結の日から5日以内に行われます。上訴期間は3日以内と厳しいです。
審判で引き渡しが命じられたのにそれに相手が応じない場合、面会交流中に相手の親が子どもを拘束して戻さない場合には、この手続きを考えるべきでしょう。
10. 勝手に連れ去られたのですから、裁判所の手続などせずに自分で連れ戻してきてはいけませんか?
勝手に連れて行ったのだから、自分で取り戻したい!
自分が追い出されただけなので、子どもを連れだしてきたい!
こういう気持ちになる方がいるのは、ある意味とても自然です。しかし、判例の蓄積により、単独で監護をしている状態になってしまったのちに、子を連れ戻すことは「許されない自力救済」と考えられています。
もっとも、事案によっては一日のうちに何度も奪い合いがあるようなこともあり、一体どれが違法な奪取なのかわからないという複雑な事案もでてきていますし、そもそも「連れ去りをしない」という約束に違反して連れ去り別居をした親もいますので、事案ごとに複雑です。(そういう場合なら、約束に反したということを重くみれば、人身保護請求も認められてもよいといえそうです。そのような判例はまだないですが・・・)
これまで、裁判所の平成17年くらいからの判例の蓄積では、片親と同居していた状況になっている子を勝手に連れだして返さない、面会交流のふりをして奪取する、親類が暴力的方法を使って連れ去る、というような事案では、その奪取が「違法(違法な連れ去り)」と評価されています。
違法な奪取とされると、裁判所はその奪取をして今子の監護をしている状態を許さないので(追認しないので)、子を引渡せという決定が迅速に出ます。
家を追い出された母親がいかにそれまで専業主婦であって子どもの面倒を看ていたとしても、勝手に取り戻してしまうと子の引渡しの命令が出てしまう可能性が高いです。もっとも、その状況で子があまりにひどい環境で監護されていれば違法であるという評価は受けない可能性もあります。
先に連れ去って別居を始めたときだって「自力救済」であって同じように違法のはずだと、言いたくなるのも人情ですが・・・・実際、アメリカの刑法では、父母のいずれもが親権(監護権)を有する場合で、一方の親が他方の親の同意を得ずに子どもを連れ去る行為は犯罪(実子誘拐罪)です。なお、イギリス・オーストラリアでは、国内での親の連れ去りは犯罪とはしていません。
現在の裁判所は、親の連れ去りは違法とは考えないが、子のために必要であれば子の引渡し命令をだし、家庭裁判所の手続で子を取り戻せるようにする、いったん子を連れだした親への子の取戻しは司法手続によるものとし、そうではない自力救済による連れ戻しについては、奪い合いを際限なくするので認めない、という立場といえます。
しかし、子の現状の監護があまりに劣悪であるような場合とか、別居してからまだ時間が経過しておらず安定した監護状態に形成されていないような微妙な場面では、連れ去りが違法とされるかどうかは、ケースバイケースですし、子の意思にもよると思われます。
また、相手が自力救済で子を奪取したので取り返したというような場合に、裁判所がどのような判断をするかは事案によりましょう。
11. 子の引渡しの審判・審判前の保全処分の申立をすると、相手が怒ってしまって感情的になってよくないのではないでしょうか?
子供を取り戻す手段として、法的に認められている方法は、子の引渡しの調停・審判・審判前の保全処分のセットです。それは上記でご説明した通りです。
しかし、もちろんそれで認容されないとき、子供の引渡しを受けられません。申立をしない方がよかったのではないか?むしろ相手に費用をかけさせて怒らせてしまって、面会もしにくくなったのではないかということもありえます。
相手が子供と同居していて、その相手の感情を害してしまうとかえって大変だというのは、感情面としては考慮するべきことでしょう。
そういう意味で、子どもの事件はマニュアルの通りに進めるのがよいわけではありません。
裁判所への申立は自力救済ではなく、本来なすべきことをやっているのであり、本来何ら責められるものでは無いのに、相手の感情を考えないといけない・・・・このような制度になっていること自体がおかしなことでもあります。
ですので、申立をしても折り合えそうであれば、当事務所では和解的解決を常に試みています。とにかく戦うことが大事、勝つことが大事なのではなく、夫婦が仲良くできないという現状で、子を育てるという今後の長期的な責務(プロジェクトといってもよいかもしれませんね。)についてどう親が責任を果たすのがよいのか・・・この問題が本来の問題なのです。
申し立てをすると不信感を持った相手方が、今後、子どもとあなたの面会させることを認めたくなくなることは確かにありえます。
しかし、一方で大抵の事件では審判の最中に今後の子供の面会について同居親が裁判所に聞かれますので、「面会は適切に行うつもりです」という回答をする親が多いのです。そういう回答や姿勢が監護者指定において、重要なファクターになります。そして、そのような回答をした親はその後、裁判所で言ったことですので守ってくれる可能性が高くなります。
単に、離婚調停で「親権をこちらによこすなら離婚します!」などと主張していても、決してそこで折り合えることはないので、子を監護していきたい、相手との面会についてはこのようにやっていく、経済的にもこのように今後のプランがありうます・・・などと二人の親が真剣に監護のプランをつくって裁判所に見せてアピールをするという機会そのものは、通常無駄にならないことが多いと思います。
また、調査官の調査では、虚偽DVなどについては証拠もなく認定されていないことが多いですし、調査官との面接では本人が語りますので、本音が出ていることも多く、それによって紛争の姿が代理人弁護士には見えてくることも多いです。当事務所ではそのようにみえてきた紛争の姿(依頼者のサイドからではなく相手から見えているもの)についてもご説明して、お子さんのために折り合った解決(和解的解決)をできないか、模索しています。
相手の感情を逆なでしてしまって、その後の面会ができなくなる「リスク」は」ないわけではありませんが、むしろ面会がしやすくなることも多々あります。
さらに、子の引渡しの申立をしない場合、子どもと全く会えないまま調停期日だけが進んでいき10カ月子どもに会えていない・・・・という事案もよく見かけます。親との暮らしの中で、片親を忘れてしまったり、一緒にいる親から偏ったイメージが刷り込まれてしまうこともあります。そして、時間が経過すれば、どんどん子どもを取り返すことは難しくなります。
母親なら取り返せると思っている方が多いのですが、そんなことはありません。
子どもの監護をしたい、子どもを取り戻したい、あるいは、親二人で監護を協力してやっていきたい、という方であれば、申し立てをしてみることは意味があることが多いと思います。
でも、監護ができるプランがないのに意地で親権は自分がもらうと思っている方には、お勧めできません。
子を引き取って自分が主として育てないという考えがなく、会うことができればよいという場合にはこのような三点セットは不要であることが多いので、その辺りは弁護士ときちんと協議して進め方を決めるべきです。
当事務所では国際結婚事案も多いので、かなり面会が多く共同養育に近いような解決事案も経験しています。夫婦が仲たがいしても、子どもと親の関係は重要だと思う当事者も増えてきていますし、裁判所の調査の過程でそういう考えが芽生える方もいます。
また、調査で見えてくる「子どもの声」もあります(残念ながら、調査は短時間であり同居する親に報告書を見られることがわかっているのでか正直に話せない子もいますが・・・)。
常に、子どものためにどういう解決がよいのか、その姿勢を忘れないのであれば、申立てをしたことで面会ができなくなるリスクはミニマムにできるように思います。
12. 保全事件で迅速に命令をもらっても、それは仮の命令ではないのですか?
その通りです。それは仮の命令にすぎませんが、でも強力なものです。
審判前の保全処分の決定は「仮に」あなたを監護者に指定して「仮に子を引き渡せ」という命令をするだけですが、の命令には大きなメリットがあるのです。
<審判前の保全処分で子の引渡し命令をもらう大きなメリット>
すぐに、強制執行ができること!
通常、家裁の審判が出ても、即時抗告されると強制執行はできません。つまり、子の引渡しの審判で勝っても、同居している親が高等裁判所に「即時抗告」をして高等裁判所でもさらに争うと、子どもの引き渡しを求められず、審理が続きます。
したがって、家裁が終わっても高裁の結果がでて確定するまで、子どもは手もとにもどりません。それはとてもつらいことです。
しかし、保全処分では緊急性があるとされているので、即時抗告がされても執行停止の効力が認められません。ですので、保全処分で「仮に引き渡せ」という命令が出た場合、相手がこれに不服があるとしては即時抗告を行っても、相手は執行力があるので、子を引き渡さなければならないのです。
なお、相手方がこの執行を止める制度はあります。でも、原審判の取消しの原因となることが明らかな事情及び原審判の執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることについて疎明が必要ですし(家事事件手続法111条)、これはとても難しくまず認められません。
よって、家裁で保全処分が認められてしまえば、相手方はまず子を引き渡し、それでも納得できないなら高等裁判所に即時抗告することになりますが、その前に協議をして面会交流などの合意をして、和解的解決をはかることが多いかとおもいます。うことになります。
13. 審判前の保全処分が認められる要件は?
このように子を奪われて取り戻したい親にとって。子の引き渡しの本案における審判前の保全処分はメリットが大きいものですが、要件も厳しいものです。
審判の申立てから終局審判が効力を生じるまでの間に強制執行による権利の実現が困難とならないように、関係する人の生活が危険に直面することないように、このような保全処分を認めているのです(家事事件手続法105条1項)。
ですから、急がないと将来の強制執行ができないとか、生活の危険がないとだめなのです。
子の引渡しの審判前の保全処分においては、疎明しなければいけないことは以下です。
- 強制執行を保全する、または
- 子の急迫の危険を防止するため必要
- 本案認容の蓋然性
こういったことの主張を申立書にキチンと記載しないと受け付けられませんが慣れた弁護士であればどういうことを書けばよいか、わかっています。
判例では、「子の福祉が害されているため早急にその状態を解消する必要があるとき」とか、「本案審判を待っていては、目的を達することができない」というようなときに保全の必要があるとされています(東京高裁決定平成15年1月20日家裁月報55巻6号122頁)。たとえば、子の居所が隠され安否もわからないというのは、保全の必要性になると思われます。
14. 子を取り戻すための具体的手順(監護者指定・子の引渡しの家事審判・保全処分の流れ)について
14-1. 弁護士に相談して事件を委任
子を連れ去られた、家から閉め出されて子を奪われたという方は、迅速に弁護士に相談しましょう。このとき、子の引渡しの審判・監護者指定・審判前の保全事件について経験の多い弁護士に依頼しましょう。
状況を説明して、どういう方法がよいのか協議します。
そして、事件を委任します。
委任するには委任契約書をつくりますので、その案を見せてもらって報酬について説明を受けましょう。
14-2. 申立て書類の作成
弁護士に依頼すれば、書類はすべて弁護士が作りますし、提出も弁護士がします。
裁判所とのやりとりは自分がすることはありません。あなたは、証拠となる資料を出したり、申し立ての理由としてのこれまでの経緯を詳しく弁護士に説明して、申立書に正しいことを書いてもらえるように、確認しましょう。
審判の申立ては書面でしなければなりません(家事手続法第49条第1項)ので、弁護士が申立書をつくります。
14-3. 申立てから最初の期日まで
審判の申立てはなるべく早くして最初の期日もなるべく早くするべきです。当事務所では委任状をいただいて3から7日で申立てをしています。
特に子の居所もわからないような場合には、管轄裁判所が分からないという問題があることがあります(居場所がある程度わかっていれば子の子の所在地を管轄する裁判所に申し立てができます)。どうしてもわからない場合には、弁護士と相談しましょう。
14-4. 審判の最初の期日
家庭裁判所の担当書記官が審判手続の最初の期日を調整して、代理人・本人が出頭できる日を決めます(家事事件手続法51条1項)。
審判前の保全処分を申し立てているとそうでない場合よりも早く、第1回目の期日が指定されます。
当事務所では裁判所の担当書記官に電話してなるべく早い期日を指定してもらえるようにします。また、相手方の代理人がいる場合には、子との面会が任意でできないか(相手事務所でも・・・)についても模索します。
期日には、担当の裁判官が手続を指揮する権限をもっておりその指示にしたがわなければいけません(家事事件手続法51条1項)。
通常、この期日の前に相手方から裁判官の指示で答弁書が出され、申立ての理由に書いてある事実などについて、何を争うか、何を争わないかについて詳細に弁護士が記載し、適宜証拠を提出しています。もっとも、この日に間に合わなければその後で期限を決めて、答弁書を裁判所と申立人の弁護士にだします。
審判の期日には、裁判官から、申立人や相手方に対して、連れ去りの形態とか別居の経緯、今の監護状況などについて質問がされ、弁護士や本人が回答することが多く、本人が回答を求められる場合には、その手続きは「審問」と言います。書面に書いてあることの明確化とか今後の証拠の出し方というような問題は、弁護士が対応します。
弁護士が代理人となっている場合、通常、弁護士と当事者がとともに、審判の期日に法廷に出頭します。
法廷は、審判廷と呼ばれる部屋で小さめの部屋で一般の人は入れません。司法修習生が中で見ることがありますが、書記官、担当の調査官、裁判官、申立人、その代理人、相手方、その代理人が出席して参加することになります。
子の監護者指定・引渡しの手続では、特に保全事件となるとお急いで審理をしますので審判期日には最初から家庭裁判所の調査官が出席しています。調査官は裁判官の命令により事実の調査をすることができ、子の監護権の事件では必ず調査官の事実の調査が行われます。
事実の調査というのは、(民事訴訟には通常はないものですが)、裁判所が能動的に事案に必要な裁判資料を得るための手続です。もちろん、最終的な裁判所の判断は当事者が提出した資料も資料としますが、一部はこの調査官が行った調査の報告書が判断の資料となるのです。
関連条文のご紹介しておきますね。
家事事件手続法
59条
1 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、家事審判の手続の期日に家庭裁判所調査官を立ち会わせることができる。
2 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項の規定により立ち会わせた家庭裁判所調査官に意見を述べさせることができる
第56条
1 家庭裁判所は、職権で事実の調査をし、かつ、申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをしなければならない。
第58条
1 家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができる。
2 急迫の事情があるときは、裁判長が、(家庭裁判所) : family court家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができる。
3 家庭裁判所調査官は、事実の調査の結果を書面又は口頭で家庭裁判所に報告するものとする。
4 家庭裁判所調査官は、前項の規定による報告に意見を付することができる。
第1回目の期日では、調査官や代理人弁護士らの日程を調整して、調査官による調査の内容を決めるのが通常です。
連れ去りをされた(追い出された)親の場合には、家庭裁判所で事情を聴取される調査、
監護をしている親の場合には、そのような聴取とともに親子で家庭にいるときに家庭訪問があり、そこで子は親と別にインタビューをされます。子供部屋などもみられ、親子で一緒にいるところも調査対象になり、監護環境も調査官が確認します。
学校に行っている場合には、学校での様子を調査官が担任より聞き取ります。
14-5. その後の期日
答弁書が出されたり、それに反論するための期日がさらに指定されることも、多いです。また、連れ去りをされたりして親が子に会っていない場合には、審判の期日に子との面会を実現できるように弁護士が相手方に働きかけをすることも、あるとおもいます。
裁判官も、連れ去りをされた親に子への暴力の問題がないのであれば、何らかの面会をするように示唆してくれることが多いです。それでも、相手が頑なに子に面会させようとしないこともあるため、審判において面会交流の審判も同時に申し立てておくことが得策です。
14-6. 調査官の調査
第1回期日で決めた日程で調査がなされます。家庭裁判所調査官は、「児童心理学などに精通した家裁の専門職」であり、子の意向の調査を行っています。この調査は裁判官の調査命令によって始まります。
監護をしていない親のこれからの監護計画については、陳述書で説明するしか方法がないので、実際に子が戻ってきたらどこに住むのか、どういう経済的計画で子を引き取るのか、監護のための時間がきちんととれるのか、監護補助者はいるのか・・・というようなことを陳述書にまとめておくのが、よいでしょう。家庭裁判所からは、監護を今、している親とそうでない親に決まった項目について陳述書を用意するように指示がありますので、弁護士と相談しながらその陳述書を丁寧に用意しましょう。
14-7. 子の引渡しの審判事件における審問
審問とは、家庭裁判所が当事者の陳述を聞く機会のことです。これは専門用語なので、聞いたことがおありではないでしょうけれど、裁判用語の尋問の家事審判バージョンという感じです。しかし、民事訴訟の尋問のように弁護士が質問をしていくというように進まず、裁判官が自ら質問して本人が回答します。
この時、互いに相手が話すことを審判廷で聞くことができます。裁判官にいったことを双方が確認して反論をできるよう、家事事件手続法では「審問における当事者の立会権」を認めているからです(家事事件手続法 69条)。
代理人弁護士が互いについている事件では、双方が立会うことが通常ですが、例えば妻が夫がいると精神的に不安感があるというような主張をして退廷してほしいというような場合、立合権があることから裁判所は説得するなどして法廷に当事者双方がいるよう努力します。当事者の合意があれば代理人弁護士のみが立ち会うこともあります。
審問は、保全事件では第1回目の期日で行われることも多くのですが第2回目の期日にてなされることもあります。第1回には時間がとれないので調査官の調査日程を決めるだけということや、答弁書に対する再反論を次回期日までにすることが決められることもあります。
争点がどの程度あるかによって、進行は異なります。
また、第1回期日で、緊急性がないということから保全処分の申立ては取り下げを勧告されることもあります。
14-8. 家庭裁判所調査官の作成する調査報告書
上記のように、子の引渡しを求める申立人は家庭裁判所での調査官との面接がされ、子を監護している親はこの面接に加えて、家庭訪問がなされ、保育園や学校での聞き取りがなされます。子の意思の調査は子が10歳前後からされます。それより小さいお子さんでも、お子さんがお父さんお母さんとどういう関係にあるかという観点から、お子さんからの聴き取りは通常なされています。
調査の目的は裁判官が命令する範囲になりますが、どちらの親が当面の監護者としてふさわしいかを判断するための調査であることが、通常です。
そして、調査が終わると調査報告書が作成されます。これが裁判官に提出されると、弁護士に通知がされてコピーを取ることが許されます。調査報告書には、監護者としての適格性が書かれ、これまで主として監護をしていたのがいずれであるのか、違法な連れ去りがされた場合にはその経緯についても聞き取り結果が書かれていることもあります。いずれの親が監護者としてよいのかという点は、お互いが子のことを愛してそれまで養育に関与していた場合、いずれもその意欲・能力があると記載されていることも少なくありません。最終的に、当面は今の監護を維持した方がよい、主たる監護者であった親に引き渡した方がよい、などという意見が付されていることが多いです。
この調査報告書は、当事者はコピーはできるのですが、東京では司法協会というところに依頼して謄写をしてもらうことが多いです。そうしないと、弁護士が裁判所に赴いて記録をコピーしなければならないからです。裁判所がコピーを渡してくれるという制度になっていません。
上記のように、調査官の調査報告書は事実の調査の対象になり、裁判官が結論を決めるための資料になります。
14-9. 家庭裁判所調査官の報告書の効力
裁判官は調査官の意見に拘束されるわけではありませんが、実際には、調査官の調査報告書のとおりの判断となることがかなり多いといえます。したがって、調査報告書は実務上、極めて重要でありそれを読めばほとんどの結論がわかります。14-10 第2回または第3回審判期日で何をするか?
実務上、調査報告の後に第2回または第3回の審判期日が指定されることが多くです。この期日では、調査報告書の結果を踏まえて、裁判官から話し合いでの解決について提案がされることが多かったり、その前に話合いを代理人弁護士が書面でしていることもあります。
裁判所では、母のこのままの監護が継続した方がよいという調査官の報告が出ていれば、父に対して、このままでは引き渡しは認められないだろうから監護者については母に認めて面会交流について決めてはどうかというような打診があることもあります。
もっとも、そのようなことは全くせず機械的に審判を出す日を決める場合もありますので、事案と裁判官による面が大きいです。
14-10. 審判
審理の終結
和解的に解決できない場合には、裁判所が結論を書く「審判」が出されることになります。裁判官は家事事件手続法に従い、「審理終結日」というものを定めなければならないので、通常期日でその日が宣言されます。(家事事件手続法 71条)。
この日までは、お互いの弁護士が資料を出したり、主張の書面を出したりできます。
そして、審理終結日の後で審判がでます。審判する日も裁判所が当事者に伝えます。
審判は書面でだされますが、判決のように言い渡しはされません。
もっとも、当事者双方が審判期日に出席している場合、そこで直ちに審理終結を宣言することもできます(家事事件手続法 71条但書)。
保全事件を申し立てたときの全体にかかる時間は、申し立てから審理終結までが4から5カ月が多いかと思われます。それから審判がでるのが、1ヶ月後程度が多いでしょう。
15. 私は、ずっと妻(夫)と裁判をしていたくないのです。子供のことですから誠実に話し合いたいのに、全く直接話すことができないのですか?
子どものことであるし、今後、母であり父であるのだから、ルールを決めて別居できるのが最も良いことだと思います。ですので、当事務所では適宜、話し合いでの解決ができるようにアドバイスをしています。でも、互いに弁護士がいる以上、双方で直接の話し合いはできません。もちろん、代理人弁護士も同席して話し合いの場を持つことは不可能ではありません。
ただ、どうしても相手に親権を渡したくない、という当事者の場合、お子さんのことですから互いが譲歩できないわけで、和解的解決は、審判段階では困難となることがあります。調査官の調査で互いが相当それまでの監護に関与していて、夫婦が協力した方がよいというような内容の報告になることもありますので、報告書を見てどのような方法がお子さんにとって良いのか、話し合って本来であれば和解的解決をし、お子さんが紛争に巻き込まれないようにするのがベストであろうと思います。
16. 審判が出たあとの手続
審判では、監護者と子の引き渡しについての裁判所の判断が示されます。
子の引き渡しが認められなくて不服がある場合には、2週間以内に即時抗告を行うことができます。
即時抗告をしない場合審判が確定し、その効力を生じます。
即時抗告をした場合にはさらに、高等裁判所で争うこととなります。それには、即時抗告申立書をだし、それから二週間で理由書を出すのが通常です。子の引渡しが認められた場合、審判前の保全処分には執行力があります。即時抗告がされても執行力はなくなりません。ですので、相手が争っていて即時抗告を行っても、執行力があるため、子供の引き渡しを要求することができるのです。
代理人間でいつどういう風に子を引き渡すのか話合って引き渡しをするのが通常です。
お子さんからしたら、お母さんもお父さんも大事です。ですから、引き渡しもすぐに連れ戻しに行くのではなくて、お父さん・お母さんからきちんとこれからどうなるのか、安心させるように説明してあげる必要があります。
17. 保全処分が認容されたのに、相手方が子供を引き渡さない場合には
相手方に代理人がついている場合には、上記のように話し合いをして、子を引き渡してもらえることが多いのですが、相手が子供に会えなくなると恐れて引き渡さないこともあります。
そういうときには、執行になるとお子さんのも嫌な思い出になること、面会を今後きちんとすることを説明してお子さんを渡してもらえるよう説得しましょう。執行力がないと相手の代理人弁護士が勘違いしている場合もあるので、それも確かめましょう。
あくまでも、裁判所の判断には従わないというのであれば、子の引き渡しの執行をすることになります。
18. 子の引渡しの強制執行とは?
子の引渡しの命令に相手が従わないとき、強制執行が可能です。
この点は、従前は法律の規定がなく、車などの動産の引渡の条文を準用して執行をおこなってきたという歴史があります。そして、執行そのものは子どもが拒否する場合、現実にはできないという問題がありました。
ハーグ条約(正式名称:国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)を批准した際に、日本で初めて子の引き渡しが条文化されました。最近の民事執行法の改正で、子の引き渡しが明文化されました。子の改正法の施行は2020年4月1日からです。
子の引渡しの執行に関する法改正のポイント
〇 間接強制を先行させるルールがなくなった
間接強制の決定が確定した日から2週間経過していないと執行も申し立てができないというルールがなくなり、間接強制をしても引渡しの見込みがあると認められないときや子の急迫の危険を防止するために必要があれば、執行申し立てができます。間接強制というのは引き渡さない親に罰金のようにお金を払わせるという方法のことです。
〇 相手の親の審尋を省けることに・・・
裁判所はこれまで、子と一緒にいる親の意見を聞かなければなりませんでしたが子に急迫の危険が迫っている場合などには省くことができるようになりました。
〇 同時原則が不要となった
これまで、同居の親がいる場での執行が求められ、そのために子が強く抵抗して執行が困難であったことがありましたが、この要請はなくなりました。
その代わり、引き渡しを受ける方の親が現場にいけますので、子の不安はかなり除去されるでしょう。
〇 第三者の所有地での執行が可能に
債務者の住居その他債務者の占有する場所以外の場所においても、適宜引き渡しの執行が実施できることとなり、公道や学校・幼稚園・保育所等が執行に利用できるようになりました
〇 威力の行使
相手の親が抵抗するときには、威力を用いたり警察の援助を求めたりすることができることが明文化されました。
法の改正後の子の引き渡しの強制執行の方法は、裁判所の執行官が子のいる場所に行って引き渡しを求めるという方法で行われます。執行場所としては、子の住んでいるところ、公道、学校などが考えられます。
強制執行では、同居する親の抵抗にあうとか、子が親への忠誠心を見せてしまってしがみつくなどの現実の痛ましい問題があります。
また、執行官のみではなく、現場には親である申立人(時には、その代理人)も赴くことが通常です。
子の強制執行は、本来であれば子の精神的ショックを考えると避けたいものですが、かといって執行ができる状態で放置しておくのも子の利益にはなりません。よって、なるべくショックとならない方法を執行官と相談して考える必要があります。今回の改正では、なるべく子がショックを受けないで引き渡しができるように、引き渡しを受ける申立人がその現場に赴くことができるようになりました。
19. いつまで執行は可能ですか?
家事事件手続法では、審判前の保全処分の執行については、「保全執行は、債権者に対して保全命令が送達された日から2週間を経過したときは、これをしてはならない」と規定しています(民事保全法109条3項、民事保全法43条2項)ので、保全処分の審判書をもらってから2週間のうちに執行をしなければなりません。
20. 子の引渡しについては、急いで申し立てをしないといけないのはなぜですか?ゆっくり話し合いをした方が解決できませんか?
確かに、子どもの問題なので話し合いで解決した方がよいということはあります。しかし、すでに子が連れ去られたり、子と会えない状況を作出されている場合、話し合いがすでに無理となっているケースが多いように思われます。
その背景には、最終的には子の親権者に慣れるのは一人だけで、離婚訴訟の判決の時に子を監護している親が真剣を取得する点で有利だという判例上の事実があるとおもいます。この問題に詳しい弁護士ならそれを知っていますから、そういう情報を依頼者には伝えるでしょう。そうすると、とにかく親権を確保したいという気持ちが強くてどうしても話し合いをしないとか、他の親には当面は面会をさせないという方向に当事者が行きがちです。これは子のためには残念なことです。
子の引渡しの申立をしないで時間が経過してしまうとどうなるかというと、子の引き渡しを命令をもらう可能性はどんどん低くなります。可能性が低くても挑戦したいという気持ちがあるのなら、早い申し立てが必須になります。
また、子の顔も見れていない場合、保全処分という早い手続きの中で面会交流のアレンジができることも多く、子を会って少し安心することもできます。
夫婦が司法の場で争うのはいやだというの、とてもわかりますし、その感覚は常識的なものです。一方で、自分が納得していないのに親権・監護権を奪われたくない、きちんと適法にその主張をしたいというのもまた、正しいと思います。
我が国では、親が子に関して争っているときに、仲裁をする専門家が間に入って協議をして早期に解決するとか、とりあえず中間的解決(面会交流を即座に命令するなど)をするという制度が、ありません。調停はそのような機能も持ち得ますが、残念ながら、現実にはそれができていないことが多いです。子を拘束できている方が有利になってしまって、なかなか公平な結論が導けないようです。
21. 子の引渡し請求の事件を弁護士に依頼するメリット
子の引渡しを急いで求める場合には、調停ではなく審判になり、保全処分の申し立てもしなければならないことをご説明してきました。これらの手続きはすべて弁護士なしでもできないことにはなっていません。
しかし、調停と異なって話し合いの場ではないこと、将来の離婚訴訟の証拠に提出したものが使われてしまうこと、子の監護の事件は裁判官によっても進め方が異なり代理人弁護士がいないと知らずに不利なことをしてしまうこともあり、弁護士は民事訴訟と同様に必須であるように、思います。
また、弁護士がいれば以下のようなメリットもあります。
子の引き渡しの事件で弁護士を依頼するメリット
(1)専門知識を自分で勉強しなくても教えてもらえる
(2)一切の書面の作成、裁判所との連絡を弁護士がやってくれる
(3)先の見通しが、ある程度わかる
(4)裁判官の意図や期日に言っていることが弁護士から説明してもらうことで理解できる
(5)適切な段階で、自分に不利にならず、子にも利益になる和解的解決を試みることができる
(6)将来の離婚調停・訴訟の場合のことも考えて長期的な対応ができる