不動産の相続

アパート・マンション(収益物件)を相続したらどうなる?

アパートなどの収益物件が遺産に含まれている場合、それを相続するのか、するならどのような形で相続するのかという問題が出てきます。相続問題が解決するまで賃料をどうするのか・・・も問題です。相続した後に経営を続けるのか、経営を続けて収益が見込めるのか。相続後に後悔しないためにも慎重な検討と判断が求められます。

1. 経営まで引き継ぐ?収益物件相続の難しさとは?

不動産は遺産の中でもとくに資産価値が高く重要な部分と言えるでしょう。単に相続する人が多くの財産を手にすることができるだけでなく、それを巡って相続人同士でトラブルが起こりやすい、さらには「すぐにお金にならない」といった問題も出てきます。そんな不動産をめぐる相続の悩みの中でも、とくに近年増えていると言われているのがアパート・マンションなどの収益物件・賃貸物件の相続です。

不動産経営が資産運用、とりわけ定年退職後の収入の手段として注目されるようになったことで幅広い世代で行われるようになっています。そうなると、賃貸物件を経営していた人が亡くなり、相続人は物件だけでなく経営まで引き継ぐ必要も出てくる機会も今後は、どんどん増えています。

そのアパート経営の方法も「法人」が所有する形で保有することが、多くなっています。

不動産経営をやったことがない、興味もないという人がアパート・マンション(賃貸物件)を相続することになった場合にはどうすればいいのか?一般住宅の相続とはまた違う難しい面も出てきますので、ご説明します。

まず、ポイントとなるのが「アパート経営を引き継ぐか?」です。

家賃収入によってコンスタントに収益を挙げることができるのが不動産経営の最大の魅力と言われていますが、一方で、ローン返済もあり、空室リスクもあります。そもそも引き継いだとして収益を挙げられるのか?という問題も出てくるわけです。

かといってアパート・マンションは不動産経営をするための物件ですから、経営に興味がないからといってやめる、というわけにはいきません。経営をしなくても毎月多額の維持費がかかりますし、経営を続けても、管理に費用がかかるので赤字の不安も抱えることになります。ですから相続する場合には、誰かが賃貸経営を続けるか、続けないなら、相続したらすぐに不動産を売却、あるいは更地にしてしまうというような選択が必要になってくるのです。

さらに、判断が難しいのは「そもそも被相続人がうまく経営を行っていたのか?」です。場合によっては被相続人も赤字状態、あるいは経営があまりうまく行っていない状態だったかもしれません。そうなると、相続しても苦労ばかりが多くメリットはほとんどない可能性もありますし、まだその賃貸物件を購入する際に組んだローンが残っていることも多いので、これまでの故人の確定申告をよく分析する必要があります。

その上で、自分が賃貸物件を相続するかどうか、相続放棄するかは、経営状態や収益性、将来性はもちろん、他の財産の状況も把握したうえで検討しましょう。例えば、アパートだけでは赤字だけれども、他の財産を含めればプラスになる場合には相続した方が得になります。例えば、賃貸物件のローンがまだ残っている場合でも、他の財産でそれを完済したうえでまだプラスになるならメリットの方が大きいわけです。ですから、何億もローンがあると言うことで不安になるのではなく承継しても価値があるのかを見極めましょう。また、先ほども少し触れたようにローンが完済されていても、いなくても、不動産物件を相続したうえで売却するという選択肢もあります。ただこの場合、入居者はそのままで買ってもらうことになりますので、収益物件としての売却となります。そういった市場もありますので、値段次第ではローンも十分返済できます。

そして、相続するかどうかを決める場合、賃貸物件の収益性と将来性に着目し、アパート・マンション経営を引き継ぐかを判断することが重要です。例えば、財産よりもローンの残高や負債の方が多い場合であっても、賃貸物件の収益性が非常に高く経営を続ければ、順調に負債を完済することができそうな場合、相続した方が得になります。収益性や将来性は不動産経営を行ったことがない人にはなかなか見極めるのが難しい部分でもありますから、専門的な知識のある弁護士に相談をすることがよいでしょう。

なお、マイナスの方が大きい、賃貸物件を相続することで負担ばかりがのしかかる、という場合には相続放棄という選択肢も出ますが、相続を知ってから3ヶ月にしなければならないので、急いで決断が必要です。放棄するのは賃貸物件だけではなく、財産全体になりますから、本当にそれでよいのか、後になって後悔しないか、総合的に考えて判断することも必要でしょう。

2. 賃貸物件を相続する手順について

アパート・マンションが遺産に含まれている場合、まず、遺産全体を確認・確定することが大事です。先程も触れたように他の財産とのトータルで相続するか否か、相続するにしても経営を続けるかどうかなどを判断することになるからです。

遺言書があるかどうかをまず確認、そして遺言書から漏れた財産が普通はありますので、それもチェック、そして法定相続人の確定を行っていきます。この段階では、弁護士に依頼してアドバイスやサポートを受けるのが近道です。

ここまでできたら、賃貸物件をめぐる状況を調査・確認します。ローンは完済しているのか、担保にされていないか、あるいは被相続人の単独名義での物件かどうか。もしかしたら他の人との共有名義になっているかもしれません。その場合には、当然相続人たちが自分たちの意思だけで処分するわけには行かないので共有名義の人ともよく相談する必要が出てきます。登記簿謄本を入手して後でトラブルにならないよう権利関係について、しっかりとチェックしておきましょう。

そして、不動産の市場価値の確認も行っておきましょう。賃貸物件がどの程度の価値(あるいはマイナスの価値)を持っているかが、遺産分割にも影響を及ぼすからです。簡単に言えば賃貸物件がプラスの価値を持っているなら相続したい人が多くなり、マイナスの価値しかないならみんな相続したくないため、分割協議における重要なテーマとなるわけです。

賃貸物件の価値は、遺産分割の協議の行く末を左右する、重要な情報です。

遺言書がある場合にはその内容に基づいて遺産分割・相続が行われるわけですが、ない場合には遺産分割協議が行われることになります。上記のように賃貸物件が「良い遺産」だった場合には争奪戦のような形に、「良くない遺産」だった場合には押し付け合うような形になることもあります。また、賃貸物件の価値が大きい場合、相続人で共有することになることもあるので、その後の賃料の配分をだれがどうするか、修繕などの管理をだれがするか、管理会社をおくのか・・・といった問題がおきます。 

ですから、賃貸物件を「誰が相続するか」だけでなく、「どのように相続するか」という問題が出てくるのです。

換価分割や代償分割、さらには共有分割などの形で相続するケースででて、選択肢はいろいろありますがその分、解決も簡単でありません。

換価分割・代償分割するだけの価値があるのか?あるいは、共有分割をして賃貸物件を、複数人が共有して所有・経営するなら、今後仲良くできるメンバーでするべきです。争っている人ではあまりおすすめができない方法になります。共有相続とする場合、相続人全員が不動産経営をすると迅速にできないので、一部の相続人だけが管理などをするということもあります。経営が軌道に乗って収益を上げた場合、今度はその取り分を巡ってトラブルが起きないように分配ルールが明確になっている必要があります。

このように賃貸物件の相続にはいろいろと大変なことがあるわけですが、遺産分割が確定し、相続人が決まった場合には相続のための事務的な手続きを行うことになります。登記の申請を行い、被相続人から相続人へと名義変更を行うというものです。共有にする場合、複数の相続人が共有することになります。

名義変更の手続は、戸籍、住民票、物件の評価証明書なども取得したうえで行いますが、注意したいのはその際に登録免許税がかかることです。これが無視できない負担で、固定資産税評価額の0.4パーセント、賃貸物件なら数千万円程度の価値がある場合、登録免許税も数十万円レベルになることもあります。さらに、申請を司法書士に依頼した場合にはプラスその報酬も必要になります。

相続・名義変更してその物件が相続人のものになったら最後に相続税の支払いです。これが先述した遺産分割協議における争点になることも多く、相続が発生してから10ヶ月以内に納付する必要があります。難しいのは一般住宅よりも一般的に資産価値が高い賃貸物件の相続税分を相続人は現金で確保する必要があることです。この点も踏まえた上で相続できるのかどうか、するならどうやって相続税の資金を捻出するのかをあらかじめ検討しておくべきでしょう。遺産分割が終わらないうちに相続税の申告をしておく必要が出ることも多いので、適宜専門的弁護士や税理士に相談しましょう。