遺言書は故人(亡くなった方)の遺志(気持ち)を示すものとして大事なものですが、残されたひとにとっては、その内容に納得できないこともあります。
その場合、遺留分について知っておくと、遺産分割(相続)を納得して進めますので、その内容と弁護士を意味をここでご説明します。
2. 遺言と遺留分の関係は?どういうとき遺留分が問題になるの?
人生をかけて築き上げた財産を配偶者や子どもなどに遺すというのは、大きな意味を持つものです。遺産を受ける相続人としても、資産を得られるとともに、故人の想いを受け継ぐことができるわけです。相続(遺産分割)はできるだけスムーズに、故人の意思をしっかりと尊重できる形で行いたいものです。
そのために重要な役割を果たすのが、遺言です。
遺言では、主に故人の家族への想いを伝えると共に、遺産をどのように分割するかということが記されています。寄付をしたいというようなことが含まれることもあります。遺言には故人の強い意志が残されていますので、近親者としてもできるだけ実現したいと思うはずです。
しかし、中には納得できない内容が、遺言書に記載されていることもあります。特に、財産の分与の仕方が不公平であると思われる場合です。あるいは、本当にそのような希望を本人がもっていなか、疑義があるという場合です。
一般的に、相続は配偶者や子どもを中心として、兄弟姉妹や親などに公平に分割されるものです。しかし、時に、事業を後継者に残すとか長男を大事にするような背景から、特定の相続人に偏った財産分割を指示されていることもあります。また、近親者以外の人に、近親者よりも多くの財産を遺したいとされていることもあります。
こうしたケースでは、法的に強い関係性を持っている近親者がないがしろにされていると言えます。そのため、法律では近親者に対して、遺留分という権利を定めています。配偶者や子どもなどが最低限受け取ることのできる相続財産のことで、遺言書に書かれている内容よりも優先されます。つまり、遺言書では特定の近親者の取り分が非常に少なく指定されているとしても、遺留分を請求すれば、遺留分の方が優先されるというわけです。遺留分については、最近の改正がありますが大きな点では改正でも変わっていません。
遺留分が認められているのは、配偶者と子ども、そして直系尊属となります。ここでいう子どもには、婚外子も含む非嫡出子も適用されます。一方で、被相続人の兄弟姉妹には、遺留分という法的な取り分は、ありません。
遺留分の割合は、相続人が誰かによって変わってきます。ほとんどのケースで、遺産総額のうち、半分が遺留分として確保されることになります。残りの半分については、遺言書で近親者以外に渡すことが指定されている場合は、そちらに渡されることになります。
遺留分として確保される遺産総額の半分の中でも、それぞれの関係性によってもらえる割合が変わってきます。たとえば、配偶者と子どもが1人いる場合は、配偶者が遺留分のうちの2分の1を取り、残りの2分の1を子どもが取ります。遺産全体で見ると、配偶者と子どもが4分の1ずつを取るわけです。
配偶者に子どもが2人いる場合では、配偶者が遺留分のうちの2分の1を取り、子どもが残りの2分の1を均等に分けます。そのため、遺産全体で見ると、配偶者が4分の1をもらいますが、子どもはそれぞれ8分の1ずつとなるわけです。また、直系尊属つまり親がいる場合には、配偶者や子どもたちよりも少ない割合となります。
このように、故人との関係性や人数によって、最終的な遺留分の割合は変わってきますので、一度すべての相続人をリストアップする必要があります。その上で、関係性を確認して、全体の中でどのくらいの割合を遺留分としてもらえるのかを計算しないといけません。
近親者には遺留分という形で一定の相続の取り分が保証されているものの、遺言書で特定の人に偏った相続が指定されている場合、遺言書を優先したい人と、遺留分を主張する人とで揉めることがあり得ます。
こうした場合、遺留分侵害額請求というものがなされます(改正前は遺留分減殺請求と言われていました)。これは、遺留分を持つ人が、自分の分まで受け取った他の相続人に対して、正当な遺留分について支払いをするように求めるものです。その支払いは、法改正により、不動産や有価証券といった現物ではなく、それらの価値に見合った金銭で行われることになります。請求をする時には、遺産の価値評価を行い、お金に換算してから分割して、明確な金額を請求することになります。(改正法が適用されない場合には少し異なる考え方になります。)
2. 相続をスムーズに行うために弁護士を付けることの重要性
遺言書では故人の意思が強く示されていたとしても、法律上ではより公平な分配を求められるという状況が起こることは少なくありません。その場合は、今まで見てきたように、遺留分の対象者が自分たちの法的に保証されている取り分を計算して、請求を行わなければなりません。遺言書よりは、遺留分の方が効力が強いので、請求がなされたら、基本的にはすぐに支払いをすることが求められます。
しかし、遺言書で書かれているのだから、それを優先すべきだと主張する相続人も実際には多く、なかなか簡単にはまとまりません。スムーズに解決するために、弁護士の関与が必要となることが通常です。
まず、遺留分侵害額請求については、口頭で請求をするだけで済ますのではなく、文書で相手方に明確に示すということが必要です。そして、その際には法的にも有効な証拠が残るように、内容証明郵便で文書を送付するのがベストです。というのも、この遺留分侵害額請求という権利には時効があって、請求をしないままにしていると、消滅してしまうからです。口頭だと、自分では請求をしたつもりでも、相手方が聞いていないと言うこともあり得ます。こうした事態を避けるために、記録が残る内容証明郵便を使うことになります。
こうした請求をしても、相手が無視し続けるということも十分あり得る話です。その場合は、家庭裁判所に申し立てて調停をします。調停では調停委員という第三者が間に入ってくれるのですが、あくまでも当人同士の話し合いで解決をする場です。そのため、調停でも決まらないことはあります。そうなったら、最終手段として、裁判所で訴訟ということになります。遺留分を認めてもらい、相手に対して支払い命令を出してもらうのです。
こうした法律上の手続きは複雑で、処理が面倒です。確実に遺留分を受け取るためには、上手な交渉もしないといけません。その点で、相続に強い弁護士を雇うことには大きな意味があります。交渉を有利に進めてくれますし、裁判沙汰となったとしても、手続きをスムーズに行ってくれます。結果的に、円滑に相続を行うことができて、公平な相続へと導くことができるでしょう。
また、前述したように、相続に関しては時効や期間の制限をある場合があります。素人だと、こうしたことを見過ごしてしまったり、ついつい忘れてしまったりすることがあります。その点でも、弁護士が相続をサポートしてくれれば、スピーディーに物事を進めることができますので、ミスを防げます。
なによりも、弁護士というプロがいると交渉をすべてしてもらえるので、自分は何もしなくてよいという楽さが、あります。相続に関係する一連の流れは、大事な家族が亡くなったという悲しみや、葬儀を含めてたくさんのやることが重なって、かなり精神的なストレスを与えるものです。加えて、遺言の内容に納得できない相続人がいると、関係者の関係性がギクシャクして、より疲労感を増すものとなり、そういう時、第三者の立場で介入してくれたり、適切なアドバイスを与えてくれたりする弁護士がいると、気持ちを楽にできることがおおいでしょう。
財産を遺したいと考えている人にとっても、弁護士のサポートは重要です。
そもそも、法的に有効で関係者みんなに公平な遺産分割ができれば、問題は起こりづらいものです。そのため、遺言書作成の段階で弁護士に相談することで、より後の紛争を回避できる遺言を残せるといえます。