夫婦共有の財産を分ける財産分与の際に、場合によっては公的年金以外の年金が夫婦共有の財産として見なされる場合があります。離婚時の年金の取り扱いについて正しい知識を持つことは、離婚協議を進める上でも大切です。ここでは弁護士が説明します。
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1. 離婚したら年金はどうなるの?
離婚をするためには、離婚届を提出する前に夫婦で話し合いの場を持ち、離婚後の生活に関わる様々なことを取り決めます。その中で離婚後の暮らしに大切なのがお金の問題です。
夫婦の互いの財産を分け合うことを財産分与と言います。財産分与の対象となるものとして、互いの貯金や、家やマンションなどの住まいはわかりやすいため、ほとんどの方が最初に思い浮かべるでしょう。しかし、年金については財産分与の対象になるのかどうか、即答できる方は少ないのが現実です。実は、年金の種類にもよりますが、年金も財産分与の対象となり得る場合があります。
2. 公的な 年金分割制度について
離婚時に年金を分け合うことのできる制度として、公的な年金の分割制度というものがあります。この年金分割制度は、平成19年4月から導入が開始された制度で、結婚生活中に支払った分の年金保険料を夫婦の共有の財産と考えて、支給される年金を離婚した夫婦で分割するという制度です。
この制度は、離婚した後の両者の生活が同じ水準になるように配慮することを目的としており、基本的には支給額が多い方が少ない方へと分割するという流れになります。財産分与とは別の制度です。
これは特に、専業主婦(主夫)などの正規雇用では無かった方に対する離婚後の生活の救済として大きな効果を発揮しています。なぜならば、専業主婦(主夫)の方は、パートナーが外で働いている間、家の家事全般をこなし、その労働は収入にはつながっていないものの、財産形成への貢献が仕事をしているパートナーと同等と考えられます。しかし、この年金分割制度が導入される前は、外で働いている方にしか公的年金が離婚後支払われず、もう片方は年金を受け取ることができないという不平等な状態になっていました。こうした不平等を解消するという目的でこの制度が導入されたことで、熟年夫婦が離婚したとしても、その後の生活水準をある程度同じものにすることができるようになり、離婚が増えたようです。
年金分割制度についてポイントは、年金分割には対象になる年金と対象にならない年金があるということです。
年金分割の対象となるのは、公的な年金である厚生年金もしくは共済年金です。そのため、国民の基礎年金として設けられている国民年金や、厚生年金基金や国民年金基金などは、分割の対象外となります。そして、2人の財産と見なされるのはあくまでも結婚生活中に納付した分だけということになりますから、将来的に受け取る年金の半分を受け取ることができるというわけではありませんので、注意しましょう。
3. 年金分割には2つの制度がある
年金分割制度における年金の分割方法には2種類の制度があり、それぞれ仕組みや要件が異なります。離婚を検討している方は、自分はどちらの制度を利用すれば良いのかを事前に把握しておきましょう。
3-1. 合意分割
これは平成19年の4月から導入された年金分割制度で、その対象となるのは、被保険者の種別を問わず、離婚した夫婦のどちらか一方になります。合意分割制度を適用するためには、その名前にもある通り、当事者となる夫婦間での合意が必要となります。そのため、どちらかが合意を渋った場合は、家庭裁判所を通して分割割合などを決定する必要があります。合意分割において分割の対象となるのは、前述の通り、結婚生活期間中に納めた分で、それにはこの制度が導入された平成19年4月以前も含まれます。また、分割上限は。最大でも2分の1までとなっていますが、裁判所の判断では2分の1が認められるのが通常です。
3-2. 3号分割
3号分割制度とは、合意分割制度の1年後である平成20年の4月から導入された年金分割制度で、その対象となるのは離婚した夫婦のうち、第3号被保険者となります。こちらの制度は合意分割と異なり、夫婦間の合意は必要ありません。年金分割の対象となる期間は、平成20年4月以降の結婚生活期間中の第3号被保険者であった期間のみで、それ以前は対象期間に含まれないため、注意が必要です。分割の割合は2分の1となります。
第3号被保険者とは、夫が会社員や公務員でその妻として扶養されてきた人が典型例です。
正確には、第2号被保険者に扶養されている配偶者の方で、原則として年収が130万円未満の20歳以上60歳未満の方(年収130万円未満であっても、厚生年金保険の加入要件にあてはまる方は、厚生年金保険および健康保険に加入しているので、第3号被保険者ではありません)。第2号被保険者とは、厚生年金保険や共済組合等に加入している会社員や公務員の方です。
3-3. 合意分割と3号分割の違い
合意分割と3号分割を比較した際に見える大きな違いは、合意の有無と分割割合についてです。合意分割は夫婦両者の合意が必要となるため、家庭裁判所での分割割合の決定が必要となります。合意分割の場合、分割割合は最大で2分の1ということになるので、その範囲内で金額は前後します。その点、3号分割の場合は、2分の1と決められています。
年金分割はこの上記の制度のどちらかを使用して行いますが、年金分割の手続きが終了した後は、分割してもらう側のパートナーが再婚したり、死亡したりしてしまった場合であっても、分割された年金はきちんと受け取ることができます。
4. 年金分割の手続き方法
それでは、年金分割の手続き方法について具体的に見てみましょう。
4-1. 合意分割制度の場合
年金事務局にて手続きを行います。年金を受け取る側が1人で手続きを行う場合は、請求者の年金手帳と年金分割の分割割合が書かれた離婚公正証書、そして結婚生活の期間を証明するための戸籍謄本が提出書類として必要になるため、予め準備しておく必要があります。夫婦揃って手続きに行く場合は、離婚公正証書は不要になります。
4-2. 3号分割の場合
こちらはすでに分割の割合が2分の1と決定されているため、分割された年金を受け取る側が1人が年金事務局に行くだけで、手続きが完了します。提出する書類は合意年金と同様に、請求者の年金手帳と結婚生活の期間が証明できる戸籍謄本となります。
4-3. 請求期間
このように、どちらの年金分割制度の場合でも、年金事務局で手続きを行います。年金分割制度を利用して年金を請求できるのは、原則として離婚が成立した次の日から2年間となっています。この2年間を過ぎてしまうと分割請求を行うことができなくなってしまうため、離婚が成立する前の夫婦間の話し合いの段階で、きちんと合意し決着をつけておくか、平成20年4月より前に結婚生活期間が有る場合、裁判所への申立てをすぐにしましょう。
5. 分割した年金の受け取り時期は?
年金分割制度の手続きが終了したとしても、すぐに分割した分の年金を受け取ることができるというわけではありません。分割した分の年金を受け取ることができるのは、自身の年金受給が開始された時です。そのため、自身の年金が最低限の受給要件に満たず、受け取れないという場合は、年金分割によって分割された分の年金も受け取ることができないため、注意が必要です。
6. 年金分割の対象ではない厚生年金基金や企業年金はどうなるか?
夫婦であった時期に払った企業年金の保険料支払には夫婦が貢献していたと考えられるので、企業年金も財産分与の対象となります。 貯蓄性のある生命保険などの保険料も同様に考えられており、年金型の保険であれば、解約返戻金のうち、同居期間に対応する部分は財産分与の対象になります。個人年金(保険会社や銀行で販売されている保険商品)も同様に財産分与の対象になり解約返戻金のうち、同居期間に対応する部分を分けます。
厚生年金基金・国民年金基金も、財産分与の対象として扱うことになります。 基本的な考え方としては、確定給付企業年金、確定拠出年金も同様に退職金のように扱い財産分与の対処になります。こういった企業年金は、一般企業が従業員の在職中には従業員のために積立て、退職後に年金として支払うものであり、婚姻期間中にそれぞれが稼働して稼ぐことができたのは、夫婦の協力・貢献があってのものと考えるため、婚姻期間中に掛けられた掛金は共有財産の一部として評価するのです。
大阪家庭裁判所の令和2年9月14日の財産分与申立事件では、企業年金基金及び確定拠出年金を有していたとされ、別居時(平成27年9月30日であって財産分与の基準時)の積立残高から婚姻開始時の積立残高の差額をも計算して、分与対象財産と認めています。
厚生年金基金については年金分割制度のなかった時期の下記判例が参考になります。年にいくらもらえるかを計算してそれを一時金払いの金額に修正して計算をしています。現在の実務もこれに習っていると思われます。
原告と被告が厚生年金及び厚生年金基金から老齢年金を受給することは明らか(弁論の全趣旨)であるといえるところ,係る年金については,婚姻継続中の原告と被告とが相互に協力して生活してきたことによって残された財産的権利と解すべきであるから,離婚に際しては財産分与により清算するのが相当というべきである。
しかして,甲第26号証及び弁論の全趣旨によれば,原告の平成16年4月分からの厚生年金保険からの受給額は年額65万9300円であること,甲第27号証及び弁論の全趣旨によれば,原告の厚生年金基金からの年金受給額は平成15年4月1日(受給権取得日)から年額117万1700円であること,甲第11号証及び弁論の全趣旨によれば被告の厚生年金基金からの年金受給額は平成12年4月から年額136万2500円であることがそれぞれ認められる。これに対し,被告が受給する厚生年金保険からの年金受給額については,原告は年額224万9800円であると主張するのに対し,被告は年額158万2298円であると主張しているところ,本件全証拠を検討しても被告が受給する厚生年金保険の給付額を客観的に示す証拠は提出されておらず,その正確な金額については不明であるというほかないが,被告が同年金を受給することは明らかであることからすれば,本件における財産分与の算定に当たっては,これを年額200万円として計算することとする。
そうすると,原告が受給する年金の額は厚生年金,厚生年金基金からのものを合計すれば年額183万1000円,同じく被告が受給する年金の合計額は年額336万2500円となるので,それぞれその2分の1に相当する金額について分与の対象となると解するのが相当である。
そうすると,原告については92万円(千円以下四捨五入),被告については168万円となり,その差額である年額76万円について清算の必要があるものと認める。
<中略>上記の清算金を現時点における一時金として支払う方法で清算することが合理的であると解される。そうすると,被告は,現在65歳であり,その平均余命を17年とみて,これに対応するライプニッツ係数(11.274)を乗じて中間利息(年5パーセントの割合)を控除すると,上記一時金の額は合計857万円(千円以下は四捨五入)となる。
7. 年金分割で不明な点は弁護士に相談しよう
年金分割に限ったことではないですが、離婚時の話し合いの中でトラブルに陥りやすいのがお金の問題です。合意分割のように夫婦両者の同意が手続き上必要になる場合、当事者同士だけでは解決できないという場面も出てきます。合意ができないなら、裁判所への申立てが必要です。
そんなとき、頼りになるのが弁護士です。
弁護士は交渉のプロですし、きちんと納得できるようなプランを第三者の視点から提案することができます。実際、離婚協議がこじれたときに弁護士に相談した結果、円満に早く解決したというケースがたくさんあります。肉体的にも精神的にも疲弊しやすい離婚では、判断力や思考力が鈍ってしまって疲弊して悪循環になりやすいので、余計な言い争いで互いがより傷つく前に、離婚を意識したら早い段階で、弁護士に相談することをおすすめします。