夫婦の間に生まれた大切な子。立派に育てていくため、今まで以上の努力が必要なのに、パートナーが育児に全く参加しない。離婚を視野に将来を考えている人は少なくありません。実際に弁護士事務所に寄せられる相談を元に、どう動くべきか考えていきましょう。
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1. 育児放棄とは
親には、子供が生まれた瞬間から、子供を育てる義務が生じます。衣食住の保証は勿論、普通教育を受けさせる義務も含まれます。日本では中学校までを義務教育と呼びますが、あれは子供が通わなくてはならない義務ではなく、親が子供に受けさせなければならない義務のことです。子供の視点で言えば、中学校までは通うことが出来る権利です。国連法でも、子供の権利条約という4つの条約が定められており、これらの権利を子供から奪う行為を育児放棄と言います。
2. 育児放棄の定義
育児放棄とは、具体的にどのような事を言うかご存知でしょうか。厚労省では、次のように定められています。
2-1. 身体的虐待
主に、子供の体に直接害を与える虐待を言います。殴る、蹴るといった暴力。子供を激しく揺さぶる。部屋に縄で繋ぎ監禁するなどです。泣き止まない子供を揺さぶって死なせてしまったというニュースをよく耳にしますが、首が座っていても非常に危険な行為です。普段はついていけないくらい元気な子供であっても、大人が思うよりデリケートです。遊びであってもやらないようにしてください。
2-2. 性的虐待
性の部分で虐待を行う事を性的虐待といいます。子供へ性行為を行う。親や他人の性行為を見せる。性器を触る、触らせる。ポルノ写真や動画の被写体にするなどです。近年では、水着で隠れる部分をプライベートゾーンと呼び、親子間であっても気軽に触れるべきではないと言われています。
2-3. 心理的虐待
上記二つが身体的な虐待で、心理的虐待は直接的な暴力や接触はなく、子供の精神を蝕む行為です。必要以上に大きな声や強い口調で怒る、脅す。呼びかけられても無視する。他の兄弟姉妹と差別する。他の家族への虐待を見せるなどです。つい忙しくて子供の問い掛けを聞き流してしまう経験は誰しもありますが、それが慢性的になると心理的な虐待となってしまいますので気をつけましょう。
2-4. ネグレクト
育児放棄を指す英語です。本来の意味は無視すること、怠ることですが、育児放棄の意味で使われるようになったのは最近のことです。家から出さず誰にも会わせない。成長に必要な最低限の食事も与えない。入浴や着替えをさせず不潔にする。車内に放置して出かける。病気になっても医者に診せないなどです。車内に放置して死なせてしまう事件が後を絶ちません。子供は体が小さい分、体内の水分量も少ないため、大人より熱中症になるリスクが高いです。スーパーに寄るほんの数分だけであっても、車内に残すのはやめて連れていくようにしましょう。
3. パートナーが育児放棄をしていたら
あってはならない事ですが、もしパートナーが上記のような虐待、ネグレクトを行っているのなら、何か行動を起こさなくてはいずれ子供の命に関わるかもしれません。すぐ離婚できればいいのですが、残念ながら育児放棄を理由に離婚する事は難しいです。しかし、全く手がない訳ではないので、まずは育児放棄が日常的に行われている証拠を集めましょう。
3-1. 日記をつける
いつ、何処で、どのような事が行われたかの日記を付けます。例えば、〇月×日△曜日□時頃、夫が子の右側頭部を叩いた。たんこぶは出来ていないが、大泣きしている。といったように、具体的に書きます。この時、ついオーバーに書いてしまいそうになりますが、起こったことだけを書くようにしましょう。無視などだけでなく、入浴した日時を書いておけば、前回からの間隔がわかるようになります。
3-2. 写真を撮る
子供が傷つけられたり、癇癪を起こしたパートナーが壁に穴を開けたりしたら、それの写真も撮影しておきます。子供に与えられる食事が少なすぎるなどの問題があるなら、食事も撮影しましょう。スマホのカメラで構いません。この時、地上波のテレビが入るように撮影すると、時間的証拠ともなり得ます。
3-3. 録画・録音をする
日記も重要な証拠となるのですが、実際の音声や映像があるとより有効です。しかし同時に、リスクが高い行為とも言えます。隠しカメラもどんどん小型化が進み、パッと見ただけでは全く分からないように設置できます。どれだけ厳重に隠していても、ある日突然見つけられてしまう事があります。いざ見付かってしまうと、虐待がエスカレートしてしまうことも有り得ますので、十分に注意しましょう。
3-4. 公的機関・第三者へ相談する
日記や写真の証拠が不十分の状態であっても、相談はしましょう。出来れば市役所の福祉課などの、公的機関へ行って下さい。相談料が無料なだけでなく、いつ頃からどんな事に悩んでいて、何回相談があったかの記録を残していってくれます。状況が劇的に変わる働きは期待出来ませんが、簡単なアドバイスも貰えますし、より相談者の要件に合うところを紹介もしてくれます。注意点は、人目があるということ。近所の人や職場の人に見られる可能性があります。パートナー本人に見つかる危険もあるので、最初は電話で相談してみるのがいいでしょう。
4. 証拠を揃えたらまずは弁護士へ
理由も証拠も完璧に揃えた、これでやっと離婚できる。実は、そう簡単な話ではありません。あくまで優先されるのは子供ですので、どれだけ自分が子供のために尽くしてきたかではなく、今後この子にとって一番幸せな事が何であるかを、最優先に判断されます。相手の育児放棄の証拠を集めても、必ずしも理想の結果が得られるとは限らないのです。そこで頼りになるのが弁護士です。ひと口に離婚といっても、決めなければならない事が沢山あります。自分に有利に進めるには、プロの力が必要不可欠です。争点になる代表的なものをいくつかご紹介します。
4-1. 子供の親権
子供の為に離婚をするのに、子供の親権を奪われたのでは意味がありません。一般的には育児放棄した方が親権を失いますが、財産や生活能力に問題があると判断されれば、相手側に渡ってしまう可能性も有り得ます。養育費の問題もあり、子供の将来に大きく影響がある部分ですので、ここだけでもしっかり話を詰めておきましょう。親権を失った親でも、定期的に面会できる権利があります。合わせたくなくて拒否する場合は、相応の理由が必要になりますので、ここも弁護士によく相談しておきます。
4-2. 財産分与
結婚してから築いた財産は、二人のものですので原則的に折半となります。ただ財産にも種類があり、例えば家を購入していた場合は、家を分けるという訳にはいきません。その時はどちらかが家を取り、どちらかがお金を取るといった手段になります。他にも車や有価証券、年金なども財産に含まれます。
4-3. 慰謝料
パートナーから直接暴力やハラスメントを受けていた場合は、自分への慰謝料を請求します。それとは別に、子供が虐待で受けた怪我や精神的な苦痛についても慰謝料を請求できます。子供が未成年であれば、法廷代理人という形で請求します。この時に必要なのが虐待を受けていたという証拠です。日記や写真などが存分に威力を発揮しますので、弁護士に全て見せて作戦を練りましょう。
5. 子供の安全を最優先しましょう
夫婦2人だけの問題であれば、比較的すんなり離婚できるケースが多いです。しかし子供が絡むと一気に問題が難しくなってしまいます。離婚を決意してから成立するまで、何年もかかってしまう事もあるため、自分のメンタルもケアしなければなりません。子供を守れるのは自分だけという感覚は、戦う大きな力となりますが、時に自分を追い詰める諸刃の剣である事を理解しておきましょう。また、暴力がエスカレートし、命の危険がある場合は、即座に実家や友人宅、市のシェルターに避難しましょう。悲しいことに男性が駆けこめるシェルターは極端に数が少ないですが、諦めずSOSを発してください。