相続手続

遺産分割協議書の作成方法と注意点

遺言があっても、事情で遺言書どおりの遺産分割・相続ができなくなってしまった時とか、遺言がない場合、必要になるのが遺産分割協議書です。法定相続人で話し合い合意に達したうえで作成される書類です。法的効力がしっかり伴う納得した形での作成が求められます。間違いは犯せないので、弁護士の助けを借りて作るのがベストでしょう。

1. はじめに:遺産分割協議とは?

故人の遺産を巡って親族が争うような状況にならないように、しっかりと話し合いを行い、しかも合意した内容を文書の形で残しておくことが欠かせません。そうしないと不動産の登記もできませんし、後日になって「言った/言わない」の水掛け論のような争いになってしまったり、「この書類は無効だ」という不毛な争いに発展してしまったりといった泥沼化になりかねないからです。

遺産分割の場合、「どう遺産を分割して」「誰が、どの部分を相続するか」が大きな焦点となります。例えばシンプルに現金を分割相続する場合なら争いは起こりにくいですね。現金の預金、あるいは有価証券の遺産を4人で分割相続する場合にはそれぞれ同じ金額ずつ相続すればすみます。どの株をもらうかで争う必要はないです。上場株なら欲しい株を自分で買えばよいのですから、お金にしてしまって分けるのが簡便です。

しかし、ほとんどの遺産相続のケースでは相続財産が不動産とか自動車のように、さまざまな形で遺されるため、分割方法に問題が出てくることが多いのです。例えば、財産に持ち家が含まれている場合、それを長男が相続する場合に他のきょうだい・親族が納得するか、代わりにどの財産を分割・相続できるのかといった問題が出てきます。

そこで、話し合いの場が持たれ、弁護士などを交えたうえで分割の方法を決めていくことになります。そして最終的に法定相続人全員が合意した段階で文書を作成します。それが遺産分割協議書です。

これは法的効力を持ちますから、後日一部の親族が不満を申し立てたとしてもこの協議書を根拠にして対抗することが可能でのちの紛争が防げます。

2. 遺産分割協議書はぜったいに必要?どうやって作成する?

こうして書くと非常に重要な書類のように思えますが、一方で疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。「遺言書はどうなっているの?」と。遺言書がある場合、そこに記された故人の遺志に基づいて遺産分割・相続が行われるわけですから、わざわざ遺産分割協議書など必要ないのではないか?との疑問も出てくるわけです。

遺言があれば、実際に必ず必要というわけではありません。遺産相続においては、さまざまな事情で遺言書通りに相続ができなくなるケースも出てきます。代表的な例では、遺言書で言及されているほかに相続財産が見つかった場合、あるいは法定相続人が何らかの事情で相続する資格を失った、あるいは放棄した場合、遺言書そのものが無効になった場合などです。

さらに、遺言書が遺されていない場合、通常なら法定相続分のルールに基づいて分割・相続が行われますが、それがなかなかまとまらないときには協議が必要であり、法定相続割合と少し違う割合でわける場合もあるでしょう。そういった合意をまとめたものが遺産分割協議書なのです。要するに遺言書ではスムーズに分割・相続できない状況になり、法定相続人同士でトラブルが起こる可能性があるときに、それを未然に防ぐためにこの協議書が作成されるわけです。

話し合いをして合意に達したらこの協議書を作成するわけではが、法的な効力をもたせたうえで作成する場合にはいくつかのステップを踏む必要があります。

まず第一に、法定相続人を確定すること。もし法定相続人になれる人が何人か漏れた状態で話し合いを行い、合意に達して協議書を作った場合、その漏れた人が自分の意志が無視された形で作成されたと不満を申し立てられてしまう恐れが出てきます。この法定相続人の確定に関しては単に故人の親族など遺産相続の資格がある人を全員確定するだけでなく、法定相続人が本当にその資格があるかどうかを戸籍謄本で確認・証明する必要があります。

さらに相続・分割の対象となる故人(被相続人)の財産を正確に把握する作業も必須です。先述したように、そもそも遺言書に言及されていない財産が後で発覚した場合とか遺言がない場合に、相続で今後、トラブルが生じる恐れがでないように遺産を分けるために書類です。ですから、正確に被相続人の財産を確定したうえで作成しないと、後日新たに別の財産が発覚してまた話し合いが必要になる、といった事態に陥りかねないからです。

注意したいのはこの財産の確定では、被相続人が所有していた預金や有価証券、不動産といった「プラスの財産」だけでなく、借金や完済していないローンなど「マイナスの財産」も含まれることです。プラスの財産だけ確認して分割を行うと、後日誰がマイナス分の財産を相続、つまり支払いをするのかといった問題も出てきますし、さらには、プラスよりもマイナスの方が多い場合には相続放棄や限定認証を検討する余地も出てくるので、注意が必要です。

このように誰が相続人になるのか、そしてどんな財産を相続するのかをはっきりさせたうえではじめて話し合いの場が持たれることになります。ここでポイントとなるのは「いつ行うのか」「どのような形で行うのか」です。葬儀の場で親族が顔をあわせた時に話し合いをする、というのはちょっと不謹慎な面もあるため、一般的には四十九日の方法を済ませた後に行われます。

どのような形で話し合いの場をセッティングすればいいのか、という問題も出てきます。全員が近くに住んでいるならよいですが、遠い場所にいる場合には一堂に会するのも大変ですし、簡単に会える人たちだけで一方的に話し合いが進んでしまうといった問題も出てきます。話し合いに関しては全員が集まって行う必要はなく、会える範囲で会って話をし、あるいはメールやオンラインでの会議、電話などを通して話し合いをしたうえで最終的な合意を目指していくことになります。最終的に合意を証明する署名捺印が必要になりますが、これも全員が集まって行う必要はなく、例えば郵送でやりとりしながら全員の署名を集めるといったやり方も可能です。

3. 遺産分割協議書の内容はどうなっている?注意点も確認

こうした手順で作成していくわけですが、いくら正しい手順で作成したとしても書類の内容に不備がある場合や曖昧な点がある場合、法的効力が発揮できません。今後のトラブルを防ぐためのものですから、曖昧な点を排除したうえで「どの財産を」「どのような形で分割し」「誰が」「どのように」相続するかを明確に記載する必要があります。

例えば土地や建物を相続する場合には土地の所在地や面積、種類(宅地や鉄筋コンクリート造など)を記載したうえで、誰が何を相続するかを記載することになります。あるいは、先述したマイナスの財産、負債やローンを相続する点についても誰がどんな負債を承継するのかを、明記する必要があります。しかし、借り入れそのものは相手がいることなので、貸し手が借り手を変えることに合意してくれないとこのような取り決めは、無意味となります。ローンが残っているような場合には、ローンを払いきってから遺産を分けるのが理想です。

さらに先程、相続財産を確定させることが不可欠と書きましたが、万全を期したと思っていても後日思わぬ形で発覚することもあります。そうしたケースも考慮にいれたうえで、後日発覚・判明した財産についての取り決めも記載するのが、原則です。もし発覚した場合にはどうするのか?をあらかじめ記載しておくわけですが、基本的には後日発覚した分は改めてその財産について協議を行う、という形をとります。

これを決めておかないと、今回、遺産分割協議書を作成する際に行われた話し合いそのものが無効になってしまう恐れがあります。協議書に「その財産について後日改めて協議を行う」と記載しておけば後日、発覚した財産についてだけを話し合うことになりますが、明確にしておかないと遺産分割全体をやり直さなければならない可能性も出てくるから注意しましょう。

これまでもいくつか作成の際に注意すべき点を挙げてきましたが、「相続人全員の合意と署名捺印が必要になる」のですが、実印を用いて印鑑証明も集めておきましょう。法定相続人を正しく確定して全員が集まっていたの、後日、協議に参加しなかった、署名押印は別の人がしたと、法定相続人から不満を申し立てられるのを防ぐことができます。きちんと全員が署名捺印をすることで、後日話し合いに参加した法定相続人が、やり直しなどを言い立てるのを防ぐことができます。

それからもうひとつ重要なのが、遺産分割協議書は、法定相続人全員分を作成し、各自が保管する形をとるのがよいということです。これにはいくつかの理由があります。協議書を一通しか作成せずに代表者が保管する形をとると紛失する恐れが出てくるほか、後日になって「改ざんした」など不平を申し立てる理由を作ってしまう恐れが出てしまいます。全員が同じ内容の協議書を保管していれば改ざんの余地はなくなります。

もうひとつの大きな理由は相続財産には、名義変更が必要になるため、それぞれの法定相続人が登記などをする際に遺産分割協議書が必要になるケースが出てくるからです。一通しか作成しておかないと「今度名義変更の際に必要になるから貸して」など親族同士で調整が必要になるなど面倒なことになってしまいます。