離婚の財産分与では、どんな財産をどのように分与するかで紛争が起こりやすいものです。仕組みを理解すれば賢い分与が可能となり、よりよい解決が見込めます。また、タイミングよく弁護士に相談することも大切です。
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1. 財産分与とは?
財産分与は、離婚の際の清算です。これは、一言でいうなら、持っている財産を公平に分割する作業でもあります。もしも財産がすべて預貯金のように、客観的に数字で評価しやすいモノや簡単に分割できるモノなら、トラブルになる可能性は低いかもしれません。
しかし、個人が所有している財産は様々で、それらを公平に分割する作業は決して簡単ではありません。そもそも、分与するべきであるのかから、紛争になるタイプの資産もあります。
特に、離婚の際には離婚後の生活も考えながら行わなければならず、どの財産をどのように分割するのが両者にとってベストなのかが異なります。そのため、財産分与の仕組みを正しく理解することで、自身にとって不利な財産分与が行われることを回避できるのではないでしょうか。
1-1 財産分与は法律で保護されている権利
離婚における財産分与は、民法の第768条1項によって保障されている国民の保有する権利です。結婚期間中に、夫婦で協力しながら築き上げた財産が分与の対象となります。
基本的には、夫婦で平等に1:1で分割することが現在の家庭裁判所の考えになります。これは「2分の1ルール」と呼ばれており、結婚生活においては収入の大小にかかわらず、同等レベルで結婚生活に貢献しているのだから、その期間中に築いた財産も公平に分割すべきだという考えに基づいています。
1-2 必ずしも1:1の分与ではない
2分の1ルールは、あくまでも原則のルールです。婚姻期間中に築いた財産については、それぞれの貢献度が異なりますから、基本的には2分の1ルールが基準となるものの現実の離婚裁判の判決では、財産分与の割合が1:1にならないケースが少なからず存在することは理解しておきましょう。これまでの裁判例によると、6対4とか、非常にまれですが95:1というケースも実際にあります。
2. 財産分与の考え方によって分与方法が変わる
離婚における財産分与の種類は、大きく3つに分類できます。
2-1 清算的財産分与
清算的財産分与とは、夫婦が婚姻中に築いた財産を貢献度に合わせて公平に分配しようという考え方に基づいた分与方法です。夫婦どちらの名義であるかにかかわらず、また夫婦どちらの所得が多かったのかにかかわらず、夫婦で協力して形成し維持した財産はすべて、夫婦共有財産と見なされます。
清算的財産分与では、離婚の原因がどちらにあるかという点は考慮されません。そのため、不貞行為など離婚の原因を作った有責配偶者でも、請求すれば認められます。
2-2 扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、離婚後に生活に困窮する側の生計をサポートする目的で行う財産分与を指します。例えば、離婚する時に一方が専業主婦で経済力に乏しかったり、また病気で働くことが難しかったりした場合には、この財産分与方法を請求されることが多いですし、高齢者の場合にも適用されます。
扶養的財産分与では、離婚の原因が夫婦のどちらにあるかにかかわらず、経済力を持っている側が経済的弱者となる相手に対して、離婚後の生活をサポートするために一定額を定期的に支払うという分与を行います。
2-3 慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、離婚時における財産分与の中に、慰謝料も含める目的で使われています。財産分与は金銭も含めた財産の分与を行う話し合いの場であり、その中に慰謝料が含まれているケースは少なくありません。中には、慰謝料と財産分与を明確に線引きした上で、両者で別々の請求をするケースはありますが、そうでないケースも多いものです。
慰謝料的財産分与という言葉が使われる場合は、財産分与に慰謝料の分も含めて考慮する意味が含まれています。
3. 財産分与ではどんな財産が対象となる?
財産分与では、個人が所有している財産すべてが分与の対象となるわけではありません。基本的に分与の対象となるのは、夫婦が共同で築いたと考えられる共有財産です。具体的には、どんなものが財産分与の対象となるのでしょうか?
3-1 共有財産は財産分与の対象
夫婦共有財産は、婚姻中に形成し維持した財産を指します。どちらの名義になっているかは関係ありません。パート収入による貯蓄も対象ですし、それで買った投資信託も対象です。
まず、夫婦で購入した不動産は、典型的な財産分与の対象となる財産です。専業主婦の妻は頭金を出していないとか、妻の親がかなりの頭金を全額出したとか、そうした細かい事情は考慮されずに共有財産となりますが、婚姻前の資産とか親族の援助は実際の分与で考慮されます。
ルールとしては、婚姻期間中に夫婦が共同で購入したものなら、それはまずはは共有財産となり、財産分与の対象となると覚えておきましょう。家具や家財道具も、もちろん共有財産です。また、趣味で集めた絵画、貴金属や時計、骨とう品なども、夫婦共有の動産として財産分与の対象となります。これらの動産に関しては時価評価額が変動するため、財産分与の際には必ずプロに鑑定をしてもらった上での分与が必要となります。
自動車もまた、財産分与の対象となる動産です。これも評価額がその時によって変わるため、中古車センターなどで査定が必要でしょう。
夫婦共有の財産と見なされるものには、他にも有価証券や預貯金、退職金や貯蓄性保険などが挙げられます。
3-2 対象外の財産もある
婚姻期間中の保有していた財産の中には、財産分与の対象とならないものもあります。それは結婚する前から保有していた財産で、個人に帰属する「特有財産」になります。
例えば、独身時代に蓄えた定期預金などは、結婚した後にも保有していたからと言って、共有財産となるわけではありません。結婚後に積み立てた部分に関しては共有財産と扱われるものの、婚姻前の部分は特有財産として分与対象外となります。それは、立証が困難なこともありますので、弁護士に相談しましょう。
3-3 別居後に取得した財産はどうなる?
夫婦の共有財産は、基本的には婚姻関係がスタートした時からカウントされます。共有財産と見なされなくなるのは、離婚が成立するタイミングではなく、「別居」がスタートしたタイミングです。つまり、別居後に取得した財産に関しては、夫婦が協力して取得したものとは言えないため、共有財産には当たらないと考えられます。
よって、これから財産がとても増えるという見通しの方は、離婚されたいのであれば別居しておいた方が良いということになります。
3-4 現実的には線引きが難しい
婚姻前に取得したものは特有財産、婚姻期間中に取得したものは共有財産という線引きがあるものの、現実的に明確な線引きをすることが、いつも簡単ということは、ありません。
例えば、独身時代に取得した財産はその立証ができないかもしれませんし、資格試験に受かったのが婚姻前でもそれをどう評価するのかは難しい問題です。配偶者の貢献によって取得できた財産かどうかで多くは判断されますが、特別の才能があってそれによる貯蓄であるような場合には、別の判断もあり得ます。
また、婚姻期間中に取得した財産で共有財産だとは考えにくいものがあります。例えば、婚姻中に親から相続した不動産などです。相続に関する費用などを夫婦共有の財産から支払わず、夫婦の財産を使って得た財産なら相続に起因していても、離婚時に共有財産となることもあります。裁判で認められるかは立証と理論的主張のミックスの結果によります。
共有財産か固有財産かの線引きは、いつ取得したかという点に加えて、夫婦の貢献度も影響します。スポーツ選手などは才能と努力で短時間に多くの収入を得るため、それを折半して分与するのは公平ではないという判断がされることが有ります。
こうした貢献度とか全体の公平性を考慮しながら裁判所は財産分与を行っています。離婚のタイミングでお互いの貢献度を客観的に評価判断することは、当事者にとっては決して簡単な作業ではないでしょうから、財産の多い当事者同士では合意するのは困難であり、弁護士の介入や裁判所の調停により解決するケースがほとんどでしょう。
3-5 マイナスの財産も含まれる
夫婦共有財産は、必ずしもプラスの資産だけとは限りません。婚姻中に作った借金など債務に関しても、残念ながら共有する負の資産として取り扱われることになります。例えば、住宅や自動車を購入するために組んだローンなどは、典型的な負の資産でしょう。
それでは、パチンコや競馬などのギャンブルに関してはどうなるのでしょうか。一般的には、こうした借金や債務は、離婚の財産分与では共有財産とは見なされないことが多いです。その借金が婚姻期間中に作られたものでも、個人に帰属する特有の負の財産という扱いとなります。もっともすでに返済をしている場合は、そうもいかないので複雑な問題になりえます。
4. 財産分与はどのように決める?
財産分与は、どのように決まるのでしょうか?
最も理想的なのは、当事者間での話し合いで納得して合意することです。婚姻期間が短かったり、保有している財産がそれほどなかったりする場合には、弁護士を入れなくても、当事者同士で合意できるケースは少なくありません。
財産分与においては、上記の通り原則としての「2分の1ルール」があります。しかし、必ずしもぴったり半分ずつに分割しなければ離婚できないというわけではありません。当事者が合意するなら、どのような分割方法でも問題はないでしょう。たとえば将来の私立学校の学費として投資信託をお父さんが維持しておいて、それを5年後に子どものために使うという合意も可能ですが、こういった約束は弁護士を介した協議書で決めておくべきでしょう。素人のつくった協議書は後で意味が明瞭でなくて問題になることが多いのです。
4-1 財産が増えるほど揉めやすく解決困難になる
離婚時の財産分与では、婚姻期間が長くなれば長くなるほど、共有財産が増えいろいろな財産がある解決に時間がかかるようになります。離婚に対して合意はしても、公平な財産分与をしてくれなければ離婚しないということで、離婚できないケースも珍しくありません。
もしも当事者同士で解決できない場合は、弁護士に早めに相談することをおすすめします。客観的に財産を評価してもらったり、どんな方法がありえるかなどについて、適切なアドバイスを受けることで、どのように解決することが当事者にとってベストなのかが、解決策が見えてくるでしょう。
4-2 財産分与するなら財産の洗い出しから
財産分与をする際には、最初にすべての財産を洗い出すことから始めましょう。この作業は、当事者間で話し合って分与する際に役立つだけでなく、弁護士や裁判所に分与方法を判断してもらう際にも役立ちます。
財産の洗い出しをする際には、婚姻前から持っていた財産についても一度洗い出した上で、特有財産として除外するという方法が良いでしょう。最初から特有財産を除外すると、その財産に対して配偶者が貢献度を主張した場合に、さらにトラブルが大きくなりかねませんので・・・。
5. 財産分与の方法
財産分与には、いくつかの方法があります。
5-1 現物分与
現物分与とは、夫婦共有の財産を一つずつ、どちらが保有するかを決めていく「現物」での分与です。例えば、夫婦で生活していた不動産は妻が離婚後にもらうことにして、夫は時計や貴金属や有価証券を保持して、それぞれの分与割合によって生じた差額分を預貯金で調整する、といった分与方法が挙げられます。
現物分与で当事者が合意できれば、登記をして、現金の移動をするなどで解決ができます。
5-2 換金分与
これは、夫婦が共有している財産を売却して換金し、売却益を公平に分割する分与方法です。不動産がある場合や、有価証券を名義変更するのが嫌だというような場合に選択されます。例えば、共有している不動産にローン残額も多い場合には、不動産を売却してローンを完済してから売却益を分割する必要がありますので、この方法が有用です。もっとも、片方がローンを引き受けることで、親子でそこに住むというようなアレンジもできます。
また、子がいるような場合には、子が20歳になるまで母子がそこに住んで、その後売却するという合意をすることもできますが、そういったアレンジは弁護士抜きではできないと思います。複雑な条項になるからです。
5-3 代償分与
代償分与とは、片方が特定の財産を保持する代わりに、相当額を相手へ金銭など別の形で分与する方法です。例えば、会社経営者が自社株を多く持っている場合でそれが共有財産の場合、自社株を分与できないので、会社の経営を維持するために、配偶者へ分与するのは相当する額を現金で分与するとすることができます。これが代償分与です。相続したマンションで分与するなどの方法もとれます。
5-4 公正証書の必要性
夫婦共有財産が預金などで、離婚時に話し合いなどですっきり分けられる方には、公正証書を作る必要性はあまりないかもしれません。
しかし、分与の分割払いや不動産共有、将来の退職金の分与など、将来にわたって財産分与の問題等が継続する場合には、今後のために公正証書を作成しておくのが安心です。
特に今後の支払いや養育費があるような場合、公正証書なしに、両者の合意だけで決めてしまうことは避けましょう。離婚時には、一刻も早く別れたいという気持ちから、簡単にしようとする人が多いのが日本の特徴ですが、今後の長い人生においては何が起こるか分かりません。
もしかしたら、相手からの支払いがストップしてしまい、今後の生計に多大な影響が及ぶことも考えられます。そうなってから、弁護士に依頼して執行できるようにしていく方が大変なのです。
6. 財産分与はどのタイミングでするべき?
財産分与をするタイミングは、普通であれば、離婚のタイミングで決めるのが賢明でしょう。
しかし、離婚してから2年は(今後の改正でこれが伸びる予定です)でも、財産分与の取り決めをすることは可能ですが、離婚後では相手も話し合いに応じることで得られるメリットはないため、話し合いの機会を設けることすら難しくなってしまうかもしれません。
2024年現在、民法第768条2項で、離婚後の財産分与は離婚してから2年以内に請求しなければいけないという制限がありますので、離婚をした後に夫婦共有で所持していた財産を洗い出して価額を評価したりする作業は、この期間においてなら家庭裁判所でも可能です。離婚届に署名捺印する前の段階で、財産分与についてもきちんと話し合っておくことが普通ですが、子どもがいるので先に親権の問題を明らかにしておきたいとか、早く再婚したいとか、シングルマザーのほうが公的補助が受けやすいなどの理由で先に離婚をすませたいということはありえますので、後で財産分与のみを家裁でするのも選択としては考えてもよいでしょう。
6-1 財産分与に慰謝料は含まれている?
財産分与とは、夫婦共有の財産を婚姻期間中の貢献度に応じて公平に分割するという作業ですからそこには「慰謝料」は含まれません。慰謝料と財産分与を完全に切り離して、話し合いを進めるのが通常です。そのほうが冷静に分けることができます。
しかし、離婚の際になかなか合意できないのは金銭が関係していますし、慰謝料も含めて金銭の話し合いをすることが多いものです。そのため、財産分与の中に慰謝料も含めて話し合うというケースは少なくありません。弁護士に相談する場合や、裁判所を通して財産分与を行う場合でも、慰謝料を含め、財産分与と一つにまとめられて和解的解決をすることも少なくありません。もっとも、冷静に判断をするには、財産がお互いにいくらあって、現在の民法ではどのような権利が双方にあるのかを双方が理解してから、合意することでしょう。本来は8000万円もらえるのに、急いでいるから5000万円での離婚に応じるという判断は、あとで後悔するものです。急がないで冷静に判断をするには、財産分与を理解し離婚訴訟とか調停の利用方法を理解した弁護士にサポートを受けることで、きちんとした情報を得て決定をすることでしょう。
養育費との関係で気を付けておきたいのは、慰謝料の代わりに養育費を増やすような選択は避けるべきであることです。養育費は年収で変動するので、例えば母親の年収があがることで母がもらう養育費は減ることもあるのです。慰謝料と言うのは過去の行動の結果、精神的苦痛を受けた方がもらうものですので、慰謝料とか解決金と言う名目でもらうようにしましょう。
7. 財産分与で起こりやすいトラブル
離婚時の財産分与では、どんなトラブルが起こりやすいのか、以下で、弁護士からご説明しましょう。
7-1 財産隠し
離婚時の財産分与では、自分名義の財産を名義変更などの方法で隠そうとする人が少なくありません。勝手に保険を解約しておく人もいます。相手が財産を隠した場合、泣き寝入りする必要はありません。情報があれば家裁では情報を開示させる方法があります。当事者同士の話し合いでこういった財産隠しを解決することは難しいので、弁護士に相談して家裁での解決をするのが得策です。
ちなみに、夫婦間での財産隠しは刑罰の対象にはなりません。しかし、民法上の責任は発生するため、相手に対して損害賠償責任を請求することは概念的にはできます。もっとも、家裁で開示ができればそれで問題は解決して損害は発生しないでしょう。
7-2 住宅ローンなどマイナスの資産の取り扱い方
婚姻期間中に取得した不動産の住宅ローンは、夫婦共有のマイナス財産となります。この財産の取り扱いに関しては、ケースバイケースで対処法は異なります。
もしも離婚後にも片方がそこに住み続ける場合には、上記の通り代償分与が現実的な選択肢となるでしょう。しかし必ずどちらかが住まなければならないわけではないため、売却してローンを払うという選択をするケースも少なくありません。ただし、売却しても負債が残る場合にはよく考えて解決さ得る必要があり、弁護士に相談することをおすすめします。
夫婦で共働きの場合、連帯債務となったローンを借りている方も多いでしょう。この場合、不動産持ち分は50%ずつになっているのが通常です。口座引落としでローンを払っていると、片方の口座から引き落とされているので、清算が必要になります。
別居するまでのローン支払いは夫婦の債務の削減になるので、一人が払っていても清算は不要です。夫婦の共有債務が減っているからその不動産を売ればその分売却益(ローン完済した後の残り)が増えている勘定になりますので、その売却益を分ければよいのです。しかし、別居してからは、本来、双方が半分ずつ払うべきローンになっているのですべて払っている方から他方に50%の部分については求償ができ払うように求められます。これは、離婚をしなくても求められる求償になります。
なお、不動産を共有していたり、会社で不動産を持っているような場合、海外に不動産をもっているような場合、解決が困難となりやすいです。そういった不動産がある場合の解決については、当事務所では実績がありますので、具体的にお問い合わせください。