離婚

結婚していることの意味

1. はじめに

結婚しているということは法的にどんな意味があるのか、知っていますか?普通の方はあまり知らないかと思います。

私も、勉強を始めた頃に、有斐閣の教科書で
「人類は男女の性的結合によって種族の保存を続けてきた。・・・このような社会規範によって支持される性的結合関係が婚姻であり、この婚姻に関する社会規範の全体を婚姻制度と呼ぶ」(有斐閣双書 民法(8)(第三版)54ページ)
などと書いてあって、まだ若くて結婚に甘い夢をもっていた私は「社会規範によって支持される性的結合関係」が結婚なの?そんなに固く考えなくても・・・などと思ったものでした。

しかし、結婚生活もその終わりが来て「離婚」ということになると、やれ公正証書だ、弁護士だと急にロマンチックな色合いがなくなるのは、そもそも結婚というものが「規範で認められた制度」であることによるわけです。

簡単にいえば、結婚というのは「こういうものです」と法律が決めているので、結婚すると「これをしなさい」「これはしてはだめです」などといろいろ外部から(「国の法律」から)言われてしまう「とても面倒なもの」なのです。
(結婚がうまくいっていれば、「こういうものです」という枠からはずれた夫婦でも問題はないのですが、うまくいかなくなると「本来こうあるべきである。よって・・・」ということになって面倒なのですよね。)

そして、離婚はどういう方法でできるのか、どういう場合にできるのか、離婚する夫と妻にはどんな権利や義務が生まれるのかといったことも、実は法律が決めているわけです。
結婚はとてもプライベートな決断だったので、これって意外な結果かもしれませんけど、「社会規範によって支持される性的結合関係」だから、社会規範からいろいろなルールが設定されているわけで、それを無視できないということなのです。

そこで、離婚について何らかの理由で検討されているであろう「このサイトに行きついた読者」の皆様に、「そもそも結婚していると男女の間はどういう権利と義務になっているのか」を簡単にご説明することは、
今後、離婚という問題に立ち向かわれる方にとっては、とても有効なことだと思って、ポイントの説明をしてみます。

2. どうすると結婚できるのか?

結婚式をあげると結婚したことになるわけではなく、日本の法律では戸籍上の結婚の届け出が受理されると結婚したことになります。
結婚しようといって一緒に暮らすだけでは結婚していることにならないわけです。
ただ、届出をすればよいのではなくて、結婚する意思(婚姻意思)というものが必要であると考えられているので、偽装結婚のような場合には、この意思がないので結婚は無効となります。

3. 結婚の効果

ここでは結婚するとどういう「効果」があるのかを、離婚に関係のあるものを中心にみてみましょう。

氏の共有

ひとつの姓をつかうことになります。現行民法では別性のままの結婚は認められていません。

同居義務

これには民法の条文があるんです。教科書では「性結合をも意味する共同生活の場としての同居義務」(同82ページ)などと書いてあります。
条文では、夫婦は同居し互いに協力し扶助しなければならないと民法752条にあるのです。
同居義務があるので双方が同居しないと契約することは認められないことになります(互いにそれで満足していて不満がなければもちろん別居結婚していてもいいのですが、いざ、それを契約にしてもその契約を基礎に何か主張はできないわけです。)。
そして、別居している相手に同居せよということを家事審判という制度で請求できることになります。
ただ、それを強制できるかというと、法的強制にはなじまないとされて、強制はできないとされています。そうすると、あまり意味がないようですが、慰謝料は請求ができるでしょう。

協力・扶助義務

先ほどの条文には同居だけではなく、協力して扶助しなさいということも書いてありましたね。
ですから、夫婦は互いに協力して、家事をし、病気のときには監護し、子を育てることが要求されています。
この扶助する義務というのは、別居に関する問題としての「婚姻費用」のところで別途説明していますが、生活保持義務といわれるもので、余裕があるときのみ助ければよいという程度ではなく、一杯のおかゆも分け合うような強い扶助の義務になっています。

離婚との関係では、この同居・協力・扶助義務を守らないときには「悪意の遺棄」となって離婚原因があるということになり、相手方への離婚請求が可能です。

貞操義務

同居義務(配偶者以外と性交渉をしないという義務)は条文があるのですが、なぜか貞操義務には条文がありません。
戦前には、この義務は妻にだけあるとされていましたが、今はもちろん双方にある義務です。
この義務が認められることにより、浮気は不法行為となるわけで、配偶者や不倫相手に慰謝料を請求できることになります。

契約取消権

これは、知らない人も多いかと思いますが、夫婦間の契約はいつでも取り消せるのです。
これは、私的自治の大きな例外ですが、夫婦間の問題は法で強制するべきであると言えない、という考えからきています。
ただ、これは夫婦の間がきちんと機能している間のことであって、破綻しかかっているような夫婦の場合(離婚の協議をしているような状態)にはこの取消権はないという判例もあり、正しい判例だと思います。
もはやそういう場合には法が介入していい段階でしょう。

財産の帰属

民法では、夫婦が結婚前から持っていたり、相続で取得したりして自己の名義で得た財産は一方が単独で有する財産(特有財産)とされています。
特有財産については、原則としては離婚の財産分与においては、清算の対象とならないことになります。
(もっとも、財産分与は慰謝料の部分もあるので生産的なものの対象にならないということで、もらえないということではありません。)
そうすると夫の名義の預金はみんな特有財産で財産分与の対象ではないかというと、そうではなく、名義が夫でも妻の家事における協力・貢献がある場合には、財産分与の場合には寄与度を考慮されて分与されます。

婚姻費用の分担

夫婦の収入に応じた生活に必要な日常の費用、子の養育費・学費などの結婚生活に必要な費用を婚姻費用といいますが、これは分担するべき義務があります(民法760条)。
通常の夫婦生活ではこれをどう分担するのかは、なんとなく決まるかと思いますが、決まらないときには家庭裁判所が審判で決めてくれます。
決まらないときというのは典型的には、離婚の前提としての別居のときですので、この場合には離婚調停とは別に審判で婚姻費用の分担を決めることもできます。

4. 民法の条文の第4編第2章の「婚姻」

離婚を考えている方は、これから民法の条文の第4編第2章の「婚姻」という部分が貴方の人生に関係してきますので、ざっと見てみるとよろしいかと思います。以下が、婚姻に関係する条文です。