裁判手続・紛争解決手続

不法行為や債務不履行による損害賠償・時効・法定利率(金利)どんなときに請求ができるか?弁護士松野絵里子が解説します。

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1. はじめに:平成29年の民法改正

平成29年5月26日に民法の一部を改正する法律が成立し(同年6月2日公布)、令和2年4月1日より施行されています。債権関係の規定については、120年ぶりに大きな改正となっています。通常の暮らしに関係がある「損害賠償請求」についても大きな変更がありました。

契約によるトラブルや事故では、損害賠償の請求ができますが、この記事では「損害賠償」、「債務不履行」、「不法行為」、「時効」といった通常の生活や企業活動に重要な法的な概念を改正法とともに弁護士松野絵里子が詳しく解説します。権利擁護のために知っておくべき時効期間についても改正がされていますので、皆様にご紹介をして、損害賠償請求をスムーズに行うためのアドバイスをご提供します。

時効・法定利率の機能についても、網羅的に弁護士松野絵里子が解説します。

 

2. そもそも損害賠償請求と・消滅時効とはなにか?

損害賠償請求権には、二つがあります。

  • 債務不履行に基づくもの
  • 不法行為によるもの

債務不履行によるものは、契約等に基づく債務を履行しなかったこと(債務不履行)によって発生した損害の賠償を因果関係が認められる範囲で請求するものになります。

不法行為によるものは、違法な行為により被害者の権利を加害者が違法に侵害した場合、その行為と因果関係がある範囲の損害の賠償を請求できる制度です。

しかし、そのような損害の賠償を請求する権利があっても、権利者がその権利を行使しない状態がある程度継続すると、債務者や加害者の主張(時効の援用といいます。)により、その権利は消滅してしまいます。

この制度を消滅時効と言っています。一方で、除斥期間という似た制度もありますが、これは、期間の経過だけによって自動的に権利が消滅する期間になります。加害者が援用をしなくてもある時期が来たら、損害賠償の権利が行使できなくなるというものです。

3. 平成29年の民法改正による消滅時効の変更点

  

1)債務不履行に基づく損害賠償請求

 旧民法では、債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間について、権利を行使することができる時を起算点として、①原則は10年間、②商事債権(会社の間の契約による場合等)は5年間、③一部の特別な債権については1から3年(泊料や飲食料、弁護士報酬、医師診療報酬等です。)となっていました。平成29年の改正では、債権の種類ごとに時効期間を異にする複雑な制度を廃止して、全ての債権について共通の枠組みをつくりました。まず、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、②権利を行使することができる時から10年間行使しないときには、債権が消滅することとしました(民法166条1項各号)。

2)人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の例外

人の生命や身体の侵害についての保護を厚くするとい観点から、そういった損害賠償請求権(例えば、企業の安全配慮義務違反に基づく事故の場合の損害賠償請求権などになります。)については、上記の10年の時効期間を20年間と長くしました(民法167条)。

3)不法行為に基づく損害賠償請求の場合

 旧民法では、不法行為に基づく損害賠償請求は、以下となっていました。

  1. 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する
  2. 不法行為の時から20年間を経過したときも同様とする(この20年の期間制限は、除斥期間とされていました。)

 改正民法は、不法行為の時から20年間行使しないときも「時効によって請求権が消滅する」と変更されています。これは、除斥期間とされていたことの変更です。時効期間(客観的な起算点からの時効期間)としたのです。(民法724条)。時効とすることで、時効の中断や時効の承認などの理論がこの20年の期間にも適用されます。

さらに、「人の生命又は身体を害する不法行為」の被害者の保護の観点から、この場合の損害賠償請求権の消滅時効について、時効期間を5年間とすると規定が新設されました(民法724条の2)。ですので、事故を原因として身体の怪我をしたような場合、損害賠償請求の場合の主観的起算点からの時効期間は、5年間となりました。

不法行為による物損とか経済的損失については、従前のとおり3年間の時効期間です。

4. 平成29年の法定利率に関する改正

 

旧民法では、交通事故の被害者が加害者に対して、損害の賠償を請求しようとすると、遅延損害金も請求ができるのですがその場合の遅延損害金の算定においては契約により取り決めがないので、法定の利率が使用されます。

 旧民法における法定利率は年5%(商行為によって生じた債権については年6%)とされていましたが、これは民法制定以降、法定利率は変更がされていなかったことから、非常に高い者となっていました。市中金利を大きく上回る状態であったので問題視されていましたので、この法定利率が変更されました。

 改正された民法において、法定利率は年5%から年3%となり(民法404条2項)、年6%の商事法定利率は廃止されたので3%となりました。

 また、法定利率を市中の金利の変動に合わせて緩やかに変動させる制度が導入され、3年ごとに法定利率の見直しがなされることになりました(404条3項~5項)。

5. 損害賠償請求の基本:債務不履行と不法行為について理解しましょう!

損害賠償請求には、契約を守らない場合の「債務不履行」、および法律に違反する行為による「不法行為」があります。そして、それぞれにおいて「時効」があり、ある期間が過ぎると請求ができなくなるという問題があります。

1)債務不履行による損害賠償とは?

債務不履行とは、契約に基づく義務が履行されないことを指し、法的に認められた権利として損害賠償請求が行えます。具体的には、契約書に記載された内容が遵守されなかった場合や、納品が遅れた場合などが該当します。債務不履行による損害賠償請求には、契約書の存在やその内容が明確に示されていることが重要です。また、損害が発生した直接的原因が債務不履行であることを証明する必要があります。そのため、契約の内容やどのような権利が発生しているのか、相手の義務は何かという点を理解しておくことが求められます。

さらに、債務不履行の通知を受けてから適切な対応を怠る場合、それが別の責任となり損害賠償を増やすこともあります。これにより、取引サイトの信頼関係が崩れるリスクもありますから、契約内容の理解は企業活動において十分な注意が必要です。

2)不法行為による損害賠償とは?

不法行為とは、違法な行為(法律に違反したり責めるべき行為)によって他人に損害を与える行為を指します。

例えば、注意をしないで高速運転をした結果の交通事故や相手を誹謗した結果の名誉毀損、企業活動では許されないような不正競争行為などがこれに該当します。

債務不履行との大きな違いは、そういう行為をした相手と被害者の間に契約があるかどうかという点にあります。

不法行為の成立には、故意または過失が必要であり、被害者は加害者の行為が直接的な因果関係を持って損害を生じたことを証明しなければ、損害賠償はできません。損害が発生した場合、被害者は医療費や修理費用、逸失利益など、具体的な損害金額を算出することが求められます。不法行為による損害賠償請求は、適切な証拠集めが不可欠であり、証拠不十分な場合、訴訟において不利になることも考えられます。実際の裁判では、被害者の証言や関係者の証言、または現場の写真などが重視されます。そのため、事件が発生した際には迅速かつ適切な対応を行い、証拠を確保することが重要です。

3) 時効と損害賠償請求の関係

消滅時効とは、一定の期間が経過することによって、権利が消滅する法律の制度を指します。一定期間請求が行われなかった場合に、その債権が消滅するというわけです。この時効で一定の期間が経過すると請求権がなくなるのですが、損害賠償においても適用があります。日本における一般的な時効期間は、債務不履行や不法行為の事案において異なります。債務不履行の場合、現行法では、基本的には5年間が時効期間となりますが、契約の内容や特別な事情がある場合には異なることがあります。不法行為の場合は、上記で改正法をご説明している通り、損害および加害者を知ったときから3年間、または行為の時から20年間が時効期間となっています。

時効期間が過ぎて時効が成立すると、時効を援用されることで、請求権自体が消滅するため、損害賠償請求を行う際には常にこの時効を意識する必要があります。

一方、後述しますが、時効をリセットする方法があり、内容証明郵便を送付するなどの手段を通じて時効期間を一定期間、延長することができます。ですから、このように、時効の管理は損害賠償請求の成否を左右する重要な要素となります。

改正された民法では、旧法にあった「時効の中断」を改正して、「時効の更新」というものになりました。また、旧民法には「時効の停止」という制度がありましたが、これが「時効の完成の猶予」になりました。

しかし、これは単に「時効の停止」を「時効の完成の猶予」と名前を変えたのではありません。旧民法で「時効の停止」として規定されていたものが新民法では「時効の完成の猶予」として規定されたのですが、旧民法で「時効の中断」とされたものは「時効の更新」と「時効の完成の猶予」の理由となるものが、混在していたので、整理されたとものになっています。

6. 時効の管理において知っておくべき仕組み

次に、主な時効の更新事由と完成猶予事由の仕組みについて、わかりやすくご説明します。これを頭に入れておくと良いでしょう。条文の仕組みは後で詳述します。

1. 債務者の承認

これは、債務者が債権を認めて「承認」があったときから時効が更新(リセット)される制度です。承認があったといえるかは、ケースバイケースなので気をつけましょう。

2. 裁判上の請求

提訴することで、時効の完成が猶予されます。そして、確定判決がでると、権利が確定して時効は更新されるので、リセットされ、その後10年間、時効は完成しないという保護を与えられます。

しかし、訴えの却下や取下げで確定判決がでていない場合は、訴えの却下や取下げの時から6か月間は時効の完成が猶予されるだけですので、取り下げるとき注意が必要です。

3. 支払督促

申立てによって時効の完成が猶予され、支払督促の確定により時効が更新されリセットされます。

4. 強制執行、担保権の実行など

強制執行等の事由が生じた場合、強制執行の申立ての手続によって時効の完成が猶予され、手続きが終了したときに時効が更新されて、そこでリセットされます。

5. 仮差押え、仮処分

この手続きが終了したときから、6か月間は時効の完成が猶予されます。ちょっと待ってもらえるという制度です。

6. 裁判外の催告

6か月間時効の完成が「猶予される」という制度です。ちょっと待ってもらえるだけの制度ですから、時効の更新をするには(つまりリセットする)には、提訴すること(裁判上の請求)や支払督促の申立てをしなければなりませんので、単にこれを繰り返しても意味がないことに留意しましょう。

7. 協議を行う旨の書面による合意(新たな規定です。)

権利について協議を行う旨の合意を書面でした場合には、時効の完成が猶予されるというもので、猶予される期間は、基本的には1年、当事者の合意により短くすることもできてます。

当事者の一方が、相手方に対して協議拒絶を書面で通知をした時から6か月を経過した時がそれより短い場合はこの時まで猶予の効果があります。協議を行う旨の合意を繰り返し、時効の完成の猶予を延長することは可能であるが、時効の完成の猶予期間は、トータルで最大5年を超えることができません。

協議による時効の完成の猶予と催告による時効の完成の猶予を併用して時効の完成を延長することはできません。

8. 天災等(時効の完成の猶予期間が延長)

地震などの天災で、時効の完成の猶予および更新の効果をもたらす裁判上の請求や強制執行等の手続きを行うことができないとき、手続きができない理由となっている天災などが終わったときから3か月を経過するまでは時効の完成が猶予されるという制度です。

7. 債務不履行と不法行為の比較(何が違うのか?)

債務不履行と不法行為は、いずれも損害賠償請求の基となる行為です。でも、その法的根拠やその権利の実現の方法には違いがあります。

債務不履行は、契約に基づいて発生するものであり、契約書内容によりどのような義務があったのか、どのような義務の不履行があったのかが、問題とされます。一方、不法行為は、法律に違反する行為(違法な行為)であり、契約書の存在は問われませんが、代わりに「なぜそれが違法と言えるのか」という点、違法な行為があったのかが問題とされます。

また、損害賠償額の計算方法にも差異があり、債務不履行の場合は契約上の損害額、不法行為の場合は一般的な損害額が賠償されます。このため、契約の場合損害賠償についていかなる定めであるのか正確に理解が必要です。いずれも、因果関係がある範囲での請求ができます。

8. 債務不履行と不法行為における立証責任

債務不履行や不法行為による損害賠償請求を行う際、重要なのが立証責任です。被害者側が損害の発生原因や損害額を証明しなければなりません。損害の立証には契約書や証拠書類、証言などが必要となります。具体的には、債務不履行の場合であれば契約書や履行の遅れを示す証拠、不法行為の場合であれば損害を直接証明する写真や医療記録などが挙げられます。この立証が不十分な場合、損害賠償請求が認められないこともあるため、十分な準備が求められます。

9. 損害賠償請求をするときに、するべきことや対応

損害賠償請求を円滑に進めるためには、適切な対応が求められます。まず、発生した損害を記録し、証拠を集めることが重要です。また、専門家のアドバイスを受けることも検討すべきでしょう。

10. どんな損害があったなどについての証拠収集の重要性

損害が発生した場合、最初に行うべきはその損害を正確に記録して、証拠とすることです。また、加害者の行為を記録することも重要です。

具体的には、事故現場の写真撮影をしておく、その後の加害者とのやりとりを証拠にしておく、事故の結果何かの出費をしたのならその証拠をとっておく、目撃者や関係者の証言を録音し、陳述書にしておくなど、後で証拠として利用できる情報を集めておくとよいでしょう。

証拠が十分にないと、立証ができず損害賠償請求ができません。このため損害が発生した日時や場所、状況を詳細に記録することも重要です。これにより、損害の発生した理由と損害の因果関係が明確になり、損害の立証ができるようになります。

証拠収集は迅速にしないと、データ情報が消去されてしまうなど、証拠が集められないこともあります。

11.  弁護士に相談することの重要性

損害賠償請求を現実に進める場合、少額な者ではない場合、弁護士の力を借りる必要があります。

通常、相手が企業であれば、企業として損害賠償請求が合理的であるのか、確認できなければ賠償には応じません。複雑なケースや高額な損害が発生した場合には、法的な知識や経験が豊富な弁護士が代理人として請求しないと支払いを受けることは困難です。

弁護士は、賠償の請求をするだけではなく、証拠を集めることのサポートや目撃者などの陳述書を作成するなどもしてくれます。

また、任意で支払いを受けられない場合、調停などを申し立て、訴訟を提起することもしてくれます。訴訟では、訴訟代理人として被害者を代表して主張を裁判所に整理して伝えて、賠償を求めてくれます。その協力がなければ、損害賠償請求の成功はまず無理ですし、また、提訴が遅くなると時効のために請求そのものができなくなりますので、気をつけましょう。

12. 時効の更新とは(リセットして、新たに時効が進む制度)

上記で説明した「時効の更新」とは詳しく説明すると、時効期間進行中に時効の基礎となる事実状態の継続が破られたことを理由に、それまで進行してきた時効期間を、時効完成にとって全く無意味なものにしてしまう制度です。それは、リセットしてしまうというイメージに近いのでそのように上記で説明しました。

時効の更新事由として、改正された民法では、条文としては以下を認めています。

  1. 裁判上の請求等(民法147条1項1号、同条2項)を行い確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき
  2. 強制執行等(民法148条1項1号、同条2項)が終了したとき
  3. 承認(改正民法152条1項)

 更新した時効は、その更新の事由が終了した時から、一から進行を始めます。だから、リセット制度と言えます。

時効の更新となる「裁判上の請求等」とは何か(民法147条1項各号)

改正された民法が定める「裁判上の請求等」とはなにか?これは民法147条1項各号に書いてありますが、以下の4つです。以下の①~④を行うことで、時効完成が猶予されて、その後に、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときには、時効更新の効果が生じることになります(改正民法147条2項)。

請求の具体的事由の根拠の整理
  1. 裁判上の請求        改正民法147条1項1号
  2. 支払督促               改正民法147条1項2号
  3. 和解および調停の申立て  改正民法147条1項3号
  4. 破産手続参加等  改正民法147条1項4号

13. 裁判上の請求とはなにをいうのか?(民法147条1項1号)

裁判上の請求は、民事訴訟における訴えの提起のことです。金銭の支払いを求める訴えが、典型例です。確認の訴えとか、反訴提起などもこれになります。

訴状を裁判所に提出した時点で、時効の完成猶予の効果が生じ(民法147条1項1号)、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときに時効の更新の効果が生じるというものです(民法147条2項)。ですから、判決が確定したら、その時から新たに消滅時効の進行が始まります。

14. 支払督促とはなにか?(民法147条1項2号)

支払督促は、金銭その他の代替物または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について、簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てる手続きで、裁判所書記官によって発せられます(民事訴訟法382条以下)。

債権者が仮執行の宣言の申立ができる時から30日以内に申立をしないときは、支払督促の効力は無くなってしまいます(民事訴訟法392条)。そうなると、時効更新の効果も認められません(民法147条1項柱書)。

15. 和解および調停の申立てとは?(民法147条1項3号)

和解の申立てとは、民事訴訟法275条に規定される「訴え提起前の和解の申立て」というもののことです。

調停の申立てとは、民事調停の申立てまたは家事調停の申立てのことで、和解および調停の申立ては、相手方が裁判所に出頭しない場合や和解または調停が整わない場合には、6か月以内に訴えを提起しなければ、時効更新の効果は生じません(民法147条1項柱書)。そのため、無駄になることも多く、あまり使われていません。

16. 破産手続参加等とは?(民法147条1項4号)

破産手続参加等は、破産手続・再生手続・更正手続への参加のことで、債務者の破産手続・再生手続・更正手続で債権者が、破産債権の届出等を行うことです。債権者が届出を取り下げたり、届出が却下されたりした場合には、時効更新の効果はなくなります(民法147条1項柱書)。

17. 強制執行等とは?(民法148条1項各号)

「強制執行等」に該当するものは、以下の4つです。以下の①~④で、時効完成猶予の効果が生じ、その後、各事由が終了したときに、時効更新の効果が生じます(民法148条2項)。

強制執行等具体的事由のまとめ
  1. 強制執行         民法148条1項1号
  2. 担保権の実行         民法148条1項2号
  3.  担保権の実行としての競売     民法148条1項3号
  4.  財産開示手続または第三者からの情報取得手続  民法148条1項4号

18. 承認とは?(民法152条1項)

承認は、時効の利益を受ける者が、時効によって権利を失うべき者(通常は、債権者とか被害者です。)に、その権利の存在を認識している旨を表示することです。特に、方式は決まっていません。

権利があることを認める示す行為は全て「承認」です。利息の支払は元本の承認と評価され、債務の一部弁済は残債務についての承認と評価されます。

19. 時効の完成猶予の効果となる「催告」はどう利用できるか?

 改正された民法では、時効の完成猶予事由の1つとして「催告」を定めましたが、催告とは、「義務の履行を求める意思の通知」をいうので形式は決まっていません。債権者が債務者に対して、メールとか口頭で債務の履行の請求を行うことが典型例です。「100万円を払ってください。」などと言うことで良いのです。

もっとも、後で、時効を援用するという争いになった場合、催告を行ったことを容易に立証できる必要がありますので、書面でする必要があります。債務の履行を求める書面を配達証明付きの内容証明郵便で送付する形で行うことが最も堅実な方法でしょう。

そして、催告の効果は、意思の通知が相手方に到達した時点で生じます。催告があると、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しませんのでちょっと待ってもらえる制度です(民法150条1項)。時効更新の効果を生じさせるためには、催告をした後には6か月以内に上記の、裁判上の請求等、強制執行等、承認といった「時効更新事由」に該当する措置を行う必要が、ありますので、これで安心はできません。

催告は、時効完成日を6か月だけ先送りにして時間的猶予を与えるという効果しかなく、しかも、催告による時効完成日の先送りという効果はあくまで1回限りのものです(民法150条2項)。

なお、送付した催告書が不在による保管期間満了によって返戻された場合は、原則として催告の効果が生じませんので気をつけましょう。

特に、時効期間満了のギリギリになって催告の通知をして相手方に催告書が到達しなかった場合に、その期間に時効が完成してしまうというがあるので余裕をもって行動しましょう。

20. 内容証明郵便を利用する意味

ますは請求したいという意思を示す催告の方法として、内容証明郵便は有効です。なぜかというと、特定の内容を相手に郵便で伝え、それが、公的な証明として残るからです。内容証明郵便で、催告があったことを明確に立証できます。しかし、郵便の内容には知識が必要ですから、作成を弁護士に依頼するべきでしょう。正式な事件について、具体的賠償請求をしたいという意思を伝えるために有効なものなので、何の賠償を求めるのか、対象を明確にする必要があり、一般人にはドラフトが難しい可能性があります。

21. 時効管理のために必要なこと

時効を管理するためには、日常的な記録管理が欠かせません。具体的には、契約書を保管して内容を理解すること、損害の発生日時やそのときのやりとりの証拠を記録にしておくべきです。

定期的に支払いがされていないものについては、時効の進行状況を確認し、必要な手続きを早めに行うべきでしょう。大規模な取引や長期間にわたる取引においては、時効管理が複雑になるので、専門的な弁護士の支援も必要でしょう。

適切な管理がされず、できる請求が、時効によりできなくなるリスクがありますので、慎重に対応をしましょう。特に、不法行為による時効は思ったより早く到来してしまうため、迷っているうちに時効が完成します。法改正も定期的に法律情報をチェックするとか、弁護士のアドバイスを受けることも、重要でしょう。