親権

1. 親権とはなにか?

親権とは、未成年の子どもを成人するまで養育するために親が負っている一切の権利・義務のことを言います。婚姻中は父母の両方に親権が認められていますが(共同親権)、離婚後は、日本では共同親権は認められていないため、父母のどちらか一方のみが親権を取得します。もっとも、離婚後も共同親権が可能となる法改正が予定されていますので、それも頭に入れておきましょう。

親権は、大きく分けて以下の2つの権利・義務で構成されています。

① 財産管理権

② 身上監護権

これらの権利は、どちらも「子どもの利益のため」に行使されないとされています。もっとも、親権争いをする親にとって「子どもの利益」とは何か、これは深遠な課題です。父母が争っていると子の教育方法とか誰と住むのが幸福なのか、と言う点で対立してしまうことが多いからです。この権利をそれぞれ、個別に見ていきます。

2. 財産管理権とは

親権者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表します。民法第824条によります。これは、子の財産について、子の代理人として、保存・利用したり、改良したり、処分をする(売ったりする行為)などの行為を行うことができるということです。もっとも、子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人である子の同意を得る必要があります。

管理対象は、原則として、子のすべての財産であり、親権者が目的を定めたり目的を定めないで処分を許している小遣いのような財産(民法第5条第3項)などは含められていません。営業の許可を受けた子が管理している営業のための財産も含まれていません(民法第6条)。そして、管理をする親は「自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行使しなければならない」と定められていますので(民法第827条)、親権者はきちんとした責任感で子が損をしないように財産管理をしなければならないのです。

3. 身上監護権とは

身分行為の代理権

子どもが身分法上の行為を行うにあたっての親の同意・代理権(同法第737条、第775条、第787条、第804条)が身上監護権の一つの要素です。子どもが婚姻、離婚、養子縁組などを行うときに、親が同意して代理する権利のことです。たとえば、子が未成年者ならば婚姻するときに父母の同意が必要なのですが、これも身分行為の代理権なのです(民法737条

居所指定権

親が子どもの居所を指定する権利(同法第821条)のことです。これはとても重要な権利です。なぜならこれを持っていると、子がどこで誰と住むかを決めることが出来るからです。反対にこれをもっていない親権者は、子と同居していても、勝手に子を連れて引っ越しをすることができません。この権利を持つ親の承諾が必要となります。

*懲戒権(民法改正で削除されています。)

子どもに対して親が懲戒・しつけをする権利(旧民法第822条)でしたが2022年12月に成立した改正で822条が削除されています。12月16日の公布日に施行されています。 削除された旧第822条は「「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。」というもので、この権利が「しつけ」という名目で児童虐待を正当化する口実に利用されているとの指摘があったからです。その際に、逆に子どもの人格を尊重する旨の条文が定められて、以下のような第821条として新設されました。

第821条 親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。」

ここで「子の人格を尊重」「年齢及び発達の程度」という語句が加えられましたし、体罰を禁止することが明記されたのです。

職業許可権

子どもが職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利(民法第823条)のことです。

親権は権利の束のようになっていますが、そもそも、「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」が民法820条ですので、権利だけではなく義務であることが重要です。

社会的に成長過程の未熟な子どもを保護して、子どもの精神的かつ肉体的な健全な成長を助けるための権利が親権ですので親の義務の束なのです。

4. 親権はいつまで?

成年に達しない子どもは親の親権に服することになっているので原則として、18歳になるまで子の親権は父母が共同して行使します(同法第818条3項本文)。(民法改正で2022年4月1日より、成人(成年)年齢は20歳から18歳に引き下げられています。)

ただし、それは離婚するまでであり、父母が離婚する場合、現行法では、父母が共同して親権を行使することはできません。そのため、父母のいずれかを親権を行使する親権者として定める必要があります。そのため、父母が協議離婚をする場合は、その協議で親権を行使する親権者を定めますし(同法第819条1項)、裁判上の離婚をする場合は、裁判所が父母の片方を親権者と定めるとなっています(同法第819条第2項)。予定されている法改正では離婚しても合意で共同親権を選ぶことが可能となります。また、裁判所は子の利益に鑑みて親の片方に親権を与えたり、父母に共同親権を与えたりができるようになります。

5. 親権と監護権の違い

すでにご説明したように、親権のなかには「身上監護権(居所指定権、職業許可権等」が含まれておりいこの「身上監護権」のみを取り出して、親が子どもを監護し教育する権利義務を「監護権」と呼ぶことがあります。簡単に言うと「監護権」とは、親権のうち「子どもと同居して子どもの世話や教育をする親の権利義務の束」ということになりますが、通常の親としての喜びや責任を感じる部分の多くが監護権であるともいえます。

監護権は親権の一部であり、原則として親権者がこれを行使しますから、離婚する前で監護権は父母が有しています。

離婚してからについては、親権者と監護権者は一致したほうが、子どもの福祉に資すると考えられてきましたが、しかし、親権者が子どもを監護できない事情がある場合や、親権者でない片方が監護権者として適当である場合とか、離婚しても監護を分担したい場合には、監護権を親権と別に設定するような合意がされております。

たとえば、離婚時に親権者は「父親」とするが、父親は出張も多く子どもと同居して育てることがあまりできないというような場合には、母が同居する前提で監護権を母が持つという合意をすることもできるのです。その場合、財産管理については父親が責任を負います。

また、親権者をどちらにするかで争ってしまって消耗してしまう場合に父親か母親=親権者、母と父=監護権者(共同監護)という合意をすることもできます。これは、法改正前でもできることです。法改正がありましたら、共同親権の合意をして監護分担を決めていくなどすればよいと思われます。

このように、親権と監護権は、原則として同一の親に帰属するのですが、例外的に別々に定めることも可能です。また、今般予定されている法改正の後では、いろいろな合意が可能となってきますので、離婚してからトラブルにならないように冷静にかつ詳細な合意形成をすることが望ましいでしょう。それには、親権・共同親権に詳しい弁護士のサポートが必要でしょう。

6. 離婚の協議中など、離婚までは、だれが親権者になるのですか?

父母が婚姻中であれば、父母がともに親権者であり共同して親権を行使します。子どもが養子である場合には、養親が親権者となります。

なお、結婚していない男女の間の子どもで、父親が子どもを認知した場合は、母親が親権者となります。しかし、父母間の協議とか家庭裁判所の審判によって、母ではなく父を親権者とすることも可能です。また、親権者がいない場合、その子については家庭裁判所が未成年後見人を選任してこの人が親権者となります。未成年後見人が定まるまでは、児童福祉施設の長が親権を行うものとされています。

7. 離婚すると、親権者は誰になりますか?

現行法では、父母のどちらか一人が親権者にならないといけませんが、予定される法改正では共同親権が可能です。

よって、現行法では、父母が離婚するときには、父母のどちらかの一方を親権者として合意するか、家庭裁判所の決定で決めることになります。父母の協議で親権者が決まる場合には、内容はいろいろに決められます。引っ越しをするときには父の合意が必要であるとか、習い事の費用は折半で払うなど、多様な合意が可能です。しかし、合意ができない場合には、家庭裁判所が決定をすることになります。

また、話し合いは家庭裁判所の調停でもできますので、そこで調停委員を交えて裁判官意見も聞くことで、単なる協議ではできなかった合意ができることもあります。特に、我が国では訴訟になる前に家裁での調停を経験することが求められていますので、裁判官が介入することで調停での妥当な合意形成が可能であることは大いにあります。

この場合、調停で今後の訴訟での見込みも理解しながら、合意形成をするには専門性のある子の利益も考えられる弁護士が必要でしょう。なぜなら、子どものことはこれから長く使うルールです。経験値がある弁護士が現実的なアドバイスをすることで健全な子の育成も可能になってきます。勝ち負けで親権を決めるのではなく、子の成長を考えて親として責任のある態度で、合意ができるのが望ましいといえるのです。

それでも合意ができない場合、家庭裁判所が離婚訴訟で父母のどちらを親権者にするかを決定します。通常は、家庭裁判所の調査官の調査がされることになります。また、離婚するかしないかということで対立しているときには離婚訴訟になりますが、その場合に親権でも揉めているならば離婚訴訟の判決で親権者を父母のどちらにするのかが決定されますが、揉めていないのであれば合意に従って親権者が指定されます。その場合、調査はされません。

8. 親権者はどうやって決定されるのか?

家庭裁判所が親権者を父母のどちらにするか決める場合、子どもの利益や福祉の観点からより適性があるのはどちらなのかを判断していきます。その親に収入がない場合でも養育費を支払うことが予定されていれば各種の手当などで計画的に子を育てるプランができれば親権者になることが出来、生活保護を受けていても親権適格には悪影響はありません。

我が国では、父母の経済力の違いで親権が決まることはあまりないのです。もっとも、住む家などについては子の意見を聞くときに子が選ぶこともありますので、そういった意味で経済力は影響します。

働いているので、子どもと一緒にいられないという場合でも保育園を利用することで問題は解決できますし、ベビーシッターを使ったり祖父母が近くにいたり同居していたりすれば養育補助サポートがありえるでしょうから、問題になりません。

家庭裁判所の判断で重要なのは、子のこれまでの養育状況と愛着形成の歴史、父母の養育に対する姿勢や意欲、他の親との交流が実施できる人格か、経済的な生活の見通しがあるか、親として監護ができる程度に健康であるか、勤務時間や仕事の内容・状況、子と住むことになる住居環境、通学の時間等、監護の歴史・監護能力や今後の監護計画が重要な判断材料とされます。

9. 親権決定と子どもの意見

子が小学生以上、特に高学年以上の場合、子ども自身の意見は大変に重視されます。子は自分で父母のどちらと生活をしたいのかとか、どこに住みたい(部活動があるから引っ越したくない)等の意見を言うことがあります。これは、家庭裁判所の調査官の面接での聞き取りによります。子からすると「父母のどちらが選べ」というようなことは極めて困難な選択でありストレスになるので、調査官はそういったダイレクトな質問はしませんが、住む場所などの選考を聴いています。

また、子がその時点で同居している親の意向を感じ取り、それに迎合的となることも多いので、子どもの意見については理由もよく聞いて、最終的に調査官としての意見が報告書に明記されているようです。

10. 親権者でなくても親子といえますか?

親権者にならなかった一方の親も、子との親子関係は変わらずあります。親権者でなくても、あくまでも親子であって子は相続人です。親としての扶養義務もありますし、子と交流する権利もあります。また、後述の親権者の変更が可能ですので、子が成長して母とではなく父と暮らしたいというような意見となったときには、親権変更が可能となっています。

11. 親権者を決める手続(協議離婚・調停離婚の場合)

協議離婚の場合には、話合いにより夫婦の一人を親権者と決めます(法改正後は共同親権のままという決定も可能です)。未成年の子がいる場合、親権者を決めないと離婚ができませんのでこの合意は必須です。離婚届には親権者を記載する欄がありますのでそこに記載をして離婚届を出すことになります。離婚調停で合意をして離婚する場合には調書を作成してからその謄本を使って離婚届を出します。

離婚の際には財産分与・慰謝料などについては、離婚してから取り決めることもできますが親権者と面会交流の合意は離婚する際に取り決める必要があります。もっとも、面会交流については離婚届の上では必須ではないので、離婚届を出す際に決めていなくても協議離婚は可能となっています。離婚調停の場合には、何らかの面会交流についての条件を、成立調停時の条項に入れているのが通常です。

12. 親権者が決まらない場合の手続にはどうなるのか(裁判の場合)?

親権は誰が有するか、これは重要な条件であり、親権争いの話合いができない場合、そもそも離婚をすることができないので、離婚訴訟で離婚するしかありません。つまり、裁判手続きが必要となります。

もっとも、離婚訴訟の前には家庭裁判所の離婚調停での話し合いをするのが通常であり、そこでも親権者を決められないで離婚調停が不調に終わって、やっと離婚訴訟を提起して離婚の成否や離婚の条件について争うという流れとなっています。

訴訟では、親権を自分にしてほしいという判決をくださいと言う内容で提訴をすれば、裁判所が判決で親権者を定めてくれます。

このように、まずは話合いをし(家裁での調停でも話し合ってみて)、それでも決まらないなら離婚訴訟で裁判所に決めてもらうという流れになりますが、子はその手続きの間、親の紛争をなんとなく知っており落ち着かないものです。よって、子どものストレスにならないようになるべく話し合いで解決ができるのが望ましいでしょう。離婚時に子の養育については合意しておいて、財産についてのみ、財産分与の調停と審判で決める方法もあります。このような方法であれば、子が親の間でいろいろ心配をすることが軽減できるでしょう。法改正で予定されている「共同親権」を将来的に選ぶというような合意をすることもかんがえられますが、この場合、離婚してからも現実的に多様な連絡や協議が父母の間で必要になります。よって、適宜、連絡ができるような体制を整える必要があり、冷静かつ詳細に子に関する養育のルールを決める必要もあります。

13. 親権者になるためには

では、合意で親権者が決められない場合、家庭裁判所に「判決」で親権者と認めてもらうためには、どのようにすればよいか、です。

親権とは、親の責務ですので子どもを養育して、子どもの健全な成長を実現するべき親を決めるというのが親権判断になります。

そのため、親権者は、「子どもを十分に養育していける能力をもつ」、「子どもの今後の成長のためにいずれの親が同居したら子の利益になるのか」という観点で決められます。

具体的には、以下のような事情を考慮して、総合的に判断されます。

1)子どものこれまでの養育の経緯や愛着関係

2)経済力・勤務状況

3)養育の補助者がいるのか

4)親の健康状態や監護能力

5)居住の環境、住宅事情や子の今後の通学等の生活環境

6)子どもの年齢や性別、発育状況

7)今後の環境変化が子に与える悪影響

8)兄弟姉妹を分離させないこと

9)子の意思

なお、子どもが乳幼児である場合は、それまでの監護の中心的な妊娠という経験をした母であることが多いので、母が親権者として指定されることが多いですが、これも調査をする際に子が母と住んでいることが多い結果であろうと思われます。母親だから常に有利というよりは、生まれてから継続して監護をしていたことから、よほど環境が問題であるような場合以外は子が今一緒に住んでいる母が親権者になっているわけです。

また、15歳以上の子どもの親権を離婚訴訟で定める場合、裁判所が家庭裁判所調査官の面談をする等で子考えや意思を聴取しなければなりません。よって、そのような年齢の高い子については、その子がどこで誰と住みたいのかという子ども自身の意見がとても重視されます。

10歳以上であればこのような面談をされることが通常であるので、15歳でないと意見が重視されないというわけでは、ありません。意見が明らかで理由も明らかであれば重視されます。

14. 不貞行為があった親は親権者になれますか?

不貞をしていた親が親権者になれないということはなく、それが「親権者としてふさわしくない」とされることはほとんどありません。

不貞をしてその相手と暮らしていて、子を引き取っても適切な養育が出来そうもないとか、子を連れてきているが不貞相手との交際が続いており、生活も安定しておらず子の養育環境がよくない・・・というようなことがあれば、親権適格がないと判断されるでしょう。不貞行為により子がその親を嫌ってしまうこともあるので、子の意見聴取によってそれが明らかになれば、子の意見として重視されることになります。

15. 親権争いでは、子どもが住む場所を変えることはよくないですか?

子どもの養育環境の変化というものは家庭裁判所ではなるべく変化がない方がよいと考える傾向があります。既存の監護状態が良好ならそれが継続できることが良いという判断になる傾向があります。

夫婦が別居を開始する段階で離婚の話合いがまとまらず子どもを主として監護してきた親が、「無断で子どもを連れ去る」という行為をした場合については、実務的にはそれを不当な行為と判断することは、ほとんどないようです。しかし、一度別居状況が始まってから、子を取り戻すような行動は、不適切な行動と解されることが多いようです。しかし、別居状態がはじまっているといえるかどうかそのものが微妙なことも多いようで、ケースバイケースであるようです。

親権適格の点では、別居してからスムーズに面会交流をして子にストレスを与えていない親の評価は高くなる傾向があります。

16. 監護権者を決める場合はどういう場合ですか?手続はどうなっていますか?

監護権者になるための監護権者指定の手続は、親権者指定・変更の手続とかなり似ていますが、親権者指定は離婚訴訟の中でなされることが多いため、財産分与などの他の論点があり親権者の調査とそういった財産分与のための審理が並行して進みます。よって、離婚訴訟の方が手続きは長くなります。

監護権を決める場合は、夫婦で監護権者を決める話合いをして、それで決まらなければ、家庭裁判所への調停ないし審判の申立てによって、裁判所を介して監護権者を決めるというのが本来のルールです。しかし、実務において「監護権者を誰にするか」という争いは離婚の前に起きています。多くは、他の親が実家や別のところに子を連れて行ってしまって、監護を単独で開始してしまった場合です。監護権者を決める必要が出るのは、多くは離婚の前に別居をこれからするときに同居する親が決まらない、そこでもめているような場合とか、上記の通りすでに連れ去りをされてしまって、監護権を取り戻したい親がいる場合になります。離婚における親権者指定の手続と監護権者をきめる手続きの違いは監護権者を決めることは、離婚に必要ではないということです。また、親権者を決めて離婚してその後で監護権者を決めることもできます。

家庭裁判所の監護権者の判断基準は、親権者の判断基準に近く「子どもを十分に養育していけるか」、「子どもの成長のためにはどちらと住むのがよいか」といった、子どもの利益から決めていきます。もっとも、監護権者を決めるのは離婚までの暫定的なものであるということから、現状を追認する傾向があります。

<子の奪い合いについては、こちらもご覧ください>

17. どのような基準で、親権者の変更は判断されるのですか?

親権者等の変更は、一度決めた親権者等を変更したい場合にされます。親権者変更の調停・審判を家庭裁判所に申し立て始めます。調停で合意が出来たらそこで変更が可能ですが、合意できないなら親権者変更を家庭裁判所が許可すると変更ができます。

変更は、子どもの利益のために必要があると認められるときに限ってされます。監護権者の変更も可能です。

ただし、一度決まっている親権者を変更するので、事情の変更が必要になります。

親権者は、子どもの利益の観点から、父母のどちらが親権者として適格かが判断されているのですが、それから時間がたって、子どもが育って現在の親権者の監護が必ずしも子の利益に合致しないという事情変更が認められると、親権者を変更するという決定がなされることが多いでしょう。

親権者である親が、子に暴力をふるった、いじめられている子のサポートができない、学校に通わせていないといった監護に問題があるケースならば子の意見を聞いてから親権者の変更が認められるケースも多いと思われます。

親が仕事などで養育に関与せず他の者に任せているような場合もニグレクトとして監護に問題があるケースとなります。共同して監護することを合意していたのに、子どもを一方的に連れ去ってしまったようなケースなど、子の利益の観点から、養育合意を反故にするような親の親権を家庭裁判所が否定するために変更をする場合もありえるでしょう。

また、子が成長して、再婚した母とではなく、父と暮らしたいというような子の意向が明確である場合も変更は認められます。東京の学校に行きたいから、東京にいる親と同居すると言うような理由であっても、監護能力がその親にあれば、変更は認められるでしょう。

18. 祖父母は親権者になれますか?

親権者を指定する場合、祖父母が親権者になることは可能なのでしょうか。

すでに子が祖父母に育てられていることはあり得、祖父母も親権者になれます。

方法① 養子縁組

養親も親権者となることができるので祖父母が孫と養子縁組ができれば親権者となることができます。孫と養子縁組をするためには、市区町村役場に「養子縁組届書」等を出すことになります。祖父母または孫の本籍地か所在地の市区町村役場で提出をします。しかし、この縁組には、実親との法律上の親子関係が残る「普通養子縁組」と、実親との法律上の親子関係がなくなってしまう「特別養子縁組」があり、この場合は普通養子縁組となります。養子縁組する孫が未成年である場合には、祖父母がそろって養親になる必要があり、結婚している者が未成年者を養子にするときは、配偶者とともにしなければなりません。そして、孫が15歳未満の場合、親権者の承諾なのでこれがハードルになります。現在親権を持っている父親または母親が反対するとできないのです。

方法② 孫の監護権を取得する方法

親の承諾が得られず孫の養親になれない場合どうしたら良いでしょうか?監護権を持つという選択が可能となります。

監護権は、親権の一部で、未成年の子と同居して養育する権利・義務ですが祖父母が監護権を取得できるかについては裁判で争いがありました。

家庭裁判所では、祖父母を監護権者の当事者として調停をした経緯があるのですが、令和3年に最高裁(令和3年3月29日第1小法廷決定)が、監護者指定ができるのは「父母のみ」と判断されてしまいました。この判断の理由は、①民法766条1項前段は、離婚の際に子の監護について必要な事項を父母が協議して定めると規定していて、2項では協議が調わない場合に、家庭裁判所が定めると規定しており、法は父母の申立により子の監護に関する事項を定めることを予定していること、②民法などの法律で、父母以外の第三者が家庭裁判所に子の監護に関する事項を定めるよう申立ができることを定めた規定がないこと、③子の利益は、子の監護に関する事項を定める際に最も優先して考慮しなければならないが、第三者が申立をできる根拠にはそれはならないからです。実際に養育をしている祖父母が監護者指定を求めて申立ができないとなると、子のためには困った状況になります。

方法③ 孫の監護権を取得する方法

未成年後見人になるという方法があります。

これは子どもが成人するまでの間に、親権者に代わって、その子の「身上監護」や「財産管理」を行う人のことですので、親に近い者です。家庭裁判所からの監督を受けて定期的に子の生活状況等を報告する人です。未成年後見人になるには、裁判所に申し立てをして選ばれれば良いだけです。

「身上監護権」と「財産管理権」についてはすでに説明した通りです。身上監護権は、子と一緒に暮らして日々の養育をし、教育を受けさせ、住む場所を決めたりする権利で、財産管理権は子の財産を管理したり、子の法律行為について代理権を有する権利です。

未成年後見人が選ばれる条件としては、子に親権を行う者がいないことが必要なので、祖父母が未成年後見人の申立ての手続きを進めるには、まずは現在の親権者である父または母の親権を制限する手続きの申し立てが必要です。

親権を制限する手続きとしては、以下の二つがありえます。

<親権喪失の審判>

親権を失わせる手続きであり、親権を行うことが“著しく”困難または不適当なせいで、子の利益を著しく害する場合にできます。

<親権停止の審判>

一時的に親権を停止する手続きで期間は最長2年です。親権を行うことが困難または不適当なせいで、子供の利益を害する場合に可能です。

また、親権者が家庭裁判所の許可を得て、自ら親権を手放す「辞任」をしてくれていれば祖父母が未成年後見人になることも可能となります。