労働問題

不当解雇で訴えられたくない!企業を守るための就業規則作成と運用術

「従業員を解雇しなければならない状況になったが、不当解雇で訴えられてしまうのではないかと不安だ…」経営者や人事担当者にとって、従業員の解雇は非常にデリケートな問題ですね。近年、労働者の権利意識が高まっており、労働者のための弁護士もインターネットで探せばたくさんいますので、不当解雇に関する労働審判や訴訟は増加傾向にあります。

仮に、不当な解雇と判断されると、企業にとって長い紛争になりますので、不当解雇は多大な企業損失につながる可能性があり、安易に考えてしまうことはできません。そこでこの記事では、不当解雇を未然に防ぎ、企業を守るための就業規則作成と運用について弁護士松野絵里子が解説していきます。

具体的な記載例や運用上の注意点などを詳しく説明することで、経営者や人事担当者が安心して解雇に関する判断と手続きを進められるよう、サポートいたします。

1. 不当解雇とは?企業にとってのリスクを理解する

不当解雇とは、労働基準法や労働契約法に違反して行われた解雇を指します。従業員が「不当解雇」と主張してきた場合、会社は法的責任を問われる可能性がありますので、対応が必要になります。

具体的には、企業が払わないといけない可能性があるものは以下のようなものです。従業員から解雇無効の訴えを起こされ、裁判で敗訴した場合とか和解で終わる場合の支払い項目です。

  • 解雇期間中の賃金

解雇予告期間中は、労働者は会社から給与を受け取ることができます。解雇予告期間が定められていない場合は、労働基準法で定められた期間(30日以上)の給与を受け取ることができます。

解雇予告期間中に、労働者が病気や怪我で働けなくなった場合は、医師の診断書などを提出することで、解雇予告期間中の賃金を請求することができます。解雇予告期間中に、労働者が会社から解雇された場合、解雇予告期間分の賃金が支払われなければなりません。

  • 慰謝料

解雇が不当な場合、労働者は会社に対して慰謝料を請求することができます。不当解雇とは、労働者の非がないときに正当な理由なく解雇された場合を指します。例えば、年齢、性別、出身地、思想、宗教などを理由に解雇された場合、パワハラで解雇された場合などです。慰謝料の金額は、不当な解雇になった経緯や労働者の年齢・勤続年数、過去の収入、解雇後の事情などによって異なります。

  • 損害賠償

解雇によって労働者が損害を被った場合、会社に対して損害賠償を請求することができます。損害には、上記の賃金以外に、ショックで精神科に通った場合の費用、再就職活動にかかった費用などがありえます。よって、金額は、具体的な事情によって異なります。

また、企業のイメージダウンや従業員の士気低下、人事部などでこの問題に対応しないといけないことからくる人件費、弁護士費用など、上記支払いの金額のみではない、多様な損失が発生する可能性があります。

2. 不当解雇と法

不当解雇を判断する法的根拠は、主に以下の法律に基づいています。

労働基準法:解雇事由、解雇予告、解雇手続に関する規定

労働契約法:解雇の制限、解雇予告、解雇に関する協議、解雇無効の訴えに関する規定

これらの法律で、解雇は正当な理由に基づいて行われなければならないとされており、従業員に対して解雇予告や解雇に関する説明などが義務付けられています。

3. 会社にとっての不当解雇によるリスク

不当解雇は、企業にとって深刻なリスクを伴います。従業員が不当解雇と判断した場合、様々な法的措置を取ることができ、企業はその対応をしなければなりません。

1. 損害賠償請求(交渉)

不当解雇と主張された場合、従業員は会社に対して損害賠償を請求する交渉をしてきます。この賠償には、上記のような賃金、精神的苦痛、再就職活動に要した費用などが含まれます。企業は、これらの賠償金を支払うか検討して問題解決をしなければなりません。

2. 労働審判・訴訟の対応

従業員は、不当解雇に対して労働審判や民事訴訟を起こすことができます。労働審判は、簡易な手続きで解決を目指しますが、訴訟では長期間にわたる裁判手続きが必要となる場合があります。裁判の結果、企業が敗訴すると、従業員に対して損害賠償金の支払いや、解雇の無効確認などを命じられる可能性があります。また、和解で終える場合にも同じような支払いが必要です。

3. 企業イメージの悪化

不当解雇は、企業のイメージを大きく損なう可能性があります。差別やパワハラによる従業員の不当解雇などは、メディアに取り上げられることがあり、企業の社会的信用を失墜させる可能性があります。

また、従業員や顧客からの信頼を失うことにも繋がり、消費者を相手にするような企業では、ブランド価値を低下させる要因となります。

4. 人材確保の困難

不当解雇が多いと、企業にとって今後、優秀な人材を確保することが困難となる可能性があります。不当解雇の噂が業界に広がると、優秀な人材は、その企業への就職をためらう可能性があります。企業として、人材確保に苦労し、競争力を失う可能性もあります。

5. 従業員 のモラルの低下

不当解雇は、従業員の モラルを低下させる可能性があります。従業員は、自分の身分が不安定になり、会社に対する信頼を失う可能性があります。また、従業員の士気低下は、企業の生産性や業績悪化に繋がる可能性もあります。

よって、不当解雇は、企業にとって様々なリスクを伴う行為なのです。

企業は、解雇を行う際には、法的根拠をしっかり確認し、従業員とのコミュニケーションを十分に行うことが重要です。不当解雇のリスクを回避するためには、適切な人事制度を構築し、従業員との信頼関係を築くことが不可欠です。

4. 不当解雇の事例

不当解雇とは、労働者が正当な理由なく解雇された場合を指します。具体的には、以下のケースが挙げられます。

  • 正当な理由のない解雇: 会社都合による解雇で、労働者側に責任がない場合。例えば、会社の業績悪化や人員整理を理由とする解雇で、労働者の能力や勤務態度に問題がない場合などが該当します。
  • 差別的な解雇: 年齢、性別、出身地、障害など、労働者の属性に基づいて解雇された場合。
  • 違法な理由による解雇: 労働組合への加入、労働基準法違反の告発、パワハラによる解雇など、労働者が法律的に保護されている行為を理由とする解雇や、嫌がらせのような解雇。
  • 手続き上の不備による解雇: 解雇予告期間、解雇理由の説明などが法令や労働契約に違反している場合。

不当解雇は、労働者の権利を侵害する行為であり、労働基準法によって禁止されています。不当解雇と判断された場合、労働者は上述のように、交渉をし、労働審判を起こすなどして権利を行使することができます。

5. 不当解雇を回避するには

不当解雇を回避するためには、以下の点に注意する必要があります。

  • 労働契約書をよく確認する: 解雇に関する条項が、法令や労働契約に合致しているかを確認しましょう。
  • 法令・就労規則を確認する: 解雇が法令や就労規則に合致した方法でなされているか確認しましょう。
  • 解雇理由が適切か確認する:解雇を求める担当者が言っていることが真実なのか会社として誠意をもって調査し確認しましょう。証拠も確認しましょう。

不当解雇は、労働者の生活に大きな影響を与える深刻な問題でありますから、労働者は、自分の権利を理解し、不当解雇から身を守るための対策を講じてくるでしょう。会社としてもそもそもそ不当な当解雇をしないように工夫をしておきましょう。

6. 不当解雇を未然に防ぐための就業規則作成

不当解雇を未然に防ぐためには、事前に適切な就業規則を作成しておくことが重要です。就業規則とは、会社と従業員の間の労働条件などを定めた規則であり、会社と従業員の双方にとって、労働関係を円滑に進めるための重要な役割を担います。

7. 就業規則に記載すべき項目

就業規則には、解雇に関する項目を明確に記載しておく必要があります。具体的には、以下の項目を盛り込みましょう。

解雇事由(明確に記載)

就業規則には、解雇事由を具体的に明記しておく必要があります。解雇事由が曖昧なままでは、会社が従業員を解雇する際に、不当解雇と判断されるリスクが高まります。解雇事由は、労働基準法や労働契約法で定められた範囲内で、具体的な事柄を挙げ、従業員が理解しやすいように記述することが大切です。

具体的な解雇事由の例は、以下のようなものです。

解雇事由詳細
業務上の重大な過失業務上の重大な過失により、会社に多大な損害を与えた場合
不正行為会社の財産を横領したり、会社の機密情報を漏洩したりした場合
勤務態度不良無断欠勤、遅刻、早退を繰り返したり、上司の指示に従わなかったりするなど、業務に支障をきたす勤務態度を続けた場合
会社の業務に著しく支障をきたす行為会社の業務を妨害したり、他の従業員とのトラブルを繰り返したりした場合
会社の経営上の理由会社が経営上の理由で人員整理を行う場合

ただし、「会社の業績悪化」などの抽象的な理由だけで解雇することは、不当解雇と判断される可能性が高いため、具体的な事由を明記することが重要です。

解雇手続きの規定

解雇手続きの規定は特に重要です。就労規則に入れておくサンプルです。

<既定のサンプル>

1) 解雇事由

以下のいずれかの事由に該当する場合、会社は従業員を解雇することができる。

  • 業務上の重大な過失または不正行為
  • 会社の業務に著しく支障をきたす行為
  • 会社の就業規則または労働契約の重大な違反
  • 業務能力の著しい欠如
  • 病気または怪我により、業務に就くことが不可能な状態が継続する場合
  • 会社が経営上の理由により、事業の縮小または廃止を行う場合
2) 解雇の手続き

解雇を行う場合は、以下の手続きに従うものとする。

  • 解雇事由の特定および証拠の収集
  • 従業員への解雇予告(期間は労働基準法に基づく)
  • 従業員との面談を行い、解雇事由の説明および意見聴取
  • 解雇の決定および通知
  • 解雇に伴う諸手続き(退職金の支払い、保険の解約等)
3)解雇の基準

解雇は、以下の基準に基づいて行われるものとする。

  • 解雇事由の客観的な事実確認
  • 解雇事由の重大性
  • 従業員の懲戒歴および勤務態度
  • 従業員への影響
  • 会社の経営状況

8. 解雇にいたるまでの担当者の注意事項

解雇は、あくまでも最終手段として行われるべきです。

よって、従業員との話し合いによる解決を優先しましょう。解雇を行う場合は、法律および就業規則に基づいて、適正な手続きと基準に従う必要があるので慎重さが必要です。

解雇によって従業員に経済的な困窮が生じるような場合、会社は可能な範囲で支援を行うことも考えましょう。解雇は、従業員の意向とは関係なく、会社が一方的に決定するものですので、法令に従って、理由が正当であるときにはもちろん、必要な場合もあります。

従業員の解雇に関する基本的なルールを明確にして、個々のケースにおいては、状況に応じて適切な判断をし、人事部門は弁護士との相談も密にする必要があります。

9. 解雇における忘れてはいけない重要な手続き

  • 解雇事由の通知
  • 解雇予告手当
  • 解雇の前の十分な手続きや協議
  • 解雇に関する記録の保存

10. 解雇予告・解雇予告手当について

労働基準法では、解雇予告の義務が定められています。解雇予告期間は、労働者の勤続年数によって異なります。就業規則には、解雇予告期間を明確に規定し、従業員が解雇予告期間内に転職活動などを行うことができるようにする必要があります。また、解雇予告手当の金額も明記しておくことが大切です。

11. 解雇に関する協議・救済措置について

解雇は、従業員にとって大きな人生の転換期となるため、会社は従業員に対して、解雇に関して協議をしたり、会社としての事情説明をする必要があります。就業規則には、解雇に関する段階的手続き・弁明機会などの措置に関する規定を盛り込み、従業員にとってもなるべく納得のいく形で解雇または合意退職となるよう、配慮する必要があります。

例えば、解雇前に、従業員に対して、

  • 解雇に至ったやむを得ない理由の説明
  • 解雇回避のための努力の提案(合意退職)
  • 転職活動のサポートの協議
  • 再就職支援

などを提供する規定を設けることも考えられます。

その際には、会社は、就業規則を守り、就労規則では以下を、気をつけましょう。

就業規則は、労働基準法に違反する内容を含めることはできません。労働基準法では、労働時間、賃金、休暇、解雇など、労働条件に関する様々な規定が定められていますが、就業規則を作成する際には、労働基準法の内容を十分に理解し、それを遵守することが重要です。そして、労働契約法は、労働契約に関する様々な規定を定めています。就業規則を作成する際には、労働契約法の内容を理解し、特に解雇に関する規定には注意が必要です。

12. 従業員の理解と就業規則

就業規則は、従業員が理解し、同意できる内容である必要があります。従業員に就業規則の内容を説明し、理解を得た上で、同意を得ることが重要です。

就業規則を作成する際には、労働基準法、労働契約法などの法令を遵守し、従業員に分かりやすい表現で記述することが大切です。また、定期的に見直しを行い、最新の判例や法改正に対応していくことが重要で、就業規則を作成しただけでは不十分なのです。

作成した就業規則を正しく運用していくことが、職場をよくし、不当解雇を回避するためには不可欠です。

13. 解雇理由があるのかの判断における注意

「解雇事由の解釈」は、労働契約法における重要なテーマの一つです。従業員を解雇する際には、正当な理由が必要であり、その理由が法律的に認められるかどうかが争点となることがあります。そのため、解雇事由の解釈は、労働者と使用者双方にとって非常に重要な問題となります。

解雇事由は、正当な場合とそうではない場合があります。

  • 正当な解雇事由

労働契約法で認められている解雇事由であり、使用者に解雇権が認められます。例えば、業務上の重大な過失、会社の業務遂行を著しく妨げる行為、会社の信用を失墜させる行為などが挙げられます。

  • 不当な解雇事由

労働契約法で認められていない解雇事由であり、使用者に解雇権は認められません。例えば、従業員の年齢、性別、出身地、結婚、妊娠など、業務遂行能力と関係のない理由による解雇などが挙げられます。

解雇事由の解釈は、個々のケースによって異なるため、法律専門家に相談することが重要です。労働者側と使用者側の双方が、それぞれの立場から詳細な状況を説明し、適切なアドバイスを受けることが大切です。

さらに、解雇事由の解釈には、以下の点も考慮する必要があります。

1)解雇の理由の具体性: 解雇の理由が具体的に示されているか、曖昧な表現ではないか。

2)解雇の理由の正当性: 解雇の理由が客観的に妥当なものか、個人的な感情に基づいているものではないか。

3)解雇の必要性: 解雇によって得られる利益が、従業員への損失を上回るのか、他の手段では解決できないのか。

4)解雇の手続きの適正性: 解雇の手続きが法令に則って行われているか、従業員に説明がなされているか。

解雇事由があるかの解釈は、複雑な問題であり、使用者には特に慎重な対応が必要となります。法律専門家のアドバイスを得ながら、それぞれの会社の就業規則に記載された解雇事由を、客観的に判断し、正当な解釈をすることが重要です。解雇事由の解釈に疑義がある場合は、事情を説明して弁護士に相談し、法的根拠に基づいた判断を下すようにしましょう。

そして、解雇ができるとなった場合、その手続きを考える必要があり、就業規則に定められた手順を厳格に遵守する必要があります。手続きを省略したり、不備があったりすると、不当解雇と判断される可能性が高まります。解雇手続きは、法的根拠に基づき、透明性と公平性を保って行うようにしましょう。そして、解雇予告は、上記の通り労働基準法で定められた期間を守らなければなりません。解雇予告期間を短縮したり、予告せずに解雇したりすることは、不当解雇と判断される可能性があります。また、解雇予告手当も、就業規則に定められた金額を支払う必要があります。

14. 懲戒処分との連携

解雇事由に懲戒事由が含まれる場合は、懲戒処分との連携を図ることが重要です。懲戒処分は、従業員が会社規則に違反した場合に、会社が取る措置です。解雇前に懲戒処分を検討する場合には、懲戒事由が就業規則に定められていること、懲戒処分の手続きを適切に実施していることなどを確認する必要があります。

15. 解雇に関する記録の保存

解雇に関する記録は、将来、解雇の有効性を争う際に、重要な証拠となります。解雇に関するすべての記録を、正確に、かつ、詳細に保存しておく必要があります。記録には、以下の内容が含まれていることが望ましいです。

  • 解雇事由
  • 解雇手続き
  • 解雇予告期間
  • 解雇に関する説明と協議の内容

記録は、少なくとも解雇後5年間は保存しておくことをお勧めします。

16. よくある質問

解雇事由に「会社の業績悪化」は書けますか?

「会社の業績悪化」は、解雇事由として一般的なものですが、抽象的な表現であるため、不当解雇と判断されるリスクがあります。従業員が解雇された場合、「会社は本当に業績悪化に悩んでいたのか?」「従業員は解雇を回避するためになにかできることはなかったのか?」などの疑問が生じることがあります。そのため、解雇事由に「会社の業績悪化」を記載する場合は、具体的な状況や従業員への説明などを明確にしておく必要があります。例えば、「特定の部門の売上減少」「人員削減による経費節減」など、具体的な事由を記載し客観資料を見せて、従業員が理解しやすいように説明する必要があるでしょう。

解雇予告は必ず必要ですか?

労働基準法では、解雇予告期間が定められています。解雇予告期間は、労働者の勤続年数によって異なります。解雇予告期間を守らない場合は、解雇は不当と判断される可能性があります。ただし、労働契約法では、解雇予告期間を短縮できるケースも定められています。例えば、従業員が会社の重大な秘密を漏洩した場合や、会社に多大な損害を与えた場合など、特別な事情がある場合には、解雇予告期間を短縮することが可能です。しかし、短縮する場合でも、短縮できる期間は法律で定められているため、注意が必要です。解雇予告期間は、労働基準法や労働契約法の規定をしっかりと確認し、適切な期間を守ることが大切です。

就業規則の見直しはどのくらいの頻度で行うべきですか?

就業規則は、労働基準法や労働契約法の改正、社会情勢の変化などによって、見直しの必要が生じることがあります。判例法も積み重なっていきます。

一般的には、年に一度程度は、就業規則を見直すことを推奨します。特に、解雇に関する規定は、最新の法律や判例を反映して、常に最新の状況に対応しておく必要があります。就業規則の見直しを行う際には、弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。

17. まとめ

不当解雇リスクを回避することで、安定した経営を実現しましょう!不当解雇は、企業にとって大きなリスクとなります。適切な就業規則を作成し、運用することで、不当解雇のリスクを回避し、安定した経営を実現することができます。この記事で解説した内容を参考に、自社の就業規則を見直し、不当解雇対策を強化しましょう。

当事務所では、企業の就業規則作成、見直し、運用に関するサポートを行っております。不当解雇のリスクを回避し、従業員との良好な関係を築きたいとお考えの企業様は、お気軽にご相談ください。