会社設立と経営

株式会社の取締役の義務とは?忠実義務は善管注意義務と同じか?

1. 委任契約上の義務

取締役は、取締役としての高度な「注意義務」を負っています。

取締役会設置会社以外の会社では、業務執行者・代表者となりますし、取締役会が設置された会社では取締役会の構成員となり、そして代表取締役・業務執行取締役としてその職務を遂行する場合もあります。

このような責任のある立場の取締役の行動規範として、「会社に対し善良な管理者としての注意義務」を負っています(民法644条)。これは「善管注意義務」と言われます。民法の委任契約における委任者の義務と同じものです。

2. 会社法上の義務(忠実義務)

これとは別に、取締役は、法令・定款を守り、株主総会決議を遵守して、会社のため忠実にその職務を行わなければならないという義務が会社法上あります(会社法第355条)。この義務は「忠実義務」といわれています。

この「忠実義務」は、取締役に対して個人的利益のために会社の利益を犠牲にしてはいけないという内容です。いつでも会社の利益のために誠実に行動することをしなければならない義務です。

3. 学説の立場と最高裁の考え

学説では、取締役の善管注意義務は、「取締役が職務を遂行するに当たって用いるべき注意の程度を定めるもので、忠実義務と善管注意義務はその性質・適用範囲が異なるという説があります。

一方で、受任者の善管注意義務を定めている民法644条はそもそも「忠実に」

の文言を入れることを予定していたが入っていないだけである、忠実義務の会社法第355条だけが取締役に対して個人的利益のために会社の利益を犠牲にすることを禁じているのではなく、委任契約上の義務でも同じような決まりがあると解するべきだという、考えもあります。この考えは、「善管注意義務」からも取締役は会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ってはならない義務を負っていると考えるのです。

最高裁判所は会社法355条に該当する平成17年改正前の商法254条ノ3)について「同法254条3項民法644条に定める善管義務を敷衍し,かつ一層明確にしたにとどまるのであって~.通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の,高度な義務を規定したものとは解することはできない」としましたし(八幡製鉄政治献金事件・最高裁 大判昭和45・6・24民集24巻6号625頁)。

つまり、両者は同様のものであるというのが最高裁の立場です。