被相続人が借り入れを残して亡くなった場合、その残高を相続人がどう扱うかが遺産相続・分割における非常に厄介な問題となってきます。しかもローンを組んでいた状況によっても残高の扱いが異なるほか、複数のローンを背負っていたかどうかでも判断が変わってきます。
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1. もらえるばかりとは限らない相続の落とし穴
ミステリー小説やサスペンスドラマの影響もあるのでしょう、遺産相続と言うとどうしても「相続人は財産を手に入れることができる」というイメージが強いものです。だからこそ親族(相続人)同士で争いが生じ、それがドラマのテーマになったりするわけです。
しかし、実際の遺産相続においては「もらえる」ばかりではなく、故人(被相続人)のローンや借金も相続しなければならないのです。このマイナス分をどうするのか?も遺産相続における重要なテーマになりますし、遺産分割の協議で意見が割れる原因にもなります。
とくによく見られるのが住宅ローンとかアパートローンが、残っている場合です。住宅ローンともなれば、30年以上にわたるものもありますから、完済しないまま亡くなってしまうケースも決して珍しくありません。相続人はこのローンをどう扱うのか、残高を故人に代わって支払わなければならないのか?といった疑問がでてくるわけです。
2. シチュエーション別のローンの相続対策について
実際に、ローンが残っている場合にはどのような解決方法があるのか?
実際に相続する状況になったときには、まずそのローンが、団体信用生命保険に加入したものかどうかを確認するのが大前提です。実際にご自身でローンを組んでいる方ならご存知かもしれません。住宅ローンのような長期間に及ぶローン商品の場合、万一名義人が完済前に亡くなった場合に備えて団体信用生命保険に加入するケースが見られます。
この場合、本人が途中でなくなった場合、この保険から支払われる保険金によってローンを完済することも可能です。
この団体信用生命保険は、万一名義人がローンの完済する前に亡くなってしまったときに残された家族が家を失うようなことがないように加入するのが主な目的であり、遺産の相続・分割においても重要な意味を持ってきます。つまり、この生命保険に加入しているローンなら、誰が遺産相続することになろうとも、被相続人に代わってローンの返済を続ける必要はなく、不動産をそのまま遺産として相続することができるのです。これが理想的な解決方法となるでしょう。
ここで注意したいのは、団体信用生命保険で住宅ローンの残高が完済された場合、通常は抵当権がそのまま残っていることが多いため、相続する際に抵当権抹消登記を行うことです。これは基本的には司法書士に依頼して手続きを行ってもらえます。当事務所でも司法書士がいますので、お手続きはできます。
もし、団体信用生命保険に加入していないローンの場合、相続した人が残高を支払う必要が出てきます。ここで問題なるのが「誰がローンの責任を負っているか?」です。多くのローンでは連帯保証人をつけたうえで融資が行われているため、基本的にこの保証人が代わりにローンの返済をする必要が出てきます。これが、大変厄介な問題になってくるのです。
例えば、連帯保証人が法定相続人に含まれない人である場合(共有持分者など)、被相続人の財産を受け取れないにも関わらずローンを支払わなければなりません。逆の立場からすれば相続人は被相続人の負債を肩代わりすることなく遺産だけもらえる、といったことになりかねないのです。これが、トラブルの種になることもあるので、連帯保証人も含めて話し合いが必要です。
もっとも、ローンの連帯保証人は親族、つまり相続人がなることが多く、完済前に被相続人が亡くなった場合、連帯保証人になっていた相続人が代わりに支払う義務を負うことになります。これもまた、遺産分割におけるトラブルのもとになりかねないわけなのです。
どんな問題があるかというと「連帯保証人の場合、たとえ相続放棄をしたとしてもローンの残高を支払う必要がある」ということです。通常の負債、つまりお金の借金や自分が連帯保証人になっていないローンの場合には相続を放棄することで返済の義務を逃れることができます。しかし連帯保証人の場合はそれができないのです。不動産の相続を放棄することと、連帯保証人としてローンの残高を支払う義務が生じることとは、別の問題として扱われるわけです。
3. 相続人は相続人は可分債務としてローンを負担するというルール
さらに気をつけておきたいのは、ローンは、債務の種類として「可分債務」であるということです。例えば、金銭債務として、1000万円を支払う債務があるとこれは数量的に分割することが可能な債務なので、可分債務とされます。
この可分債務が複数の債務者に帰属した場合、分割債務となり「それぞれ等しい割合で義務を負う」のが民法の原則なのです(民法427条)。相続人が4人いたら250万円の債務を相続とともに負うのです。つまり、相続により当然に相続人間に分割され、それぞれの相続人が法定相続分に応じた割合で債務を引き受けるのです。この制度により、機械的に債務者になってしまうので、連帯債務者と同じようにローンを支払う債務を負ってしまうのです。
なお、物の引渡債務(もっている絵を買い手に引き渡す義務など)や、サービスを提供する義務のような債務では、数量的に分割することはできないので、可分債務とされません。
4. 遺産分割における債務の扱い方
遺産分割において問題となる債務は、基本的には可分債務であることが多く、連帯債務になっていたり保証人がいたりします。相続人全員は(相続放棄した人はそもそも相続人になりません)債務を分割して負っており、原則として遺産分割の対象外ということになっています。すでに分けられているので、分ける必要がないという考えからです。
つまり、遺産分割協議では、預金・有価証券・不動産などを分けますが、債務については相続人全員が法定相続分に応じて平等に引き受けることになります。それをどう解決すればいいのか? この状況を十分に考慮したうえで遺産分割の協議を行っていく必要があります。親族間の関係がよい場合には、不動産は一人が相続して金融期間に借り換えを打診して、その相続した人が不動産ももらいローンも払うのが最も良い解決になるでしょう。
連帯保証人の相続人であれば、その人が、なるべく不動産を相続して借り換えをすることが良いでしょう。しかし、あまり良い関係にないような場合、不動産をどうしても欲しいというような人が出てきてうまく解決できない可能性もあります。
5. 遺産にどのような債務が含まれるかの見極め
そして、住宅ローンや自動車ローンなど額が大きなローン以外にも負債を負っていないかどうかも必ず確認しておきましょう。クレジットカードなどでカードローンを負っている可能性があるからです。それこそ財産・収入環境によっては複数のカード会社から合計数百万円の融資を受けることも可能ですから、確認しておかないと後になって多額の借金が判明してビックリ!ということになりかねません。
ローンをはじめとした負債を放棄したい(相続放棄)、あるいは一部だけ相続するにとどめたい場合(限定承認)、相続開始から3ヶ月内にその判断を行う必要があります。どうしても事情があってその期限内に判断できない場合は家庭裁判所に請求することで延ばすこともできますが、さらに面倒な手間が増えることになるのでできるだけ期限内に判断したいところです。そうなると早め早めの債務の認識・情報収集が求められます。
金融機関からの借金に関しては、信用情報機関に情報開示の請求をすることで確認することができます。銀行、クレジットカード会社、消費者金融それぞれに借入状況を確認できる信用情報機関があるので被相続人に借金の可能性がある場合にはこれらの機関を利用して確認するようにしましょう。言うまでもなく、問い合わせたらすぐに返答してくれるわけではありませんから、時間的に余裕も欠かせません。
そして、最終的にはローンの残高や借金といった「マイナスの遺産」と、預金や不動産といった「プラスの遺産」のどちらが多いかで最終的な遺産相続・分割の方法を決めていくことになります。マイナスの方が多い場合には(住宅ローンの連帯保証人になっている場合を除いて)相続放棄がもっとも簡単な方法と言えますが、一方で借金だけでなく遺産全てを放棄することになるのを忘れないようにしましょう。例えば、生まれ育って、故人と長い間一緒に暮らした自宅も放棄しなければならないケースもあります。
被相続人と同居していた場合、つまり相続人が継続してその家に住み続けたいと思っている場合にはローンの残高がある場合でもローンごと不動産を相続するという選択肢が十分にあるでしょう。これはローンの残高を「故人の借金」と受け止めないで、これまで故人が支払ってくれていたローンを、引き継いで家を受け継いでいくという位置づけに、なるでしょう。
このように、住宅ローンをはじめとする債務が残っている場合、遺産相続の手続きや話し合いが少々面倒なものになる可能性が出てきます。
ローンをどうするのか、相続財産ごと放棄するのか、あるいは、ローンは払ってしまって財産は売却するのか・・・・法定相続人が複数いる場合、意見が分かれてなかなか合意に達しないケースも出てきます。
ローンは、払い続けないといけませんから、迅速な解決が必要ですので、弁護士に依頼し、アドバイスとか、サポートを受けながら、もっとも理想的な「落としどころ」を見つけていくのがよいでしょう。ローンの支払いが停止してしまうと、大きな問題になるので気をつけましょう。
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