アパートを相続することになった(なりそうだ)けど、何をどうしていいのか途方に暮れてらっしゃるのではないでしょうか。アパートの経営は親が行っていたので、やり方が分からない。そもそも、その前に名義変更などがあり、アパート経営の入り口にも立っていない。海外にいるので物件の管理ができない。そんな方に、今回はアパートを相続した際の手続きや、考えられるトラブルとその解決法について書いていきます。
1. 相続か放棄か?相続をするかどうかを検討!
アパートの相続は不動産の相続なので諸手を挙げて歓迎したくなりますが、まずは、今後のために相続するかしないかを検討しなければなりません。アパートを所有していた親が亡くなった場合に、何も考えずに相続してしまうと後から困ることがあるかもしれないからです。相続は単にプラスの資産を受け継ぐだけでなく、マイナスの資産も受け継ぐため注意が必要なのです。また、相続放棄は被相続人(亡くなった方)が亡くなった時から3ヶ月以内に行わなければならないので、早期の見極めも必要となります。
1-1. 相続するべき時
アパートのローンが多額に残っていたとしても、その他の財産がとても多く、アパートのローンを補ってあまりあるほどの資産であれば、それは十分に負債を払ってしまえるので、相続をするといいでしょう。相続すると、そのまま賃料があなたの収入となるので、ご自身の収入アップとなり生活が助かります。また、ローンが残っている場合でも、収益性が高い物件であれば、相続しておくべきでしょう。ただし、今後世帯数の減少による空き家問題や、生産緑地解除による大量の住宅供給など、収益アパートに関する将来の不安要素も多くありますので、注意が必要です。賃料でローンが払えるかよく検討してみましょう。
1-2. 相続放棄をするべきときとは?
資産があっても、負債の額がそれを上回っている場合、ある種の債務超過になっていますので、相続放棄が無難です。たとえば、ローンのない5000万円のアパートがあっても、その他に親が事業で1億円の負債があるような場合は、トータルで大きなマイナスとなってしまいます。相続放棄は、負債のみを対象にすることも、一部の財産のみすることはできないので、トータルで考えなければならないことに注意しましょう。
2. アパートの相続の際に最初にすること
最初に、居住者に連絡し、名義変更をしましょう。名義を変更しないとだれに家賃を払うべきかわからないからです。家賃は相続人が受け取る必要があり、そのためには外部にわかるように、早く、名義を相続人へと変更する必要があります。そのための手順の流れはどのようなものでしょうか?
2-1. 遺言の有無の調査
まずは、遺言があるかどうかを調査しましょう。公正証書で作られた遺言であればどこの公証役場でも調べることが可能です。それ以外の場合は、配偶者や身近な人に確認したりする必要があります。自分がアパートを相続したいと思っていても、遺言書にアパートは別の人へ相続させると書いてあったら、それはそのまま、遺言書の通りに遺産を分配しなければなりません。遺言がどうなっているのか、遺留分がないか、確認しましょう。
2-2. アパートの状況の理解
法務局で登記簿謄本(全部事項証明書)を取得して、アパートの権利関係を調べます。被相続人の単独所有だったのか、それとも共有財産か。さらには、担保がついているかどうかなどを登記簿謄本でしっかりと確認しましょう。共有財産であれば相続してもその他の共有者と共有になりますので、家賃をしっかりわける必要がありますし管理をどうするかを協議する必要があります。担保がついているということは借り入れがあるということですので、借入先を確認しましょう。
2-3. 遺産分割協議で、だれが相続すべきか決定
相続人が複数人いる場合、遺産分割協議をして、だれがアパートを相続するかを決めましょう。遺産分割協議の内容は、書面にして(遺産分割協議書)全員が「実印」にて押印しておく必要があります。法律上の相続分で共有する場合、登記ができますし、遺産分割協議は不要なのですが、不動産の共有はおすすめできません。遺産分割協議できちんと誰がアパートをもらうのか、他の相続人は何をもらうのか、アパートをもらう人からいくらの代償金をもらうのかということを決める必要がありますが、そのための遺産分割協議書は専門の弁護士に依頼しましょう。弁護士なら交渉もしてくれるので、貴方は一切の交渉から任せることも可能です。
2-4. 相続の登記
相続する人が決まれば、法務局の登記簿を名義変更します。戸籍・住民票・評価証明書を取得し、申請書を法務局へ提出します。この際、固定資産税評価額の0.4%の登録免許税(法務局の手数料)がかかります(2025年現在)。仮に、アパートが5000万円の評価額だとすると、0.4%なので20万円の登録免許税がかかります。登記申請は司法書士に依頼することが確実ですが、その場合は10万円程度の費用がかかるのが相場です。この相続の登記には遺言や遺産分割協議書が必要です。
2-5. 相続税の申告と支払い
相続をすると相続税の申告が必要で、アパートの名義変更を済ませたら、申告・納税が必要です(相続する人が決まらない場合、先に納税となることもあります)。相続税がからない場合、納付は不要ですが、それには専門知識が必要です。基本的に、相続税は相続が発生してから10ヶ月以内に申告をして、現金で一括納付することがルールです。もっとも、相続税には様々な特別控除がありま、控除を使えば相続税がかなり安くなるので、専門的な税理士に申告をしてもらうのがよいでしょう。アパートの相続税が払えない場合は、アパートを含む資産の売却を検討も必要でしょう。しかし、急いで売却してしまうと逆に相続税が上がってしまう可能性が出てきますので、借入れをするという方法もありますので、対策を考えましょう。
2-6. スムーズのために司法書士へ依頼
アパートの名義変更は、登記簿謄本、被相続人の住民票と戸籍謄本といった多数の書類が必要で、申請書作成でも手間がかかります。ひとつでも欠けていたら登記が完了しませんので、慎重に進めていく必要があります。さらには、迅速に行わなければなりません。
しかし、相続が発生したということは、親しい人が亡くなっているということでもあり、非常にバタバタしています。よって、なかなか手続きに足が動かない、ということが多いのではないでしょうか。そのため、費用はかかりますが、名義変更は司法書士に依頼するのがおすすめです。
3. 相続したアパートに特有に大事な手続き
収益アパートの相続には、通常の住宅の相続とは異なる特有の手続きがあります。
3-1. 賃借人への連絡、賃料の受け取り
大家さんには建物の修繕義務がありますし、きちんと家賃を受け取っておく必要があります。そこで、だれが賃料を受け取るのか、アパートの所有者が決まっていない期間に借りている人に迷惑をかけないようにも、決めておくべきでしょう。賃料は毎月発生しますので、亡くなった月までは、被相続人の所得として確定申告をする必要があります。
賃料は、相続が発生し、あなたがアパートを受け継いだらあなた、あるいは誰が想像するか決まっていない場合には相続人全員の所得になりますので、所得に対して確定申告が必要です。というのも、相続が決定するまでの賃料は、遺産ではないとされていて、遺産分割が決まるまでは、法律で決められている相続分(法定相続分)にしたがって、賃料をわけることになるからです。
3-2. 賃借人とのやりとり
アパートのオーナーが亡くなると、今後の段取りを賃借人に連絡しなければなりません。
オーナーが亡くなったままの状態では、口座が凍結して、賃借人が家賃を支払えなくなってしまって迷惑をかけたり、ドアとか給湯器などの修理が必要な時、賃貸人としての義務が果たせなくなってしまったりしてトラブルになります。そのことで、損害賠償を請求されては大変です。
したがって、相続人で話し合って、代表者を決め、賃借人との連絡係になる必要があります。管理会社がいる場合には、管理会社に相談して管理会社が受領してそれを相続人に分けるなどのアレンジをしてもらってもよいでしょう。
3-3. 準確定申告
準確定申告とは、被相続人が亡くなってしまったあと生前の収入を相続人が確定申告することです。収益を計算し、準確定申告を行います。被相続人が亡くなってから4ヶ月以内に、準確定申告を行わなければなりません。
3-4. 事業の継続か売却の検討
「アパート」という「物」の相続と同時に、賃貸事業自体を承継するかどうかの検討も必要となってきます。立地もよく抜群の収益性があるということなら、迷うことはありませんが、空き室もチラホラあるような物件の場合には、将来の世帯数減少による空き室増加や、住宅過剰供給による賃料の下落なども考えておかなければなりません。アパートを相続した年齢によっては、別に仕事があるのに兼業にてオーナー業を営まなければならないことも問題です。海外に赴任するなどすると管理も大変です。賃料が入ってくるだけの不労所得とも言われていますが、賃借人からのクレーム対応、将来的なテナントがいなくなるリスクへの対応、修繕の際の資金調達、ローンを借りている金融機関への支払いなど気苦労の多い「苦労所得」などとも揶揄されることもあります。管理が難しい場合は、管理会社に頼むのがよいでしょう。さらに、アパートの売却も考える必要がでてきます。アパートの売却を急いで行ってしまうと、相続税が大きく控除される小規模宅地の特例が利用できなくなってしまうので、売却するにしてもタイミングを考えましょう。
3-5. 金融機関とのやりとり
アパートのローンが残っている場合、金融機関ともやりとりしなければなりません。実は債務は相続人がみんなで相続することになっているので、連帯債務になってしまいます。アパートのローンを払わないとデフォルトといって、期限の利益を喪失する債務不履行所遺体になって大変です。死んだ方が、団体信用生命保険(団信)に加入している場合、団信で支払うこととなり、負債は残りませんので大変に有利な相続になりますが、保険料が降りるのが2ヶ月程度かかるので、その間のローンを支払う必要があります。ローンが残っている場合、相続人は、金融機関にすぐに相談することが必須となります。
4. よくある質問
Q 遺産分割の話し合いでアパートの価値がわからないのですが、どうしたらよいですか?
アパートの価格というのは2種類に分けられます。相続税の計算をするためのものと、相続するか・事業継続するかどうかを判断するための市場価格、売ったらいくらになるかという価格です。
相続税の計算をする場合、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基にします。
前者は国税庁のウェブサイトで、後者は毎年送られてくる固定資産税の課税明細で分かります。市場価格については、不動産鑑定士の鑑定が正確ですが、かなりの金額がかかるので、不動産仲介業者に査定をしてもらうといいでしょう。
Q 相続人で相続登記をしてマンション経営をしてよいですか?
これは可能ですが、共有名義にすると後でやっかいになりやすいです。さらに相続が発生すると相続人が増えていき、管理が大変になります。どうしても何人かで相続するのであれば管理に関する合意書をすぐに作成するべきでしょう。そうしないと、あとで賃料の配分トラブルが起こりやすいし、修繕ができなくてテナントからの賠償を求められるという新たな紛争を引き起こしてしまいます。
日本では、世帯数の減少、大規模な宅地供給という問題があって、立地条件が悪いアパート経営は厳しい局面を迎えると言われています。共有では、売るべき時がきたとき、全一致で決定ができないかもしれません(誰かが認知症であるようなときには売れません)ので、共有は大きなリスクをはらみます。アパートしか遺産がなく、共有にせざるを得ないというような場合であってもなるべく、売却して金銭で分けたるのがベストでしょう。
Q 相続人が決まるまでどうしたらよいでしょう?
家賃は、法定相続分にしたがって、わけて確定申告をしていくことになります。誰かがもらってしまってすべて使ってしまうとトラブルの種になりますので、家賃を誰が代表で受けるかはすぐにきめましょう。修繕の責任者も決めましょう。
Q 空室が出てしまったらどうしたよいですか?
相続する人が決まっていない場合、新たなテナントとの契約をするのが一部の相続人でも可能であると考えられますが、後でのトラブルを避けて管理するひとを決めてその人がテナントとの契約をするのがよいでしょう。管理会社がついているのであれば、その会社との契約を継続して、管理をしてもらうのがよいでしょう。
5. 最後に
アパートを相続したケースでは、いろいろやらないといけないことがありますので、専門的な弁護士に相談して、家賃をきちんと受け取り修繕義務も果たしつつ、遺産分割をなるべく早く合意できるようにすることが寛容でしょう。 当事務所ではアパート相続の場合の相続人の間の当面の管理契約から始まり最終の遺産分割協議の実現まで、ワンストップで受任しています。ご相談はお気軽になさってくだ