相続は税金が高くならないようにということもあって、生前贈与という方法を考える人も少なくありません。その際に、どんな点に注意して行ったら良いのか、円満に相続を行うために弁護士を付けた方が良いのかなどをチェックしてみましょう。
1. 生前贈与とはどんなもの?相続弁護士がわかりやすく解説。
できるだけ多くの財産を家族に遺してあげたいというのは自然なことです。しかし、相続には一つのハードルがあります。それは相続税の存在です。
相続税は、様々ある税金の種類の中でも税率が高い部類であり、せっかく相続しても、遺産の多くが税金として消えてしまうのでは?という恐れもあるでしょう。しかも、相続税の支払いは現金が基本となっていますので、不動産などの換金しづらいものをもらうと、支払えなくて、せっかくの相続財産を手放す結果になってしまうこともあります。
こうした問題を解決して、スムーズに相続をするためには、相続税対策を生前に始めることが重要です。いろいろな手法がありますが、そのうちの一つとして活用されているのが、生前贈与という方法です。生前贈与というのは、簡単に言うと、本人が生きている間に金銭や不動産などを贈与しておくというものです。
生前贈与で贈与する資産の種類は特に制限はなく、どんな資産でも与えることができます。ただし、税金や手続きの関係もあって、金銭で贈与することが多い傾向にあります。たとえば、住宅取得資金として、子どもにマイホームを建てる際の資金を援助するといった形があります。また、孫に対して、教育資金という名目で一定額を贈与するということも多いです。
生前贈与をすることの大きなメリットは、やはり税金対策につながるという点です。前述の通り、相続税は遺産総額によっては高い税率となってしまい、相続人に大きな負担を与えかねません。しかし、生前贈与であっても、一般的な贈与と同じように贈与税がかかります。そのため、普通に近親者に財産を渡したのでは、相続税対策にはなりません。
暦年贈与という形で生前贈与をしていれば、税金をかなり下げられます。暦年贈与は、一定額以下の定期的な贈与であれば、贈与税がかからないというルールを活用したものです。1年間のうち、上限額以下の贈与であれば、贈与税の申告が不要で、納税義務も生じないという制度を利用するのです。生前から時間をかけて行うことで、まとまった額の資産を非課税で、子どもや配偶者などに譲ることができます。
ただし、暦年贈与にはいくつかの注意点があります。それは、税務署から税金逃れと判断されてしまう可能性もあるということです。そのため、毎年同じ時期に贈与をしたり、全く同じ金額、特に上限額ぴったりの金額を贈与したりするのは避けます。また、たまにはあえて上限額以上の贈与をして、贈与税を支払うことで、完全なる税金逃れという印象を回避できます。
もしくは、上限額を多少超える金額を毎年贈与して、納税を続けるということでも、立派な相続税対策となります。たとえば、上限額よりも数万円多い額の贈与をしたとすれば、基礎控除として上限額分が引かれますので、課税対象はオーバー分だけとなり、税率10パーセントが課せられます。すると、毎年わずかな額だけを納税すれば済みます。これを長期間続ければ、かなり多額の贈与ができ、納税額は小さい額で収まります。同じ金額を相続という形にするよりはずっと納税額が少なくなりますので、無税とならないとしても、かなりの節税効果を期待できるのです。
さらに、贈与に関する特別措置を活用することもできます。その代表例が、住居の購入費用を配偶者に贈与するというものです。居住用の不動産であれば、かなり高額の対象額から控除されることになっていますので、配偶者に限定されることとはいえ、大きな節税が期待できます。結果的に不動産購入費の大部分を無税にできるわけです。
同じように、子どもや孫への教育資金目的の贈与も、贈与税がかかりません。教育資金として用いるための一括贈与であれば、やはり相当高額の贈与分を非課税とするという措置によります。この資金は使い切る必要があり、使い切れない分については税がかかりますので、注意が必要です。しかし、かなり高額の贈与が納税なしでできますので、とても大きなメリットを生み出すと言えます。
生前贈与により、相続税対策以外にも、死亡してから相続人同士でのトラブルを避けられるというメリットもあります。生前に本人が直接贈与をしていれば、その意思がはっきりとしていますし、すでに財産の名義が移っているという既成事実があるからです。
こうした贈与をする場合には、単に金銭を渡すだけでなく、近親者であっても贈与契約書を作っておいた方が良いです。というのも、生前贈与をしていると、相続が発生した場合に、相続人の間で、前もって財産が与えられていたかどうかということで揉めるケースがあるからです。きちんと文書の形で残しておくことで、生前贈与を証拠立てることができて、面倒を避けるのに役立ちます。
2. 特別受益と遺留分との関係性とは?
生前贈与を上手に行えば、相続税対策として大きな効果を生みます。しかし、相続の際には、生前贈与についての注意点があります。それは、特別受益と呼ばれるもので、生前贈与としてもらった財産は、相続する遺産の中に含められるということです。つまり、相続分の前倒しとして、生前贈与をしたと見なされることになります。
こうすることで、生前贈与を受けていない人と受けた人の間の公平性を確保することができます。つまり、いろいろもらっていた人とそうではない人の不公平を調整して、相続割合に相当に公平な財産の分与が実現されるというわけです。ある人が生前贈与をたくさん受けていて、他の人がそうでない場合、遺産となっている財産のみを、分けると、総合的に見て「不公平」と感じられるから、これを避けるためのものと言えます。
この特別受益と見なされる財産には、いくつかの分類があります。たとえば、結婚資金や教育資金といったものです。結婚資金については、挙式費用の援助などは親が行う通常のサポートの範囲でもありますので、特別受益と見なされないことが多いです。明確な分類がなされているわけではないので、それぞれのケースで金額や事情を考慮して検討されることになります。一方で、教育資金の援助は、前述の通り、無税でできる生前贈与として行われることも多く、多額になります。そのため、特別受益と見なされることが多いです。
他に、不動産や株式などの有価証券などの贈与も、特別受益となります。生命保険金の支払いや死亡退職金などは、基本的には特別受益となりません。しかし、通常の範囲を超えるほどの金額が支払われた場合や、受取人に関して何らかの事情がある場合は、該当すると見なされることもあります。
特別受益と見なされた分については、遺留分から相殺されることになります。遺留分とは、配偶者や子どもなどが法律によって保証されている遺産の分割割合です。生前贈与された金額で特別受益だとされれば、その分がまるまる遺留分から差し引かれます。相続の際に分割される遺産は、生前贈与を受けていない他の相続人よりも少なくなります。こうして、生前贈与を含めて、全体の遺産が公平に分配されるわけです。
このような生前贈与や特別受益の範囲の確定、遺留分の計算などは複雑で、法律知識とノウハウがないと正確に出せないものですから、相続問題に詳しい弁護士を利用するのがベストであろうと思われます。
遺言書に記されている遺産の中身だけでなく、関係する人すべての生前贈与の中身も家庭裁判所などを利用してできるだけチェックした上で、総合的に解決するのがよいでしょう。また、当事者で円満に話し合って解決できるようなサポートも弁護士ならできますので、スムーズに遺産分割を完了できます。