相続できる財産が実際に住んでいる自宅不動産しかない場合、分割相続の際にしばしばトラブルが発生します。
不動産を売却してしまって自宅を失わなければならないという問題があるので、相続人全員が納得できるような方法を見つけ出すことは難しい問題ですが、重要です。
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1. 相続財産の自宅(不動産)に誰かが住んでいる場合に起こりがちなトラブル
多くの人達にとって、マイホームは相続のときはもらいたい財産ですよね。だから、誰が相続するのか、どんな形で相続するのかが問題になってしまいます。特に東京などでは不動産が高いので、深刻です。
日本において持ち家は、誰にとっても魅力的な財産で、家を担保にすれば金融機関から多額の融資を受けることも可能ですし、相続財産としても住んでいる人には大きな価値を持っています。しかし一方、そこに住んでいないひとには何にも利益を見出さないのですぐに売ってお金にしてほしいということになりますよね。誰かが、住み続けるためにはどうしたらよいのか、相続の際にはこの点が大きなネックになります。
そういうとき、どんなトラブルが考えられるのかというと、売却しないかぎりお金にならないわけですから、合意が出来なくて、分割相続ができないのです。大きな相続財産といえるものが実際に住んでいるその家のみの場合、その財産を相続することができるのは一人だけ、ということになってしまうから、なかなか仲良く解決できないのです。
昔は長男が住宅ごと「家を継ぐ」のが当然とされてきました。それは、単に持ち家を親から引き継ぐことができるだけでなく、家長としての責任・義務をも受け継ぐことを意味していましたが、現在ではそのような法は残っていませんが、概念は持っている人がいます。
現行の民法では「財産を相続する」だけであって、長男が継ぐという考えはないのです。相続人は男女の差別もありません。となると、長男だけ遺産を相続できてほかの兄弟姉妹が何も相続できないというような解決では、不公平になってしまって、みんなで合意をして仲良く遺産分割をするということができないのです。
さらに、各家庭ごとの複雑な事情が、かかわってきます。
例えば、男2人、女1人の兄弟姉妹で、女性が親と同居して日常生活の世話をしていたとしましょう。その、後両親どちらも死去した場合、誰が自宅を相続するのか?長年親の面倒を見てきた娘は家が欲しいのに、息子2人が、相続権を主張すると、解決できないトラブルになるケースが考えられますね。
こうした問題は、不動産以外に相続財産がない場合によく起こります。
3人の子に、平等に財産を分けるには、家を3分割することはできないため、後述するように家を売却して財産を分割しなければならないのですが、その場合、先程のケースで言えば長年家に住んで親の世話をしてきた娘は住む家を失ってしまって何もしてこなかった息子2人が現金で財産を相続できるという、不条理のように見える状況に陥ってしまいかねません。
残念ながら、親族同士でもこうした不条理が起きると解決するために双方が譲歩するということはできないことが多いのです。とくに子どもたちが結婚している場合、それぞれの家庭の経済状況、あるいは結婚相手の家の状況なども加わって、複雑で難しい問題になることが、多々見られます。
2. どのような解決方法があるのか?
一歩間違えば血縁関係にある親族同士がドロドロの遺産トラブルに巻き込まれてしまう恐れもあるこの問題。では、それを避けるためにはどのような方法があるのか考えてみましょう。
まず、一番確実なのは被相続人が事前に遺言書を作成して誰に相続させるのかを明確にしておくことです。その場合、後日一部の法定相続人が不平を申し立てることができないよう、しっかり法的効力を持つ形で作成することが大事です。
問題なのは、遺言書を作成しないまま被相続人が亡くなってしまった場合。このケースではおもに4種類の解決方法があります。
1)解決① 現物分割
まず現物分割が、もっとも理想的な方法として広く活用されている方法です。簡単に言えば、不動産は一人が相続し、他の法定相続人は他の財産、現金や有価証券などをもらうという方法です。この方法で解決できるなら理想的ですが、これまで何度か触れたように住んでいる不動産しか相続する財産がない場合には使えません。また、他の財産がある場合でも不動産の価値だけ突出して高い場合でも難しいでしょう。
そうなると不動産を処分するか、それとも残すかの選択が重要になってきます。先程例として挙げたケースでは処分してしまうと住む場所を失ってしまう、あるいは両親と長年住み続けてきた思い出が詰まった家を手放さなければならないといった不都合が生じてしまう恐れができます。では、不動産以外にこれといった遺産がないうえで不動産を処分せずに分割・相続できる方法はあるのか?2つの方法が広く用いられています。
2)解決② 代償分割
まず代償分割です。例えば3人兄弟で数千万円分の価値がある不動産があった場合、一人がすべてを相続したうえで残りの2人に対して相続人が自分で本来2人が相続できる分を支払う方法です。ほかにも多少の財産があった場合、それも考慮したうえで、不動産をもらう相続人が代償とぃってお金を他の人に払う形になります。
例えば、数千万円の不動産のほかに数百万円ほどの預金があった場合、不動産を相続する人は預金は相続せずに残りの2人が預金分を分割相続し、プラス不動産の相続人がそれぞれに不足している金額を払うということになります。
これも円満に解決するよい方法と言えますが、あくまで不動産の相続人がそういったお金を払える経済力や財産を持っていることが大前提です。先程の両親と長年暮らしてきた娘のケースでは、通常はお金を持っていないので、困難でしょう。ただ、このケースでは一括払いだけでなく分割払いで代償できることも多いため、法定相続人同士の話し合いと合意が重要になってきます。
必要なら不動産を担保にして融資を受けたうえで代償分割することも可能です。不動産を相続する人が既婚者の場合、結婚相手の親族からお金を融通してもらって代償するといったケースも見られます。これは解決になりえます。また、不動産の一部を貸すことができて家賃を得られるなら、それを原資に分割で払うこともありえますね。
3)解決③ 共有にして解決する方法
もうひとつの方法は、共有分割です。つまり土地や建物そのものを分割するのではなく不動産の所有権を共同所有の形で分割する方法です。法定相続人が、今すぐにでも遺産(現金)がほしいと思っていない場合、有効な方法です。自分の子に残るならよいと考える場合ですね。これは、法定相続人同士(つまり親族同士)の関係が良好な場合、よく活用できる方法になります。
注意点は、相続しても遺産分割では住んでいない相続人は「何も得られない」面があること、そして共有することでさまざまな面倒な問題が、伴うことです。今後の売却や建て替え一つにもみんなの話し合いが必要になり、売却の場合には全員の合意、建て替えなどには過半数の合意が求められます。
さらに、賃貸物件にして収益を目指す場合、誰が管理するのか、管理費をどのように負担し合うのか、収益をどのように分割するのかなど、別のトラブルの種が生じてしまう恐れがあります。
そして、もうひとつ、兄弟で分割所有する分ならよいですが、代を重ねて親族関係が疎遠になっていくにつれてトラブルが起こりやすくなるというデメリットも出てきます。単に共有にするのは、あまりよい選択肢とは言えない方法です。
もっとも、弁護士が関与すれば、和解的解決も可能になってきます。
たとえば、15年間は両親の世話をしていた娘が住めることにして、15年経過したら売却をして相続人で分けるという合意をしておくなどがありえます。それぞれ、高齢になってお金がほしいときにはお金になるので、合意できることもあるでしょう。
4)解決④ 不動産の売却
それから、最後の切り札とも言える方法が、不動産を処分したうえで売却して得た金額を分割相続する「換価分割」です。不動産を売却してそのお金を平等に分割するわけですから不平が起こりにくいこと、お金で分割することで「あとくされ」がなくなるため、疎遠な親族同士での分割に適していることなどがメリットとして挙げられます。
この方法の最大の問題は、それまで住んでいた人が住む場所を失ってしまうことでしょう。また、分割そのものに対して不平が起こりにくい一方、不動産を売却することに反対する人が出てくる可能性が出てきます。売却には当然法定相続人全員の合意が必要ですから、これまで住み続けてきた人が反対してできなくなる、というケースも十分に起こりえます。
しかし、住んでいた人が全体の遺産を相続できない以上、これは仕方がない方法でしょう。実際、こういった問題では相続人に弁護士がつけば、最終的には売る方法でまとまることが多いのです。
このように、4種類の方法にはそれぞれ一長一短な面があるため、法定相続人で、よく話し合ったうえで合意に達して、よい「落とし所」を見つけることが重要になってくるでしょう。
そのためにも弁護士に相談・依頼し、中立・専門的な立場からのアドバイスも踏まえながら話を進めていくことも必要でしょう。
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