相続手続

相続開始とともにすること(遺産の調査):残高証明書について弁護士が解説します

相続が発生した場合、被相続人の預金状況を正確に把握する必要があります。その際に必要になるのが金融機関から発行される残高証明書です。相続人なら請求でき、その際には必要書類を用意する必要があるほか、口座名義の死去が確認された段階で口座が凍結されるなど注意点もあります。

1. 残高証明書とは?注意点と発行方法

財産の相続が発生した際には、相続制の申告にでも遺産分割にも、被相続人の遺産を正確に把握・確定することがまず求められます。それをもとに遺産分割、あるいは遺産分割のための協議が行われるわけです。場合によっては、しらなかった遺産が発覚することもあります。

遺産協議が行われた後に新たに遺産が発見されると、新たな遺産分割が必要になるので再度トラブルが発生する恐れもあります。

そんな遺産の調査・確定において重要な役割を担っているのが残高証明書、つまり金融機関にあずけてあった相続人の残高がどの程度だったのかを、証明する書類です。預金はもっとも簡単に分割できる遺産のため、とくに正確さが求められます。3人の相続人に平等に分割したつもりがじつはもっと多くの預金があり、1人の相続人がその分を手に入れてしまう、といった問題も起こりうるからです。

どうしてそんな問題が起こるのか?それは預金通帳で正確な確認ができない可能性があるからです。例えば、被相続人が最後に記帳した後に多額のお金を入金・出金した場合に通帳の金額と実際の金額との間に大きな差が生じてしまいます。そこで、正式な遺産の証明書として残高証明書が必要になるのです。

故人の銀行口座の扱いではいろいろと面倒なことが多く、葬儀費用などを預金で賄おうと思ったけれども親族ではお金を下ろすことができなかった…といった問題もしばしば起こります。この残高証明書の発行においても同じような問題が起こるので注意しましょう。

残高証明書を入手するためには金融機関に請求することが、必要です。その際には金融機関は、口座の名義人の死亡を確認したうえで口座の凍結を行います。他人が故人のキャッシュカードを使って勝手に引き出すのを防ぐためです。これが、先述したように相続人が故人の預金を引き出せなくなる原因でもあります。

これは当然と言えば当然の措置ですし、遺産分割のトラブルを防ぐ意味でも大きな意味があります。被相続人と同居していたなどキャッシュカードや暗証番号を入手できる立場にいた人が遺産の確定が行われる前に多額のお金を引き出して自分のものにしてしまうのを防ぐことができるからです。凍結することで相続人が預金を下ろすことができなくなるだけでなく、それまで口座から引き落としをしていた各種料金の支払いもできなくなりますから、公共料金などを凍結されていた預金から引き落とす形になっていた場合、その支払いが滞っていろいろと面倒なことになってしまう恐れも出てきます。この点に関しては残高証明書の請求をする前にチェックし、口座が凍結されても問題が生じないようにして、請求することが重要です。

なお、例外的なケースとして葬儀費用など故人をめぐる出費でどうしてもお金が必要になった場合には預金の引き出しができる制度があります。民法909条の2による払い出しです。あくまで例外的なケースではありますが、直接金融機関に相談する必要があります。

この制度についてはこちら記事もご覧ください。

https://ben5.jp/%E6%B0%91%E6%B3%95909%E6%9D%A1%E3%81%AE%EF%BC%92%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F/

残高証明書の請求そのものはそれほど面倒ではなく、直接口座がある金融機関へ赴いて窓口で請求することができます。請求の際には口座名義人との関係を証明する戸籍謄本、相続人の実印・印鑑証明書などの必要書類が必要になります。不安な場合には、あらかじめ金融機関に問い合わせをしたうえで準備しておくとよいでしょう。残高証明書1通につき、数百円程度の手数料がかかります。

被相続人が、複数の金融機関に口座を持っていた場合、当然それぞれの口座ごとに残高証明書が必要になります。そうなるとどの金融機関で口座を持っていたのかを確認する作業も重要になってくるでしょう。ひとつ見逃してしまうだけでも遺産の状況に大きな違いが出てきますし、それがトラブルに発展する恐れも出てきます。個人の銀行口座の利用状況はたとえ同居している家族であっても完全に把握するのが難しい面もあります。被相続人の遺品をよくチェックし、通帳を探し出す作業を念入りに行っておきたいところです。普段頻繁に取引をしていた金融機関以外に「こっそりと」お金を貯めていた「隠し口座」のようなものもあるかもしれません。

もうひとつ口座について注意したいのは一つの金融機関に複数の口座(預金)を持っていないかどうかです。普通預金と定期預金など複数持っているケースもあるので全体を把握することも重要です。この点に関して金融機関ではすべての預金の残高を合計する「名寄せ」という手続きを行っているので、それで預金の全体像を把握できます。

そのほか被相続人の金融機関の利用状況を確認する方法としては金融機関の書類を見つけたら銀行に直接問い合わせてみる、税務申告の書類がないかどうか、そこに金融機関の名前が記載されていないかを確認するといった方法もあります。

厄介なのはネット銀行をはじめとした通帳がない口座があることです。ペーパーレス化の推進によってネット銀行のみならず多くの金融機関が紙の通帳を発行しないケースが増えています。場合によってはキャッシュカードすらないケースもあります。その場合は見つけるのが非常に困難です。方法としては被相続人のメールをチェックして把握した口座のリストに入っていない金融機関からのメールが届いていないか、パソコンやスマホ、タブレットに銀行のアプリケーションがインストールされていないかどうかを確認するなどが挙げられます。

2. その他残高証明書をめぐる、知っておきたいあれこれ

残高証明書は、「遺産を確定するため」の作業です。手続きそのものはそれほど面倒なこともなく、費用がかかるということもありません。ただ、全ての口座について行うことが何よりも重要なため、必ずしっかりと行うようにしましょう。金融機関ごとに請求の手順や必要書類などに若干の違いが出てくることもあるのであらかじめ確認しておくのが確実かもしれません。この段階で弁護士に依頼する必要は必ずしもありませんが、遺産調査の段階で、遺産相続全般のことを考えて早めに依頼してこの点でもアドバイスを受けておくのもよいかもしれません。

そのほか残高証明書と遺産相続において知っておきたい点として「遺産額の確定は被相続人が亡くなった日」を基準にするということです。先程、少し触れたように被相続人の死後に相続人の誰かが勝手に引き出すという可能性もあるからです。そのため、残高証明書においても被相続人である亡くなった人の残高を基準に発行してもらう形となります。例えば、被相続人が亡くなった後に、記帳を行ったら、亡くなった人の残高証明書との間で金額にズレがあった場合には(各種料金の引き落としを除いて)何か、他の相続人などの近親者によって、不正利用や使い込みが行われた可能性が出てきます。

もうひとつ、現在の超低金利ではあまり大きな意味はもちませんが預金に対する利息についても知っておきましょう。定期預金について残高証明書を発行してもらった場合、元金の額が記載されます。そのため利息分を正確に把握できない可能性もでてくるのです。その場合には残高証明書に加えて「経過利息計算書」も発行してもらいます。預金の残高が多い場合には、利息も無視できない額になるので気をつけましょう。

なお、被相続人が亡くなったときの預金の残高だけでなく、念のため過去の取引履歴を確認しておきたいので通帳がないなら、請求をしましょう。

例えば一部の相続人が、被相続人の亡くなる直前に多額のお金を引き出しておいた、といったケースも考えられますし、認知症で施設に住んでいた親の預金が、長男によって毎月100万円引き出されていたというようなこともあります。

そんな疑いがある時には、弁護士に依頼してその取引履歴を確認してもらうことがよいでしょうす。

相続開始前の使い込みは被相続人への不法行為の可能性があります。親族間でいろいろな事情がある場合には早い段階での依頼も検討してみる余地があります。当事務所では、相続財産の使い込みや不正利用について、無料相談を行っています。