離婚

有責配偶者は離婚が求められないのですか?

1. 有責配偶者とは

有責配偶者は離婚ができないということを聴いたことが有るでしょうか?

典型的には浮気をしたなどの夫婦のうち一方的に責任があるほうが、「離婚してくれ!」と言っても、応じてもらえない場合、裁判所でも離婚が認められないという原則のことを言います。

よって、一方的に悪いのでないのであれば「有責配偶者」にはならないということになります。

また、合意してもらえば離婚はできるということになります。通常より、多めの養育費を払うとか、財産分与をあげる・・・といった交渉によって、相手が離婚に応じてくれれば、通常の協議離婚とか調停離婚が可能になります。

2. 有責配偶者の理論とは?(1987年の最高裁判例によって確立しています)

現在の、このような考えは、1987年に最高裁判所が出した判決がリーディングケースとなっています。

この事案は、別居期間が約36年であった未成年の子どもがいない夫婦についてのもので、有責配偶者の夫からの離婚請求を認めたものです。それ以前は、古い1952年の「踏んだり蹴ったり」判決という有名な判決がありました。その判例は、夫が他の女性との間に子をもうけて妻と別居して、その女性と同棲したという事案であって、よく世間にはあるようなお話ですが、夫が離婚請求をした際にこのような請求が認められるなら「妻は全く俗にいう踏んだり蹴ったりである。」と判断して離婚を認めなかったのです。そこで「踏んだり蹴ったり判決」と言われています(笑)!

そして、1952年の最高裁判決では、「法はそんな勝手なこと、不道徳なことは許さないです!」として、有責配偶者は離婚を求められない、信義則上、それをみとめないとしたのです。これが有責配偶者の理論と言います。

その後、 離婚請求をする側に主な有責性がある場合、離婚請求ができないという判例が続いてきました。そこで、「有責配偶者は離婚請求ができない」という考えが確立されていったのです。

これを弁護士が主張するとき「有責配偶者の抗弁」を出すと言います。ですから、一般的に弁護士が「有責配偶者」という言葉を使うのは、その人からの離婚請求が訴訟では認められないという意味なのです。

もっとも、有責配偶者といっても、事案によって状況は様々であって、夫婦双方になにか問題があるような場合、相手方により多くの有貢性があるような場合(夫が暴力をふるっていて妻が離婚したいというような場合など)、離婚が認められています。

夫婦双方が同じ程度に破綻について貴任があるというような場合にも、他の女性と同居しているような夫からの離婚の請求で、妻も他の男性と同棲していたような事案であれば、離婚を認めています。

また、重要なことは、破綻した夫婦(別居してからの夫婦)の片方がその後、異性と同棲しても、その人は有責配偶者にはなりません。異性との関係により夫婦が破綻した場合が、有責配偶者として離婚請求ができない事案になります。

つまり、浮気して別居になり、その相手と住んでいるような主に悪い方からの離婚の請求はだめでも、双方が悪かったり、相手がより悪いのであれば、離婚は認められます。また、交渉により調停離婚や協議離婚は認められるのです。ですから、有責であるからと言って、その人からの離婚が決してできないわけではありません。

3. 1987年(昭和52年)最高裁判例が出た背景

1987年の判例では「有責配偶者の理論」を使うと、夫が女性を作って家を出てその女性と同居している事案では、別居期間が30年も過ぎていても、夫婦関係の回復の見込みがなくても、離婚が認められないということになってしまいます。

そうすると、形骸化した婚姻が多くなり、新たに形成された家族やそこでの子が保護されません。それはそれで、家族制度として問題ですよね。いつまでたっても新たな生活ができない、新たな家族形成ができないからです。そこで、この最高裁判例が出たのです。

4. 1987年の判例の内容

1987年最高裁判例は「婚姻が破綻している場合、戸籍上の婚姻を存続させることは不自然である」といい、しかし、「離婚は社会的・法的秩序」であるので、離婚請求は「正義・公平の観念とか社会的倫理観に反するものであってはならない」としています。

そして、離婚の請求は「信義誠実の原則に照らしても容認されうるもの」でなければならないとも言いました。その上で、以下の3 点が重要だとしました。

その① 別居期間が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと
その② 未成熟の子が存在しないこと
その③ 相手方配偶者が離婚により梢神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に囮かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められないこと

この最高裁判例の事案では三つの点はどのようであったかですが、①の点では夫婦とも70 歳を超えて同居が12年に対し別居が35年にもなっており、②は不貞相手の実子を養子に迎え、その養子も成人しており、 ③夫は妻に対し1950年には建物を渡していた、というものでした。

最高裁は、原審に事件を差し戻してこの点をきちんと審理するように命じたので、高裁では再度審理がなされました。

そして、①②は満たされているとされて、③の要件を満たすためには、財産分与または慰謝料により解決がされるべきだとなり、離婚後の生活費としての財産分与1000 万円と慰謝料1500 万円の支払を夫に命じて、離婚を認めたのです。

35年も別居していて、やっと認められたのですから、かなり要件が厳しいという印象があると思いますが、その後、時間の経過とともに別居年数の要件はかなり緩和されてきています。

5. 有責配偶者が離婚できる場合のその後の要件の緩和

有責配偶者である場合に、どのような条件が整えば離婚が認められるかは、なかなか難しい問題ですが、有責性、別居期間、特段の事情というそれぞれの点で要件は緩和されてきています。

その後の判例をみてみると、その傾向がわかります。

5-1 有責配偶者の離婚請求では、「有責性」はどのように評価されているのか?

判例では、有責行為のほとんどは不貞行為であるのですが、夫の不貞が婚姻破綻の原因ではあって 妻にも大きな問題があって破綻について一半の責任があったとして、夫からの離婚請求を認容するような事案も、でてきていますし、妻側の今後の暮らしを加味している判例もあります。

最高裁の判例で妻の病気を理由に離婚を認めなかったものもあります。不貞行為のあった夫を別居期間2年4か月、同居期間6年7か月、夫・妻は30代前半、子は7歳、妻は子宮内膜症に罹患し就職が困難という事情から、離婚請求は信義則に反するから棄却すべきものとしたものがあり、これは妻の今後の暮らしを検討しているのです。夫側からもっと経済的な援助の提案があれば結論は異なったかもしれません。

これに対し、別居期間2年1か月であっても、有責の妻(フランス人) からの離婚請求を認めた判例もあります。夫から離婚を切り出して 妻の電話やメールを使えないようにしたり、クレジットカードをキャンセルなどしたために、妻が夫に対する信頼をうしなってしまって離婚を決意し2か月ほどBと交際後、Cと交際を始めて子2人を連れて別居したという事案でした。少し詳しく説明します。

離婚諮求される妻側が経済的に不安定な状態に追い込まれ, 著しく社会正義に反する結果となる事態は回避しなければならないとしつつ、実質的にそのような結果がもたらされない場合には、離婚請求は認容されるとしたのです。

この事案では、婚姻関係破綻の貢任の一端が夫にもあり、妻による子の養育状況等には問題がなく(子と夫の面会交流もできていました。)、 離婚によって子の福祉が害されるとは認めにくく、夫はもともと離婚を求めていて相当の年収があるので、離婚によって精神的・社会的・経済的に著しく不利益な状態に至るわけでもないと考えられると判断しました。

また、妻の責任の程度や夫の婚姻継続についての意思、妻に対する感情、離婚を認めた場合の夫の精神的・社会的・経済的状態および子の監護·、教育・福祉の状況,別居後に形成されている相互の生活関係等を勘案して、妻からの離婚請求が社会正義に照らして到底許容することができないというものではないので、夫婦としての信義則に反するものではないとして離婚を認めています。

さらに、この事案では、妻の不貞に至る原因のひとつに夫の妻の人格を否定するような夫の行動があったことが指摘されています。つまり、双方に問題があったという事案では、信義則の判断において有責配偶者の離婚を認めてもよいという結論となったようです。

まれにですが、不貞以外の理由でも、有貴配偶者になることはあります。

妻が夫の母のいやがらせに悩まされていたが、障害のある長男が出生した後は、夫とその母の長男に対する冷たい仕打ちに悩まされ、自ら家を出たという事案で、その後も夫は自宅への妻の出入りを許さないなどとしていたので、婚姻は破綻したものの、その原因は妻や長男に対する夫の姿勢にあったとして、夫を有責配偶者であるとしています。

5-2 どのくらいの別居期間で、有責配偶者の離婚が認められるのか?

長期の別居が続くと破綻が著しいといえますので、認容されやすくなります。一般的には、概ね10年別居すると認容されやすいといえます。8年くらいが分水嶺と言われます。

しかし、別居期間が8年弱でも離婚が認められた事案もあります。別居期間と婚姻期間を単に数的に対比するのみではなく、時の経過か当事者双方に与える影響を考慮して、夫の生活費の支払経過とか、不貞関係の解消、妻に対する誠意があると認められるだけの財産分与の提案、などを検討して、離婚を認容したものです。

また、より短い別居5年でも認容されている事案もありますが、夫の不貞以前に妻にも相当の落ち度があったとされている事案です。

別居期間だけでは離婚が認められるかどうかは、わからないのです。そこに大きな要素となるのが、和解提案です。財産分与などの相当誠実な和解離婚の提案をしているかは大きなポイントです。また、それまで婚姻費用をきちんと払っているのか・・・ということも重要になってきますし、相手の方にも婚姻期間に問題のある行動がないかとう点も問題になります。

ですので、有責配偶者といわれている人は、別居当時から弁護士のアドバイスを受けて、きちんと生活費を支払い、和解的な離婚提案をするなどしつつも、今後離婚が認容されやすい状況を作っていくことが、重要でしょう。また、将来別居期間を置いてから離婚訴訟をする場合に提出するための財産分与に関する証拠なども、確保しておくことが重要です。

実際の別居年数だけが重要なのではなく、有責配偶者の別居してからの対応や当事者の間にあるそれまでの諸事情と今後の経済面が総合的に判断されるので、現実にどのような場合に離婚認容と言う結果が出るかについては、一概に言えないところがあります。もっとも、現実には慰謝料によって和解的離婚が出来ている事案が相当にあります。というのも、残された妻などからしたら到底戻ってこない夫と婚姻関係を維持するよりは婚姻を10年維持してから判決をもらうよりも、経済的に有利な条件であれば、それを断る理由もないことが多いからです。

5-3 成人していない子の不存在

法律の世界では、子のうち、経済的に独立して自己の生活費を獲得すべき年齢になっていない子を未成熟子といいます。大学生とか大学院生などがそうです。しかし、そういう未成熟子がいるから、絶対に離婚が認めらないというわけでもありません。

判例には、「その間に未成熟の子がいる場合でも、ただその一事をもって右請求を排斥すべきものではなく・・・請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときには、右請求を認容することができると解するのか相当」というものがあります。この事案は、高校2年の男子がいるが、3歳の時から一貫して妻が育てており、夫は生活費送金を続けてきたことから養育にも無関心ではなく、未成熟子がいても、離婚請求をすることが認められない理由にならないとされています。

さらに、12歳と9歳の子かいる事案では、離婚請求を認めないで夫と妻との間の実質を伴わない形骸化した形式だけの夫婦関係を維持したところで、夫と2人の子の現実の生活上の父子関係を回復できるわけではなく、 かえって、 夫婦間の葛藤緊張が子の福祉に悪影響を及ぼす危険があるので弊害が大きいとしたものもあります。

この事案では、離婚後も、離婚が子に与える精神的打撃については対処が可能で、実質的な父子関係を維持して行くことも可能で、夫もその意思があり、夫のこれまでの行動を見ると今後もそれが継続されるという認定がされていました。つまり、未成熟子という要因で考えるべきは、離婚がその子にどういう経済的ダメージを与えるか、精神的悪影響を与えるかであって、さらに、父子・母子関係が離婚によりどうなるかも重視されて、判断されています。

子が重い障害などを有している場合、年齢が高くても未成熟子と判断されています。複数の障がいで24 時間の付添介護か必要である成人した子は 未成熟子に準じるものとされるでしょう。

5-4 離婚を認容することが著しく社会正義に反するというべき特段の事情

これは、過酷要件などと呼ばれています。離婚を認めるとあまりに相手がかわいそうで正義に反しないかという要件です。

これまで、離婚を請求する有責配偶者が、合理的な婚姻費用を払ってきたのか、離婚給付の申出が適切になされているのか、離婚を拒否している側の生活がどうか、離婚を拒否する理由が単に報復や憎しみからにすぎないのか、相手側も関係修復のために真摯かつ具体的な努力をしているか、というような点を評価しているのが、判例の動向です。

経済面でそれなりの財産分与と慰謝料の提供ができれば、この要件は充足できる可能性が高いといえます。

特段の事情がないとされる要因(離婚が認められる要因)

以下のような事情がある場合、特段の事情がないとされ離婚が認容される傾向があると言えるのでしょう。

  • 別居してからの有責配偶者が誠実に相手に対応した場合
  • 不貞について反省していると思われる態度がある場合
  • 離婚を拒否する側が関係修復のための真部かつ具体的な努力をしていない場合
  • 離婚を拒否する側が離婚しても経済的に何ら困窮しない場合
  • 相手が、財産に対して処分禁止の仮処分をかけ離婚を前提とした行動をしている場合
  • 拒否する側において共同生活をする意思がないようにみえる場合
  • 財産分与の提供ができていたり、養育費の支払いが見込め、離婚後の生活に保障がある場合子との関係が維持できる場合

特段の事情があるとされる要因

反対に、離婚が認められないような事情は以下のようです。

  • 金銭的に余裕がある有責配偶者が、婚姻費用をきちんと払っていない場合
  • 離婚時の財産的給付の可能性は低い場合
  • 相手が、離婚により経済的に過酷になる場合
  • 子が小さく、離婚による打撃が大きい場合
  • 住居を離婚により失う場合
  • 子に障害があり、介護が必要である場合

判例は全体として、離婚を請求する者の経済的生活状況と相手方の生活状況との間の不公平をどう調整するかという点で、経済的な側面を重視しているようですが、子に障害があるような場合には、後見的配慮が必要であるので、それを一方の親が負担することが「経済的・精神的に苛酷」だとする傾向があります。もっとも、子との関係での扶養義務は、離婚しても親にはありますので、このような取り扱いが合理的なのか疑問は残ります。親として子の介護をしているような場合には、離婚を認めやすい事情ともなりえるでしょう。

子どもの視点

不貞行為をした配偶者からの離婚諧求では、感情的な反発からか離婚が合意できないことが多く、長いこと別居が続くことが多いです。そのため、婚姻費用の支払い、子との面会交流、住居の確保などがかえってできていないという事例が多いようです。つまり、子の利益をはかることが別居中の夫婦については、日本の司法手続きではあまりできていないようで、残念です。

本来であれば認容判決が出されないような場合でも、何らかの子のための配慮がなされた和解的解決を試みてみたり、和解離婚まではできなくても、面会交流ができるように裁判所が促してみるなどすることが、望ましいと思われますが、親の葛藤の中で、これまで子は忘れ去られていたようです。

6. 有責配偶者が離婚しやすくなっている(緩和化が進んでいる)理由

有責配偶者が問題となる場合離婚の可否の基準になるのは「信義則」です。離婚に際しての信義則の扱いは、時代の変化とともに変化し全体としては未成熟子の年齢や別居期間という要件において、徐々に緩和の方向に向かっていて、離婚は認められやすい方向に動いています。

実際には、事案をみてみれば有責性が配偶者の一方のみにあるという事案はまれであって、不貞の事案でも、その前に信頼関係が徐々に破壊されていって不仲があったことが普通なのです。

有責性には、浮気・不貞のほかに暴力・暴言・侮辱・思いやりのない自己中心的態度・コミュニケーションの意欲の欠如・性交拒否等があり、婚姻を破綻に導いた種々の行為や言動も含まれます。しかし、有貢配偶者といえば「不貞」という感じとなってしまっていた不貞の扱いが非常に厳しいのが判例動向です。しかし、日々の暴言や思いやりのない態度、侮辱的発言、暴力的態度、セックス拒否など、破綻に至る過程には多様な当事者の行動がある以上、不貞という行為だけに非常に厳しいサンクションを与えることに、公平でないという印象をもつことがあります。離婚が認められやすい方向に動いているのは裁判官もそのように事案を見ているからかもしれません。

また、不貞の場合、証拠は裏切られた方が持っていなければならないわけで、調査会社を使うなどして費用をかけた当事者だけが、有責配偶者の法理を使えるというアンバランスな面もあります。たまたま証拠が少ない場合には、すぐに離婚が認容されることとの公平性も問題になりえます。

どちらがより有責かと比較することは、決して簡単ではなく、他の異性との性的関係が別居後なら有責とされないので、いつそういう行為があったのかが大きな争点になります。そうなると、互いに非難しあい、不貞と破綻のいずれが先かをめぐってプライバシーを暴露しあってしまって「泥沼裁判」になりがちで不毛な印象があります。父母関係が徹底的に破壊されるので、子がいる場合、面会交流や教育費分担についての話合いが困難にもなりがちです。

夫婦は別居が長期化すると双方の生活は固定化していき、共同生活が復活する見込みはほとんどなくなっていきますが、裁判所が離婚を認めないことは、本当の当事者の紛争解決となるでしょうか?それが、当事者の救済になるのかというと、そうではなさそうです。

そういう紛争解決の視点から、有責配偶者であっても離婚を認めて、真の生活の安定化や、子に対する協力関係の構築などを現実のものとしようとする動きがありそれが和解勧告となるのですが、それがさらに判決事案においては有責配偶者の抗弁と認めず、「緩和化の動き」に拍車をかけているように思われます。

特に、子がある程度小さい場合、離婚後の親子の面会交流や教育費の支払い、または私学学費等の個別の子のニーズに親が応じてあげられるように、父母に自分たちの葛藤を乗り越えて、子のために問題を解決してもらえるような体制が整うことが望ましいと思われます。その点でも、有責配偶者であるから離婚ができないという法理論そのものにも、今後、継続的に疑問が投げかけられるだろうと思われます。