Contents
1. 外国の離婚判決の有効性
海外に住んでいてその国でもらった離婚判決を持っている人が、日本でその内容を裁判所が認めてくれるのか、これは国際離婚では重要な論点になります。たとえば、その国で単独のカストディ(監護権)を判決で得たのであれば、日本に来てもそれが有効なのか…という問題です。
アメリカで共同親権の判決を得ているが、これを単独親権に変更できるのか?面会交流の内容を変更できるのか・・・・というような論点にも関連してきます。
あるいは、アメリカで養育費の1500ドルの判決があるが、日本に住んでいる父親が養育費を払わないとき、裁判所での執行の手続きができるかという論点にも関連します。
近年、日本の在留外国人の数は増加し、令和5年末現在で約341万人(特別永住者約28万人を含む)だそうです。つまり、日本の人口の約40人に1人以上は外国人です。よって、国際的な家事事件も増加し、平成12年度の家庭裁判所における家事渉外事件の新受件数は5,726件であった(平成12年 司法統計年報(家事編)第10表)のに、令和5年度では、11,738件と倍増しています(令和5年 司法統計年報(家事編)第10表)。
2. 家事事件に関する外国の裁判が承認されるべきか?
これは、学説や判例において争われてきた問題です。外国判決の承認については、民事訴訟法118条には定めがありますが、これが家事事件の裁判にどの範囲でどのように適用されるべきかについて、考えの対立があったのです。離婚判決のような身分的形成判決について、実体に関する離婚に関して、準拠法がどうなるかという問題との関係もあって、複雑な問題になっています。
海外での判決が、国際私法のルールで日本が定める準拠法に従って行われた判決であれば承認すべきであるという考えもあります。しかし、それが判決によって行われることに着目したら、日本の裁判管轄のルールによって管轄権を有する国の裁判所によってなされた判決であればよいのではないかと思われ、それが有力です。
3. 準拠法のルールとの関係
上記で説明した最初の見解には、日本で準拠法のルール(国際私法とか、抵触規則といいます)によって「日本法」が準拠法として指定される場合に限って認めるという見解もあり、準拠法ルールにしたがっていればよいという見解もありました。
このような見解では、準拠法ルールが先行するので、離婚が判決によるか、私人間の合意行為によるか、非訟事件的な手続でなされるかにかかわらず、準拠法との関係でその効果を判断することになります。そして、日本法が準拠法となっている場合のみ日本でも承認するというような考えでは、海外ではその裁判の準拠法はその裁判所がある国の法となることが多いので、外国の「離婚判決」が日本で承認されることはまれになってしまうでしょう。
この考えは、準拠法ルールと外国判決の承認のルールとの関係を考慮して、その矛盾や抵触を回避しようというものです。離婚という人々の身分についての裁判に関する承認の要件と「準拠法」をできる限り一致させようとしているのです。日本の裁判所で承認するには離婚そのものの準拠法が日本法で裁判結果がでなければならないといわけです。
これに対し、外国判決の承認に関する民事訴訟法118条は、民事訴訟の判決と同様に、離婚のような身分を形成する判決にも、そのまま適用されるべきとする見解が今は、有力となっています。
離婚やその他の人事訴訟について、人事訴訟が民事訴訟の特例等を定めているが、人事訴訟法において外国判決の承認についての特例を定めていない以上、民事訴訟法118条がそのまま適用されるべきという、ある意味で筋の通っている、シンプルな考えによります。
この見解では、外国判決の承認ルールというような国際手続法上のルールは、準拠法をきめるルールとは別であって、独自性を持つものであるという考えで、それぞれの国の国際手続法上の承認規則を家事事件の判決にも、適用すべきことになります。今の家裁の実務では、このように民事訴訟法118条を適用して、外国の離婚判決は承認されています。
4. 2019年の改正との関係
2019年に施行された人事訴訟法では、国際離婚事件における裁判管轄が拡大され、より多くのケースで日本国内の裁判所が離婚事件を審理できるようになりましたが、外国判決の承認については、明文規定は定められていません。
非訟事件の性質を有する離婚判決が外国の裁判による場合、わが国における承認については、今も手続法に規定がないため、条理によるということになってしまうのですが、判例では、民事訴訟法118条の規定は類推適用をするべきであるとされています。
5. 離婚判決が承認されるための要件
1) 外国の離婚判決が確定判決であること
民事訴訟は118条の規定により承認される外国判決は確定判決でなければなりません(118条柱書参照)。
確定判決とは、判決国法で認められている通常の不服申立ての方法によっては裁判の取消しや変更等がもはや許されなくなったという状態のことです。そういう状態であることは立証する必要があります。
2) 判決国がわが国の国際私法の規則に従うと、国際裁判管轄権を有すること
国際裁判管轄権では、訴えが提起された場合における訴訟要件の一つとして問題となることが通常であり、日本には国際裁判管轄があるのかという問題です(直接管轄といいます)。
しかし、外国裁判の承認の要件として問題となる場合の国際裁判管轄は別の問題になります。これを間接管轄といいます。間接管轄に関する規則は、直接管轄に関する規則と表裏一体であるから、まったく同じルールを使うべきであるという考えもあるのですが、しかし、家族関係事件の離婚裁判のような形成的な効果を持つ裁判では、外国において一旦形成された法的効果はわが国においても裁判の国際的調和の観点、ある国で有効な離婚が他の国で無効であるという状態の発生をなるべく防止するという観点から、できる限り尊重されるべきであるという考えが有力です。
つまり、海外で離婚として認められている家族関係がもうあるのであるから、それを尊重した方が国際的な調和がはかれますし、国によって離婚していることになったり、離婚していないとされたりというのでは、その家族には酷にもなりえます。よって、外国判決お承認要件としての「間接管轄」は直接管轄より緩やかに解するべきであるとされています。
3) 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼び出し若しくは命令の送達を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したことが必要
これは民事訴訟法118条2号によります。敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼び出し若しくは命令の送達を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したことが必要とされるのです。送達は、直接送達に相当するものであることが必要であって、公示送達は含みません。この送達として「ハーグ国際私法条約上の送達」「領事条約上の送達」があります。条文でも公示送達では送達したとされないので注意が必要です(2号括弧内)。
ここでは、被告の防御の機会を保障しているのです。最低限の手続が必要であるといっているのです。公示送達が徐倍されチエルのでは、現実に応訴がされていないのに、判決がでているような場合に被告を保護する視点から、公示送達は認めていませんが、どのくらいの応訴の機会があったのかは個別に判断されるでしょう。
4) 判決の内容及び訴訟手続が日本の公序良俗に反しない(同条3号)
外国判決の内容が、日本の公序良俗に反していると承認がされません。
外国判決が公序良俗に反するかどうかを判断するということは、あまり内部に入り込むと再度の判決をだすようなことになるので、審査対象は外国判決の主文に限るべきとの見解もあります。でも、主文の基礎となる認定事実も考慮するとしているのが判例です。
<判例:東京高裁東京高裁平成5年11月15日判決>
裁判所による子供の親権者や監護権者の決定など、非訟事件の裁判 に関しては、民訴法第118条は直接的に適用されないが、同条第1号および第3号の要件を満たすときは承認される。
この高裁判決は、1号と3号の要件が満たされているので離婚判決については、外国判決を承認するという判断をしていますが、民事訴訟法118条を類推適用をできるという理由からです。
5) 判決国とわが国との間に相互の保証があること(相互の保障)
この要件は、国家間の「相互主義」の思想に基づくものと言われます。ある国の判決が、他の国で法の下で有効に認められる場合、その国でも同様に有効に認められるという原則です。本来、外国裁判の承認の要件を相互主義にかからせて、厳格な承認要件を有する他国に対して、承認要件の緩和を推進しようとする政策的な理由から作られています。
給付判決(100万円を払えなどという民事訴訟の判決)であれば、日本での執行が問題となりますので、の要件を求めることには現在でも理由があります。日本の判決が海外で執行できるのであれば、その外国の判決も日本での執行を認めるというわけです。
しかし、外国の判決を承認しても執行ということがないような離婚判決の場合に、その外国がわが国の判決を承認し、執行するかどうかの要件にかかわらせることが必要なのかという点は、いろいろな意見がありえます。
離婚判決のように家族関係に関する外国の形成判決はその執行につき国家の協力行為を要求されるものではないので、このような判決の承認についてまで、民事訴訟法118条の要件の4号の相互の保証の要件まで必要とすると、離婚外国判決の承認が困難になります。また、ある国では離婚しているのに、日本では離婚していないという不均衡の状態が発生してしまって、弊害を生じることになります。よって、離婚判決のような身分関係をつくる形成判決について、相互の保証の要件を要求すべきではないとする見解もあります。上記の高裁判決では、相互の保証は必要とされていません。
6. 外国の離婚判決を日本で届ける方法
日本で戸籍を持つ人は、外国の離婚判決を受けた場合、離婚届を提出する義務があります。戸籍法では、訴えを提起した人が原則として届出義務を負いますが、外国人側が訴えを提起した場合でもその人が届を一定期間しないならばて自分で届出はできます。
外国判決が日本で承認されるかについて、戸籍法上の届出においては要件すべてについて立証は求められていませんが、外国で離婚が成立した日が、日本の戸籍に離婚成立日として記載されますので、離婚判決での離婚では離婚判決確定日が、戸籍での離婚成立日となります。
提出するものとして、外国離婚判決の原本と全文の翻訳が求められ、確定証明書とその翻訳も必要です。被告が呼び出しを受けて、または、応訴したことを証する書面も必要とされることがありその場合、訳文が必要です。判決文から、被告が適法な呼出しを受けたか、応訴したことが分かる場合には、判決の謄本のみでも足りるでしょう。被告が応訴をしていない場合、適切な送達がされたことを証する書面も訳文とともに、必要でしょう。
7. 家事事件手続法改正
家事事件手続法では、民事訴訟法118条が準用されるということが定められていますが、これは、2019年4月1日に施行された改正の際に作られた条文です。
(外国裁判所の家事事件についての確定した裁判の効力)
第79条の2
外国裁判所の家事事件についての確定した裁判(これに準ずる公的機関の判断を含む。)については、その性質に反しない限り、民事訴訟法第百十八条の規定を準用する
この79条の2の書き方では、具体的な承認要件は何かという問題や、間接管轄権をどのように判断するかについては、解釈にゆだねています。よって、この準用がどのように実務で扱われるかは、判例の集積を待つことになります。
8. 外国判決の承認に関する判例
上記の改正後の判例をご紹介します。
<外国判決の承認の判例の紹介>
親権者指定申立事件・東京家庭裁判所令和元年12月6日審判
(家庭の法と裁判29号129頁)>
海外での共同親権の判決を外国判決として認めた事件です。親権を申立人と相手方の共同親権として外国において離婚が成立しているところ、相手方に対し、子らの親権者を申立人に指定するとの審判を求めた事案です。日本の裁判所に国際裁判管轄があり、準拠法は日本法となる旨判断した上で、本件離婚は民事訴訟法118条の要件を満たすので、外国における父母の共同親権とする定めが我が国においても有効とされるとして、民法819条6項に基づき,父母の一方の単独親権とすることができるとしました。この事案では、申立人が6年以上にわたって子らの単独での監護をしており,その監護状況について問題は認められず、相手方は、子らの親権を行使したり監護を担ったりしたことはなく、子らとの交流もしていない事案でした。
<外国判決の承認の判例の紹介>
執行判決請求事件
横浜家庭裁判所 令和3年3月30日判決
原告が子の引き渡しについてシンガポール共和国家庭裁判所の決定を有しており、それを基礎に、「原告に対し,原告と被告との子を引き渡せ」と命じている部分について、民事執行法24条に基づき執行判決を求めた事案です。裁判所はシンガポールの決定は確定していることが証明され、民訴法118条の規定は子の引渡という事件の性質に反するとはいえないから、本件においては、民訴法118条各号に掲げる要件を具備しているかが争点となるとしました。そしで、民訴法118条1号から4号の各要件を具備していると認め、執行判決を求める訴えについて請求を認容しています。
<外国判決の承認の判例の紹介>
子の監護者を指定申立事件
静岡家裁掛川支部令和6年3月26日審判
事案の概要:
・来日まではブラジルでXとYが婚姻してブラジルで子が出生して、2016年に親子で来日。2020年から別居し交代監護をし、2022年からXが単独監護を開始して、監護者指定の事件を日本で申し立て。
・しかし、2023年4月に、ブラジルでYがブラジルの裁判所に離婚申立てをして、2023年5月には、ブラジルで離婚を承認する判決。
この事案では、ブラジル裁判所のした離婚判決が存在していることから、この別件判決が日本において効力を有するかという点(外国判決の承認)が問題となりました。本件審判では、「ブラジルの離婚の承認判決は、Xの署名がYによって偽造された申立書(監護について合意したもの)が基礎になっていることから、日本において効力は認められないとしました。これは、日本の公序に反するということからの判断でしょう。